ケイケイの映画日記
目次過去未来


2011年11月17日(木) 「マネーボール」




子供の頃野球を観るのが大好きでした。小学校の四年生頃からです。その頃テレビ中継と行ったら巨人一辺倒で、中継は時間が来たら終わり。でも関西地方のUHF局にサンテレビと言う局があって、阪神主催の試合は全試合完全放送を謳っていたわけ。事実「死のロード」と言われた夏の甲子園が開催されている時は、西京極球場の試合も中継しました。我が家のテレビにアンテナをつけ、家族でそれを観ているうちに、わ〜、野球って面白いなぁと、女の子なのにのめり込みます。阪神にまだ江夏や田淵がいた時代です。どうも私はオタク体質なもんで、その頃から「週間ベースボール」を毎週買い、巨人は嫌いなのに「ミユキ野球教室」を日曜日は楽しみに観るという生活が始まります。当然阪神の試合は全部観る。土曜日は近鉄や阪急の試合も観る。実家はスポニチなんぞも取っており、オタク気質に拍車をかける毎日が高校くらいまで続きました。当時はすごかったですよ、12球団全てのスタメンが言えちゃったりしたもん。この作品は、2000年代初頭の大リーグが舞台なのに、意外とその当時の日本のプロ野球にリンクする部分があり、何だか郷愁を感じながらの鑑賞でした。内容も味わい深く、知的なスリルに満ちた展開の秀作でした。監督はベネット・ミラー。

2000年初頭の大リーグのアスレチックスは、長らく低迷している弱小球団。経済的にも困窮しており、補強にお金は使えません。GMに就任したビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は元大リーガーでしたが、大成せずに引退した過去を持ちます。球団の改革を考えるビリーは、独自の理論を持つイェール大で経済学を学んだピーター(ジョナ・ヒル)を、インディアンズから引き抜き、自分の片腕とします。ピーターの理論とは分析を重ねた独自の統計による確率。こんなものは野球ではないと、スカウトや監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)に却下されますが、自分を貫くビリーは、GMの名において、独善的とも思えるチーム作りをしていきます。

ピーターの理論である確率を元にする野球は、大昔の阪急ブレーブスの野球に似ています。強いけど華やかさに欠け、観ていて面白くない。そして名選手はいても、突出したスタープレーヤーがいない。巨人が王のホームランのなら、阪急は福本の盗塁ですから。選手の年俸も少なかったはずです。安く外人を取るのも上手くてね、3Aの選手を連れてきてモノにする。マルカーノなんか、長く働いたいい選手でした。当時の阪急は、そりゃ強かったもんですが、それでも全然人気がなくてね。それを大リーグでやるんですから、負ければバッシング必死。で、当初アスレチックスはフロントと現場が噛み合わず、負けばっかり。選手の編成はビリーが強硬にしましたが、試合ではビリーの指示を無視して、監督は自分の采配をします。監督は監督なりに、自分の信じた野球があるわけで、ビリーの言う確率野球なんて、ふざけた話なんですね。

高額な契約金で、「5拍子揃った(打つ守る走る、容姿に性格)期待の選手」と鳴り物入での入団だったのに、ビリーは大成しませんでした。今も昔も短気で激情型の男で、打てなくてダグアウトで物に当たり、三振してはバッドをへし折り。しかしかつての回想場面で、酒や女に溺れる姿は、一度も出てきません。彼なりに必死で頑張っても大成しなかったと言う意味だと、私は取りました。ピーターに「かつての自分を君が評価したら?」と問うビリー。ピーターは「ドラフトで9位指名、契約金はなし」と答えます。身をもって素質や素養・背景のあやふやさを実感しているビリーが、ピーターを信じたのは、ドライで優れたビジネスマンであるとの立証だと思いました。

