ケイケイの映画日記
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2011年08月16日(火) 「ツリー・オブ・ライフ」




公開前に職場で、「『ツリー・オブ・ライフ』って、どんな感じ?」と聞かれました。「好きな人には生涯の傑作で、ダメな人には拷問のような映画と思う」と予想を述べたワタクシ。まぁ〜開けてびっくり、予想はぴったしカンカンじゃございませんか。巷で言うほど難解で高尚な印象は受けませんでしたが、私の肌には合いませんでした。てか、多分それが大多数。今回は肌に合わなかったモンのレビューです。
監督はテレンス・マリック。カンヌ映画祭でパルムドール受賞作です。

成功した実業家のジャック(ショーン・ペン)は、自分の育った家庭に想いを馳せます。1950年代半ばのアメリカ。成功して金を得ることが人生の一番の重大な事だと、息子に教える厳格な父(ブラッド・ピット)。慎ましく夫に従い、子供たちには精一杯の愛情を与える優しい母(ジェシカ・チャスティン)。二人の弟と共に、愛情に育まれて成長していくうち、様々な葛藤を抱えていくジャックですが・・・。

昨日は炎天下の中、遠目の銀行二つに行き、帰りはスーパーで買出し。帰宅後ちょっと休憩して昼食を取り、またチャリで15分のラインシネマに向かい鑑賞でした。出だし10分ほどで、荘厳なクラシック音楽が流れる中、画面は火山が噴火したり溶岩が流れたりの、地球の成り立ちを映す描写へ。当然寝落ち。ふと目覚めると恐竜が何かしていました。まだ寝てもOK!と判断し、再び寝落ち。大変気持ち良く眠りから覚めたところ、長年鍛えた映画的本能のおかげか、ちょうどドラマ部分が始まるところ。時間にして30分程でした。

ドラマの内容は、音楽家に成りたかったのに挫折し、実業家としても中途半端に終わった父親が、自分のようにならないように、息子たち、とりわけ長男に強く人生観を押し付けます。そんな夫を受け入れ、温かく家族を見守る母。そして反抗期。それが美しい画面と共に、淡々と描かれます。もう本当に淡々。でもこれは悪くない手法で、こういった男親と息子のハードボイルドな関係は、誰でも多かれ少なかれ思い当たるもので、自分の生い立ちと重ね合わせ易いと思います。要するに平凡な家庭なのですね。

特別なエピソードもなく、躾に厳しい父親との食事はまずかろうなぁ〜、でも男として腕っ節も大事と喧嘩の仕方を教え、時々は笑顔で遊んでくれる。独善的で世俗的だけど、良い父親だと私は感じました。母も心映えの美しさが表面ににじみ出る人で、とても好印象です。しかし繰り返しますが、本当に淡々。ハイ、それで?と言う気になる。掘り下げは出来るのだけれど、面白くない。世俗的な者を父、神の恩寵を受ける者として母を描いていますが、この辺もキリスト教がわからないので、曖昧にしか意味が感じ取れません。

我が家がリアル三兄弟なのがいけません。どうしても比べちゃう。父親が帰宅すると火が消えたようになり、いなくなると、母親と息子三人が盛り上がると、こんなところは一緒です。この作品、シネコンの拡大公開ですよね?シネコンに来る観客は娯楽としての映画を求めているので、こういうところを、もっと工夫して見せて欲しいんじゃないかなぁ。

例えば食事のシーンで「重要なこと以外は話すな」と言う父親に息子たちが刃向かうシーン。緊迫感が走りますが、辛気臭く終結。。うちの夫は「子供を躾る時は、親は自分の事は棚に上げる」「男は外で一生懸命頑張っているので、仕事で疲れて妻や子にあたるのは当然」と言う、男にとって夢のような価値観の家庭に育っているので、うちの夫と比べたらブラピなんか、辛気臭い事を除けば、本当に普通の良き父親です。テーブルもひっくり返さんしな。

常に夫を理解しようと努める妻も、たまには逆上し、夫に歯向かいます。よしよしと思った私ですが、えっ?これで終わりですか?の顛末。私なんか、このようなシチュエーション多数で、ブチっとキレてしまった時なんか、気が済むまで暴れたのになぁ。だいたい息子から「お母さんはお父さんに見下されているじゃないか」と、侮辱めいた暴言を吐かれて、ただ苦渋に満ちて見守るだけでどうする?下の毛も生えてないような年頃ですよ、見守るなんてもっと後、思春期くらいです。私はこんな時、「どの口がそんな生意気言うんや!」と、往復ビンタでしたもんです。観るなら我が家の方が面白いと感じる人も多いはず。

以上は私の個人的な違和感ですが、三男の扱いが雑。男兄弟はライバルになったり親密になったり、その葛藤も多いものですが、三人いれば誰かが潤滑油になるはずです。うちの場合は三男です。焦点は主に長男、次に次男で、三男はほとんどなし。三人兄弟にする意味がないです。

出演者は大変に良かったです。ブラピは中年の父親の鬱屈と、息子たちへの不器用な愛情を好演。チャスティンは大変豊かで気品溢れる演技で、すっかり魅了されました。人間的な大きさまで感じさせます。劇中のお洋服もみんな素敵で、それもポイント高し。子供たちは悪ガキめいた事をしでかしても気品を失わず、この両親の子だなと、充分感じさせてくれました。長男役の子の、怒れる眼差しも良かったです。ペンはそれほど印象に残っていません。

エンディングは大円団で、折しもただ今お盆で、この感覚は悪くないです。しかし美しいですが、徹頭徹尾淡々として辛気臭い作品です。ただ私に合わないだけで、気品も感じるし、こういうテイストを好む人の気持ちもわかります。だけど私のように映画館通いが仕事のような人間なら、それなりに作り手の言いたい事を感じようとしますが、映画を年に数本しか見ない人にとっては、何が言いたいのかさっぱりわからないと思います。

どう見ても、シネコンで拡大公開の作品じゃないでしょう?ミニシアター鉄板の作品です。だいたいカンヌでパルムドールって、だいたいがミニシアター公開ですよね?それがブラピ&ペン共演の家族ものだから拡大公開って、本当に配給元さん、映画観てるんですかね?PRの重要ポイントは、「監督、テレンス・マリック」だと思いますが。ちなみにネットを除く私の周囲で、マリックを知っている人はいません。

内容を紐解くのに重要なポイントで、キリスト教の教義が何度も出てきます。私は表層的にしかわからないので、この点はなんとも言及出来ません。深く反芻してみるのには、もってこいの作品です。しかし普通の映画ファン&たまに映画見る人には、そんな気にさせてくれないと思います。私は下世話な娯楽作が好きなのだと、つくづく思い知る作品となりました。テレンス・マリックの信者さんにだけ、お薦めします。


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