ケイケイの映画日記
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2012年02月12日(日) 「ドラゴン・タトゥーの女」

う〜ん・・・。私の好きなスウェーデンの「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」のハリウッド版リメイクで、監督が現在ノリノリのデヴィット・フィンチャーなので、とっても期待していました。でも収穫は薄かったなぁ。手堅くまとめてはいるのですが、ただそれだけの印象です。

スウェーデンの社会派雑誌「ミレニアム」に勤めるジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ」は、大物実業家の不正告発の記事を、名誉毀損で訴えられて、社会的地位を失いかけています。そんな彼に大財閥のヴァンゲルグループの会長ヘンリック(クリストファー・プラマー)は、40年前殺された姪のハリエットの事件の真犯人を捜索するよう依頼します。複雑な事件に、手がかかると思った彼は、自分の身辺を調査したリスベット(ルーニー・マーラ)を助手として迎えいれます。

オープニングは出色です。予告編で御馴染みになった「移民の歌」が流れる中、黒くドロドロした液体で描く画面は、鬱蒼として複雑に絡み合うこの作品の世界観を、見事に表現していて秀逸でした。これは期待出来ると踏んだのですが。

最初はサクサク、猛スピードでハリエット事件までたどり着きます。ちょっとダイジェストを観ているようですが、スウェーデンの耳慣れない名前が覚えづらいのは米国人も一緒なのでしょう、これは正解だと思いました。

以降はほとんど元作と同じ。まとめ方は上手いのですが、内容がペラい。元作の原題は「女を嫌う男たち」。スウェーデンの社会問題である、女性への暴力や人権蹂躪が、サスペンスな展開の奥のテーマでした。その事に屈せず挑んだ象徴が、リスベットであったわけです。




しかしアメリカ版はこの辺りがとっても希薄。例えば、とある人物にリスベットは報復しますが、元作では本当に胸のすく思いがしました。そこには復讐や異常者の行動と言う意味合いはなく、立場や男女の差ではなく、人間としてあんたと私は対等なんだよと、強烈に感じさせたからです。元作のリスベットを演じたのはノオミ・ラパス(画像上)。西欧人としてはとても小柄で華奢。作中、ブスだ発育不全だ、挙句の果ては娼婦になっても誰も買わない、などど失礼極まりない言葉が、あちこちで吐かれていました。でも彼女は何事にも屈しない。頭脳明晰で運動神経にたけた、とても自由で強い優秀な女性です。孤高の気高さの中に見せる痛々しさも謎となり、すっかり彼女に魅せられたもんです。普通なら保護されるような背景を持つ女性が、インテリ男性(ミカエル)を守った事に、同性として私は感激したんですよ。こんなヒロイン観たことなかったから。

対する今回のリスベットは、背景の挿入もわずかで、自ら異常者だと相手を恫喝する。それは本心ではなく、脅迫めいた意味合いであることはわかりますが、リスベット・サランデルは、そんな姑息な真似をしなくったって、卑怯な奴らには互角で戦えます。報復相手に、「あの日の事が気になっていた」と語らせる、一片の情を見せる演出も不要です。益々リスベットの行動が行き過ぎに思えちゃう。ミカエルに心寄せる描写も、あれでは説明不足。優秀ではあるけど、本当に心が壊れて歪になった女性に感じるのです。それは私の愛するリスベットじゃないんだなぁ。リスベットはとても尖った女性ですが、それは彼女が自分を知っているからこその行動で、決して欠陥のある女性ではありません。ルーニーは、とても頑張って演じていたと思います。監督の意図するリスベット像は、ルーニー版なのでしょう。

ダニエルのミカエルは良かったです。カッコ良く腕の立つ役柄の多い彼が(なんたってジェームズ・ボンドだしな)、誠実でインテリながら、女性に守られるひ弱い男性を演じて大丈夫か?と危惧していました。でも今回は公私とものパートナーであるエリカ(ロビン・ライト)との不倫関係を強調しており、離婚した妻との間の娘も登場、そしてリスベットの恋心も全面に出しており、彼くらい色男でなくちゃ、納得できませんて。

普通の猟奇的な謎解きサスペンスでした。フィンチャーらしさは、暗く意味ありげな孤島の様子を映す映像美には感じましたが、それ以外は、いつもの背後からひたひた押し寄せる心理的な怖さは、今回はありませんでした。ラストは元作と違います。そして押し花の謎は今回スルーでしたが、あれは意図的?次につなげる気がないなら、これは痛恨のミスです。フィンチャーがそんなヘマ、するわけないか。とにかく元作にあった虐げられた女性の叫びを感じなかったのと、リスベットの解釈の違いが、私の不満の元です。外国作品をリメイクすると、こういう部分は描かれにくですね。

今作単体で観た方は、解りやすいし、それほど問題はないかも。両方観た方は、巷の風聞では元作に軍配が上がっています。


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