ケイケイの映画日記
目次過去未来


2008年04月27日(日) 「悲しみが乾くまで」




「ある愛の風景」「アフター・ウェディング」を監督した、デンマークのスサンネ・ビア監督が、ハリウッドに招かれて初めて撮った作品。最初ハル・ベリー演ずるヒロインが、どうも私には合わなくて、今回は外すかな?と感じていましたが、後半そうくるかぁ、という展開になりました。単なるメロドラマにはしなかったのは、ビア監督の面目躍如というところかな?

黒人女性のオードリー(ハル・ベリー)は、誠実で申し分のない白人の夫ブライアン(デビッド・ドゥカプニー)と、二人の子供とともに、精神的にも経済的にも満たされて暮らしていました。ブライアンは子供時代からの親友ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)が、ヘロイン中毒となり弁護士も辞めた事に心を痛め、皆が見捨てる中ただ一人、彼を救おうと躍起になっていました。夫がそのことに一生懸命過ぎるのが唯一の不満のオードリー。そんなある日、ブライアンが銃で撃たれて、突然亡くなります。悲しみに沈むオードローは、自分たちが立ち直れるまで、ジェリーにしばらく自宅のガレージで住んでもらうように頼みます。

ビア監督の特徴である、繊細な人物描写は健在なものの、今回はヒロインのあまりのひ弱さに、前半はイライラし通しでした。

生前のブライアンの包容力も経済力もある姿を充分に映し、オードリーは可愛くチャーミングでありさえすれば良い妻であると、その辺は上手く印象付けていたと思います。しかし個人的には、描写のところどころに感心する部分もありましたが、少々長いと思いました。この辺りは、これほど長く描かずとも良いかと思いました。

ブライアンが亡くなってから、情緒不安定が激しいオードリー。子供に八当たりするかと思えば、一転抱き締めて眠るなど、この辺はとても理解出来ます。ジェリーに同居を頼むのも、「私たちを助けて欲しいの」と言う言葉で、彼女のか弱さが出ていました。

しかし夫がいればか弱くても良いのですが、夫はもういないのです。夜眠れない彼女は、夫の代わりにジェリーに横に寝て、眠るまでずっと抱きしめて欲しいと頼みます。気持はすごくわかる。私だって長年傍で寝ていた夫がいなくなれば、眠れぬ日々をすごすはずです。しかし彼女が腕の中で安心して眠れたのは、ブライアンだからであって、ジェリーではありません。これではジェリーに、男の肌が恋しいと誤解されても仕方ありません。いくら悲しみにくれていても、それくらいの分別はつくはずです。

子供たちから信頼され、ブライアンの残した家庭の中に居場所を見つけるジェリー。麻薬も止めています。しかし段々ジェリーが家庭の中で存在感を増していくと、今度はオードリーがそれに激しい抵抗を見せます。心のどこかで夫の代わりになってもらいたかった彼女ですが、夫は自分にとって子供たちにとって、かけがえのない存在だったのだと、皮肉なことに悟るのです。

ジェリーをなじるオードリー。この辺からの彼女の子供じみた行動に、私は少々辟易してきます。か弱いのではなく、ひ弱く身勝手な彼女にイライラ。こんなんじゃ、いくらお金には困らなくても、子どもを一人で育てていけるのかしら?丁寧な描写なので、同情や共感できる人もいるでしょうが、私の持つ母親としての美意識からは、とても鼻につきます。「アフター・ウェディング」で多用された目のアップが、今回も多いのですが、それもニ番煎じ的に感じ、もう一つでした。今回はさすがのビア監督も、私にはダメぽいなぁと思っていると・・・。

とあることがきっかけで、ひ弱いオードリーは、崖っぷちで母性と言う女の底力を見せてくれます。ジェリーが夫の代わりになるのではなく、オードリーがブライアンの代わりになることで、二人の関係は新たな方向へ進むのです。この辺の転換は鮮やかで、やっぱりこの監督は力量があるなぁと、感心しました。

お互いの寂しさからなのか、愛なのか、二人の間の微妙な感情、アリソン・ローマン扮する女性から、立ち直るきっかけや影響を受けるオードリーの様子、子供たちの素直な感受性、心の拠り所を求めさすらうジェリーの様子など、ビア監督の人間を観察し描く力は、やはり非凡なものでした。ラストも後味の良いものです。

そうは感じても、デンマーク時代のニ作品と比べると、個人的にはいささか物足らない出来です。人が上手く描けていても、イマイチ胸に迫るものがありませんでした。デンマーク時代には丁寧で繊細な描写と感嘆出来たのが、少々辛気臭くも感じています。ベリーの役は当初白人女性の役だったらしいですが、彼女のたっての希望で実現したとか。それなら黒人女性がヒロインであることの味付けも、あった方が良いと思います。舞台はアメリカなのですから。


ケイケイ |MAILHomePage