ケイケイの映画日記
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2010年03月22日(月) 「プリンセスと魔法のキス」(字幕版)




お友達のvertigoさんが一大キャンペーン中の作品。気にはなっていたので、それでは!と観てきました。1920年代のニューオーリンズを舞台に、有名な「かえるの王子」をモチーフにしながら、伝統と新しさを上手くミックスして、大人から子供まで楽しめる、堂々のミュージカルアニメ。監督はジョン・マスカーとロン・クレメンツ。

貧しい黒人家庭に育ち、亡くなった父の夢を受け継ぎ、レストランを開くのが夢のティアナ。朝から晩まで夢の実現のため、働きづめです。ある日幼馴染で裕福な白人のシャーロットから、彼女の家でマルドニア王国のナヴィーン王子を招いて仮面舞踏会を開くので、ティアナ御自慢のベニエをたくさん作って欲しいと頼まれます。このお金でレストランが開けると張り切る彼女でしたが、あることから失意のどん底に。そこへ自分はナヴィーン王子だと名乗るカエルが一匹。彼は世界制覇を企むドクター・ファシリエの魔法によって、カエルに変身させられていました。プリンセスの格好をしたティアナを、本物だと勘違いした王子は、彼女にキスをせがみます。しかし魔法が解けるはずが、何とティアナまでカエルの姿に!二人は人間の姿に戻してくれる魔法使いママ・オーディーの元へ、旅に出ます。

懐かしい2Dアニメです。冒頭の風景や挿入されるジャズをベースにした歌が、一気に当時のニューオーリンズに連れて行ってくれ、ご機嫌な気分に。

冒頭幼い頃のティアナとシャーロットが映されます。貧富の差こそあれ、仲良く遊ぶ二人。しかし屈託なく王子様との結婚を憧れるシャーロットに対し、子供心にも懐疑的に思うティアナとの対比は、当時の白人と黒人の経済的な差を表わしていたと思います。

場面は鮮やかに変わって、夢の実現のため、働いて働いて働きづめのティアナが映されます。睡眠も削って恋もせぬ彼女を、ママは心配します。ここで私が注目したのは、ティアナが親しく付き合っている友人たちは皆黒人でしたが、白人のシャーロットの存在です。友情はまだ続いているようで、陽気でキュートな我がまま娘に育ったシャーロットですが、貧しいティアナにも常に対等。ティアナへ仕事としてベニエを頼む際も、金に糸目はつけませんが、きちんとした労働に対して、賃金を払うという姿勢で、憐みも蔑みもありません。それどころか、友達でしょ?頼むわよ〜という、ティアナに対する素直な甘えさえ感じます。この自然な描き方は、大昔の黒人と白人を描いて要る点を考慮すれば、画期的です。

二人がカエルになって以降の珍道中は、いつもながらの手慣れたディズニー調で、お子さんたち共々、安定して楽しめます。人間とセッションしたいのに、化け物扱いされて傷ついているトランペット吹きのワニのルイス、不器用だけど誠実で勇気あるホタルのレイも協力してくれます。王子は実は放蕩の限りを尽くし、王様からは勘当された身なのです。あきれるティアナですが、彼女もまた夢の実現のため、ワーカホリックである自分に気がつきません。ちょっと思ったんですが、この王様立派ですよね。実の息子なれど国民を守れる器じゃないので、王位は継がせないというこの気概は素晴らしい。どこぞの国の議員さんたちに聞かせたいわ。

アリとキリギリスのような二人が、破れ鍋に綴じ蓋風に、お互いに刺激し合って歩み寄って行く姿が微笑ましいです。一時の刹那的な快楽でしか自分を慰められなかった王子は、夢を語る時の生き生きしたティアナに憧れ、ティアナは根性無しの王子を教育的指導しているうちに、パートナーと共に歩む充実感を実感し始めます。特にティアナは、「パパは店を持つよりもっと大切な物を持っていたわ」という、ママの言葉には耳を貸しませんでしたが、パパの夢は愛しい家族のためだったのだ、店を開くだけが目的ではなかったんだと自ら悟る場面は、あざとさもなくとても感動的です。

紆余曲折を経て、どうなるか?ディズニーなのでハッピーエンドは間違いなしですが、そこへ行くまで主要キャラの哀しい死が待っています。しかしその昇華の仕方が素晴らしく、私は泣いてしまいました。黒人少女が主人公で有る点と共に、子供たちに現実を目の当たりにさせながらに、現実と共存しながらの夢も希望も忘れさせません。

現実と言えば、シャーロット。頑張る善良な黒人を描くと、白人のお金持ちキャラはとかく意地悪に描かれますが、シャーロットは常にティアナの良き友人です。大昔アーサー・ヘイリーの「ルーツ」がドラマ化された折、同じ様なシチュエーションの場面がありました。農場主の白人の娘と、主人公で奴隷のクンタ・キンテの娘キジー。幼い頃から共に育った二人は、大の仲良し。しかしキジーが同じ奴隷の黒人と愛し合い、逃げようとすると、白人の娘は密告するのです。奴隷たちから「あんないいご主人様はいない」と慕われていた農場主は、娘に「お前はそれで良かったのか?」と問います。娘は「当たり前よ。くろんぼうのくせに、私に逆らうからよ」。人格者ですが、規律は守る父親の落胆した顔を、私は今でも覚えています。キジーはペットで有っても、友人ではなかったのです。

このドラマから30年。当時は黒人の出演する映画は、黒人たちだけが観るため作られたものばかり。今では学校や会社で、当たり前のように黒人の同僚が描かれています。ティアナとシャーロットの自然体の友情は、「ルーツ」を覚えている私には、アメリカの現実は進歩しているんだと、とても感慨深いものでした。

リアリティを求めぬ2Dアニメの特性を生かして、動物たちと歌い踊るシーンや、魔法の場面も楽しいです。特にママ・オーディの魔法は、確かにプードゥー教なんですが、実写するとオドロオドロシイものが、とてもユーモラスで気に入りました。字幕版はティアナ役のアニカ・ノニ・ローズなど、実力派の歌声も本格的で、ミュージカル作品としても秀逸です。ちなみに友人が三歳の孫娘といっしょに吹替え版を観たそうですが、大変喜んでいたそう。春休み、お子さんたちと是非いっしょに楽しんで下さい。


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