ケイケイの映画日記
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2009年11月14日(土) 「風が強く吹いている」




すごく評判が良いので観てきました。それとザ・アスリート俳優林遣都が出ている事。「バッテリー」を初め、数作の体育会系作品のどの作品でも、彼が光っていると聞いていましたが、いずれも未見。将来有望株みたいなので、少年のうちに一作くらいは観ておこうと思ったわけです。期待値低めでしたが、これが本当に素晴らしい!もっと古いタイプのスポ根かと想像していましたが、新しいところ普遍的なところ入り混ぜて、徹頭徹尾清々しい作品です。監督はこれが初作の大森寿美男。

寛政大学四年のハイジ(小出恵介)は、陸上部青竹寮の寮長。しかし陸上部とは名ばかりで、部員はほとんど素人ばかり。しかし新入生のカケル(林遣都)に目をつけたハイジが、半ば強引にカケルを部に迎えた時、壮大なハイジの計画が発表されます。部員10人で箱根駅伝に行こうというものでした。

箱根駅伝を目指すということで、作品の3/4は練習・公式試合入り混じって、走る場面です。前半はハイジとカケル以外は、陸上素人ばかりの練習風景を映しますが、まぁこれくらいじゃ、あんまり苦しそうじゃないかな?しかし他のメンバーはいずれも他の体育会系出身ですが、一人だけ王子(中村優一)はスポーツはまるで駄目で、彼が足を引っ張ります。過酷な練習風景より、王子をやる気にさせ、みんなで王子を引っ張り上げようとするところに力点を置いて描いているので、これで良しだと思います。

意志の強さと人柄の良さで、圧倒的な求心力を保つハイジ。誰も本当に箱根に行けるとは思っていないのに真面目に練習するのは、全てハイジのため。確かに下心ありで、今まで寮の学生の面倒をみてきたわけですが、その一生懸命さと甲斐甲斐しさで、皆重荷ではない恩を感じているわけです。恩返しというより、自分達が練習することで、ハイジが喜んでくれるならと、感謝の気持ちで走るわけ。私はこの部分に目を見張り、心打たれました。

皆と仲良くやっているキングは本当は人と接するのが苦手。しかしこの寮の皆はいい人ばっかりで、ここが好きだと言います。その温かさ居心地の良さは、ハイジが作ったものでしょう。本当に箱根だけの思いで、ハイジは彼らの世話をしてきたのでしょうか?私は違うと思います。

寮生活をしてるということは、親元から離れているということです。ある者は親と断絶、ある者は母子家庭で母を楽させたいと司法試験に合格したのに、母はあっさり再婚。生きがいを見失っています。ある者は田舎では神童と呼ばれていたのに、都会に出てきてすごい連中ばっかりを目の当たりにして、挫折を味わうなど。子供ではなく、さりとて大人でもない年齢で、自分はいったいどうしたらいいのか?人生の路頭に迷っているときに提案された箱根駅伝。まずは大好きなハイジのために頑張ってみようという、彼らの素直な気持ちが、直球でこちらに届きます。

ハイジはかつて将来を嘱望されたランナーでしたが、足の故障のため断念。それで陸上部はあっても名ばかりの寛政大学を選びました。自らスカウトして連れてきた部員であるでしょうが、ハイジもまた彼らの背負ったもの、痛みに自分を重ね、思いやったきたからこそ、今まで世話できたのではないでしょうか。その心が、ハイジ自身をも成長させていたのでしょう。そして寝食を共にすることは、男の子なんですもの、喧嘩もあるだろうし、喜びも悲しみも共有するはずです。そこで積み重ねた絆の強さも感じるのです。

既存のコーチや監督から連想される抑圧的な部分はハイジにはなく、ひたすら褒めて励まします。そして部員が中傷されれば、仲間であれ他校の部員であれ、喰ってかかる。これは自分がして欲しかったことだったんだなぁと思いました。

駅伝を走る場面は、各々区間を走るのに適した人材を配置し、駆け引きがあるのだと解説してもらえ、なるほどと納得。走る姿が部員全員、様になっているので、区間区間に仲間が待ち受けていて労をねぎらう姿も清々しいです。

陸上競技は個人でするもので、常に自分との闘い、孤独なものだという認識がありましたが、こと駅伝に関しては、チームワークが大切だし、個人競技ではないんだなぁと痛感。自分との闘いであるのは変わりませんが、決して孤独ではなく、一人で走るより責任も重いのです。駅伝というものの見どころと値打ちが、後半とてもよくわかる描き方です。

挫折を経験したカケルの再生も自然に描いています。天才ランナーである彼ですが、刺激を受けたのが素人である他の部員であり、何よりも走る事が好きなハイジであるというのが印象的。そしてカケルの存在が、走ることへの意味や楽しさを他の部員に教えたと言うのも素敵な相互関係でした。

他校の部員も、それぞれ未熟な一年生と人格者の四年生を配置し、四年間やり遂げることで、人間として成長するような描き方も好ましかったです。とにかくとても気持ちの良い作品です。綺麗な涙を流して、スカッと出来ました。


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