ケイケイの映画日記
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2009年11月15日(日) 「なくもんか」




いやー、面白かった!泣いて笑ってとっても変で、すっごく楽しかった!軸は行き別れた兄弟の愛なんですが、多分ね、脚本のクドカンは、思いつきでいっぱい詰め込んで書いたと思うのね。それを監督の水田伸生が、上手に交通整理して散漫でない作品に仕上げたんだと思います(当社推測)。いつもながらの阿部サダヲのハイテンション演技を楽しみつつ、観終わった後は、オーソドックスな人情喜劇を楽しんだ印象が残ります。

働き者で究極の八方美人の下井草祐太(阿部サダヲ)は、8歳の時両親が離婚。引き取った父親(井原剛志)はとんでもないろくでなしな男で、身を寄せたばかりの旧知の惣菜屋の山岸夫婦(カンニング竹山・いしだあゆみ)から金を盗んだばかりか、祐太まで置いていきます。しかし優しい夫婦は祐太を実の娘徹子わけ隔てなく育て、二代目店主として、彼に店を譲ります。そこへ数年間連絡も取れなかった大デブ娘の徹子(竹内結子)が、信じられないスリム美女になって、祐太の前に現れます。そんな祐太の気掛かりは、別れた時母(鈴木佐砂)のお腹にいた赤ちゃん。勝手に弟だと思い込んでいる祐太でしたが、実は本当に弟で、今は赤の他人の大介(塚本高史)と兄弟と偽り、「金城ブラザーズ」として芸人になっている祐介(瑛太)こそが、祐太の実の弟でした。

あらすじ書いただけでも、かなりいっぱい。これにあれやこれや、そりゃ盛りだくさんに人生のワビサビが、織り込まれております。まずは不幸な生い立ちの兄弟の背景が哀しい。祐介は八方美人でいやと言えないお人好しとなることで、誰からも嫌われない、寄る辺ない身寄りの辛さから逃れようとします。それが大人になっても、ずーと続いているのです。祐太の方は、親戚をたらい回し、転校も繰り返すのですが、虐められない様に身に付けた術がお笑いでした。それで芸人になったのです。幼子からのこの処世術には、正直泣かされました。

この二人は再会を果たすも、兄弟としての思いに温度差があるのは当然で、祐太はコンビの大介に恩義を感じており、祐介の存在は迷惑だと言います。しかし段々祐太の心がほぐれてくるのですが、これが意外にもスムーズな展開。ていうか、この間に訳ありの徹子と祐太との結婚、徹子の内情、芸能界の内幕事情、コンビで片方だけが売れる悲哀、なさぬ仲の子との心の行き違い、一生懸命築いてきたものが、砂の城のように一瞬に崩れさる哀しさ、などなど。まだあったような。何だっけ?あった!エコだエコ!

あらん限り「人情」という枠に入れるもの、全部詰め込みました的脚本なんですが、これが不思議なことに、胃もたれしない。合間合間にクドカン流コントっぽいハイテンションなお笑いが、例のごとく連打されるのが、イイ感じに中和剤になっています。そして泣かせる場面の後は、クドカンが監督なら、照れ隠しのお笑いが絶対入って泣かせないはず。しかし水田監督はある程度間を取って、ホロッと泣かせてから次に行くので、悲劇も喜劇もちゃんと感情に残ります。下ネタもしかり。悪ノリせずに終わらせています。

阿部サダヲは今回も絶好調。堺雅人が笑顔で喜怒哀楽を表現する男なら、阿部サダヲは、ハイテンションで喜怒哀楽を表現する男だい!祐太のストレス発散方法なんて、前フリもないし唐突であり得ない設定なんですが、彼が演じると納得出来るから不思議。ちゃんとラストに繋げたのは、技ありでした。

才能もないのに売れてしまったお笑い芸人には、笑顔のない瑛太はぴったりだったと思います。不幸せはお笑い芸人になる条件の一つという、大介のセリフは意表を突かれ、この辺にクドカンの才気も感じます。竹内結子の名コメディエンヌぶりも印象的。いしだあゆみの間の良い演技も、ベテラン健在を感じました。懐かしい風情を醸し出した商店街や家の中の様子も良く、美術も見どころかな?

ゲロも汚物も変態的な場面もなし。あっ、ちょっとだけあったか?でも健全に楽しめる作品です。難を言えば、あのハムカツ、私にはそれほど美味しそうに見えなかったことくらい。クドカン脚本というより、水田監督の腕が光る仕上がりで、私はオススメしたいです。


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