観ていて私が痛感したのは、大リーグは本当にビジネスなんだなと言うこと。花形選手で活躍していても、「トレードだ」と言われれば、呆気に取られても口答え一つせず、荷物をまとめます。降格させられる選手も同様。懇願したりしない。その事を危惧するピーターのシーンも出てくるので、彼らがこれほど自分を「商品」だと認識しているとは、一般のアメリカ人も知らないのかも?見事なプロ意識です。その他高額なお荷物選手は年俸の半分をつけて放出、そうすればお金の損益は半分で済み、どうしても欲しい選手はトレードにお金を付けて獲得、来シーズンは利益を付けて「売ろうと」する。大リーガーは日本の選手よりトレード歴が多いですが、なるほど、こうなっていたのか。いやはや、本当にシビアです。

最終手段で監督を追い込んだビリーの作戦が功を奏して、投打が徐々に噛み合ってきたアスレチックスは、快進撃を驀進します。ここにトレードが入り試合の場面が入り、コンバートされた選手の心情などが挿入され、個人的にはサスペンスを観ているくらい、心臓が鳴ります。実際に試合を見ている時の感覚に似ていました。

もう一つ当時の日本球界を彷彿とさせたのは、怪我や高齢で他球団でポンコツ扱いされた選手の再生で、これは当時南海でプレイングマネージャーだった、あの野村克也がやっていた事です。見事再生された選手の代表が江本孟紀。私は野村は嫌いですが、今頃彼のやっていた事を目の当たりにして、先見のあった人なんだと感心しました。

勝てば官軍、統計野球の快進撃に世論も付いていきますが、「この好調には、幸運も混じっている」と言うアナウンサーの言葉が印象的。それを象徴するような出来事に、再生選手・ハッテバーグの意外な働きを持ってきたのには、人情も感じます。野球はやはり意外性のあるスポーツで、市井の人々の心に夢を運ぶものだと感じました。

苦い過去を常に振り返り続けるビリー。その姿は自警とも心の疵とも取れます。短気で自我が強く、でも人に対して必要不可欠な礼節は保つ彼。「商品」としての辛さは、彼が一番知っているのです。大リーグの持つ華やかな夢と冷徹なビジネスの溝に、一番葛藤があったのが彼自身だと伝わります。

ビリーはドライでシビア、しかし生身の人間の温かみを感じさせます。離婚していて、今なお元妻や娘と友好な交流があります。生き甲斐や妻子を守るのではなく、心の支えにしている様子は、過度にホームドラマ的なウェットさに流れず、スパイス程度でグッド。この男に家庭の匂いは似つかわしくないです。実際のブラピは6人の父親となり、円熟味を感じさせる演技が今回素晴らしいです。幸せそうな妻子の様子は、彼の男としての格も上げています。

忘れちゃならないのが、ピーター役のジョナ・ヒル。おデブちゃんで人の良い彼のクレバーな姿は、きっと文系のオタク系男子の評価アップに繋がるかも?野球は良く知るものの、やった事のない人間の意見が的を得ていたというのは、何だか痛快じゃないですか。見事は片腕ぶりでした。他にはホフマンが登場のシーンから、どこから見ても大リーグの監督@オッサン系に仕上がっているのを観て、びっくり。彼の持つ優れた演技力を発揮する場面は少なかったですが、やっぱり抜群の存在感でした。

ラスト、ビリーの選択は、「このGMとしての最高額の契約金こそ、あなたの結果だ」と言う助言とも意見とも取れる、ピーターの一言が決めたと思います。思えばあんなに強かった阪急の監督だった西本幸雄は、一度も日本シリーズで優勝したことがありませんでした。阪急を辞めてすぐ、近鉄の監督になったときは、本当にびっくりしたけど、監督は監督の夢を追い続けたのでしょう。ビリーはビリーで、ビジネス哲学としての夢を追った選択は、ファンからも浪花節的に感じられて両方満たされるものです。やっぱり野球には夢が必要不可欠と言うことです。このラスト、本当に素敵です。

野球は私より知っているはずの夫の感想は、意外や「ようわからん、眠かった」そうで、なら別に野球が好きじゃなくても面白いかな?と思います。逆説的過ぎるかしら?私には今年ベスト10入りする作品になりそうです。


ケイケイ |MAILHomePage