ケイケイの映画日記
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2008年08月31日(日) 「アクロス・ザ・ユニバース」





実はこの作品の監督ジュリー・テイモアが苦手です。「ライオン・キング」などで鬼才の舞台監督として名を馳せてから撮った映画デビュー作「タイタス」を観ましたが、どーも鬼才過ぎてついていけず。作品の完成度は相当高いとはわかったんですが、「私ってすんごいでしょ〜、センス抜群でしょ〜、こんな才能、二人といないわよ〜ん」的ムードが充満していて、胸やけがしました。続く「フリーダ」は、ところどころ「才女よ〜ん」が顔を出すも、故郷メキシコの偉大な画家フリーダ・カーロを、渾身の演技で魅せたサルマ・ハエックに感激し、胸やけには至らず。そしてこの作品です。またまた「私ってすごいでしょ〜ん」的場面の続出に、白ける気分にはなったものの、全編流れるビートルズの楽曲の素晴らしさと、主演二人を始めとする出演者の瑞々しさと頑張りで、まずまず楽しませてもらいました。

1960年代のリバプール。造船所で働くジュード(ジム・スタージェス)は、まだ会った事のない米兵だった父に会いにアメリカに渡ります。ひょんな事から名門大学に通うマックス(ジョー・アンダーソン)と知り合ったジュードは、マックスの妹ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に惹かれます。今後のことで父親と対立したマックスは、ジュードを伴いNYへ向かいます。間借りした家は、セクシーな歌姫セディ(ディナ・ヒュークス)を初め、少し風変りなアーティストの集まりでした。毎日刺激的な日々を送る二人の元へ、恋人が戦死してしまい失意に沈むルーシーがやってきます。

ビートルズがとにかく凄いと感じるのは、時代・年齢・性別を超えて、誰もが曲を知っているということです。ミュージカル仕立てで、全ての曲はビートルズの曲であるこの作品は、大胆な試みではなく、実はアイデアだけで勝ったも同然だったんだとは、映画が始まってすぐわかります。

ゴスペル風あり、R&B風あり、ソウルフルあり。優しいバラードも熱唱型のバラードになっていたり、多彩なアレンジでとても楽しめます。アレンジの上手さもさることながら、これはビートルズの楽曲が如何に素晴らしいかの証明にもなるなと感じました。

前半は何にも問題なし。テイモア女史の才気も、この楽曲がこのダンスシーンにこんなにマッチするのかと、感心。私が特に好きだったのは、ビートルズで一番好きな曲「カム・トゥギャザー」にのせて、猥雑で刺激的なNYのダウンタウンを表現しているミュージカルシーンです。その他こった美術で表現された徴兵検査のシーンなど、そのまま舞台で使えそうでした。それが後半、段々雲行きが怪しくなります。

これでもかと繰り広げられるおサイケなシーンの連続は、当時のベトナム戦争反対の時に起こった、フラワーチルドレンのムーブメントを表現しているのだと思います。しかしこれが5分程度のミュージッククリップならともかく、洪水のようにあれこれ繰り出されては、もうゲップが出ちゃって。斬新さを求めるせいか、グロテスクな趣向も見られ、段々首を傾げてしまいます。

そこを救ったのが、若さの特権である政治への怒りや恋愛、才能の開花への苦悩など、青春の光と影の瑞々しさを描くストーリーです。深みのほども浅からず深からず、バックに流れるビートルズの名曲と上手く共存していました。

瑞々しさを更に協調したのが出演者たちです。主役のスタージェスとウッドは清潔感があり、汚らしい場所にいても決してそれが埋没しません。これが若さなんだなぁと痛感。他の出演者も、歌姫役ヒュークスの歌声が素晴らしかったです。

画像のデモ行進は、ベトナム戦争反対のデモです。こうして見ると、地球の苦悩は延々と場所を変えて続いてるのですね。それを音楽の教科書に載る、将来は立派な「クラシック作曲家」ビートルズで表現するのは、戦争反対の祈りも、永遠に続くと表現したかったのかなと、今感じています。


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