ケイケイの映画日記
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2008年08月13日(水) 「スカイ・クロラ」




10日から15日まで盆休みです。今年は姑の新盆なので何かと忙しい上、よんどころない事情で、夫は盆休み一日一回は仕事場へ顔出しと言う羽目に。うかうかしていたら、映画の一本も観られないので、優先順位下位の作品でしたが、10日の夕方、ちょっと時間が空いたので観てきました。押井守作品は、「攻殻機動隊」と「イノセンス」だけ。押井ファンからすれば浅い解釈でしょうが、私なりに咀嚼出来たし、映像のセンスも美しく、私とは相性の良い作家だとは感じていました。その感覚は今回も健在で、上記二つほどではありませんが、楽しませてもらいました。

世界的に平和が維持されている現代社会。人々は「ショーとしての戦争」を欲し、擬似的に民間会社が演出して利益を得ています。その会社の一つに所属する戦闘機パイロット、カンナミ・ユーイチ(声・加瀬亮)は、欧州のある基地に配属されます。ユーイチを含め、戦闘パイロットたちは全て「キルドレ」と呼ばれる少年少女たちです。「戦争」で命を落とさない限り、永遠に思春期のままで、配属先が変わる度に以前の記憶が曖昧になります。女性司令官クサナギ・スイト(声・菊池凛子)に惹かれるユーイチには、彼女がユーイチの前任者のジンロウを殺した、キルドレなのに子供を産んだなど、様々な噂が耳に入ります。連戦連勝だった彼らですが、”ティーチャー”と呼ばれる卓越した技術を持つライバル社のパイロットの出現で、苦戦を強いられます。

戦闘場面の映像が秀逸。たぶんCGと手描きアニメが合体していると思われますが、下手な実写より迫力があります。それと生死を賭けた戦いなので、迫力があるのは当たり前なのですが、戦闘機の流麗な姿、空の青さと雲の白さのコントラストは、もの哀しく美しいです。

キルドレは思春期なのに、始終煙草を吸う姿が強く印象に残っています。彼らは外見は大人未満ですが、酒を飲み煙草を吸い、セックスもします。彼らは配属先が変わる度に、操縦技術は覚えているものの、その他の記憶は曖昧です。しかし人とは経験で感情や思考が深まるものでしょう。おぼろげな記憶の積み重ねは、彼らを外見以上の大人にしているはずです。

ティーチャーは戦争に加わる者の中で、唯一の大人の男性です。「ティーチャーは大人の男だ」と、キルドレの男子たちが語る時、それ大人の男性に対する畏れを感じさせます。娼婦たちに嫌悪感を露わにするスイトや、「キルドレなのに、何故あの人(スイト)は子供が産めたの?」と憤る、女子パイロット三ツ矢(声・栗山千明)には、成熟した女性への嫉妬が感じられます。永遠の若さを持つ彼らの葛藤が、垣間見られる瞬間。成熟期を迎え、やがて老いるからこそ、青春時代が輝くものだとわかるものです。思考は段々成熟していくのに、感情のコントロールは子供のままのキルドレたち。常に死と隣り合わせのまま、「不安定な怒れる若者」の時代だけを生きなければならない彼らに、とても哀れを感じました。

スイトは優秀なパイロットであったが故、8年もの長きに渡り、この地にとどまっています。「死ななかった」と言う事です。大人の8年はあっと言う間ですが、思春期の、それも多数の「若き死」を見つめてきた8年は、壮絶な長さであったでしょう。感情を滅多に露わにしないスイトの謎めいた様子は、この8年に作られたものなのですね。

このショーは、平和しか知らない民衆が、自戒の為に編み出したものです。国と国との戦いであった戦争が、企業と企業にすり替わる。ここに「利権と金」という、戦争の本質が露呈しているように感じました。

三ツ矢の言葉でキルドレの謎は少し語られますが、私にはわかりづらく、謎は謎のままでした。しかし戦闘場面があっても、常に静寂に包まれた画面からは発するミステリアスで哀しい雰囲気は、彼らが謎の存在であっても、決して不満の残るものではありませんでした。

声優に人気俳優を使う事は、いつも賛否両論がありますが、私は上手ければどちらでも構いません。今回は違和感なく、私は良かったと思います。


監督はキルドレの姿に、現代の不可思議な若者たちを投影したそうですが、残念ながら、私にはそこまでは感じられませんでした。感じたことを言葉にするのが、難しい作品です。私の感想もキルドレの存在と同じく曖昧ですが、「観て良かった」という感想は、強く残る作品でした。


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