ケイケイの映画日記
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2008年04月15日(火) 「ブラックサイト」




ネットを使った殺人ゲームを、R15でサスペンス仕立てで見せるなんて、B級ムードぷんぷんなんですが、そういうの、とっても好きなのが私。それにしては主演がダイアン・レインなんて珍しいなと思っていたら、作り手は彼女で作品の格を上げて、真意を伝えたかったのかと思います。後味の悪さは残るものの、見応えのある作品でした。

FBI特別捜査官のジェニファー・マーシュ(ダイアン・レイン)は、サイバー犯罪が専門です。警察官だった夫亡きあと、8歳の娘と母親との三人暮らしです。いつものようにパソコンに向かっていると、“killwithme.com”
という不審なサイトを見つけます。衰弱していく猫の死までをライブ中継したそのサイトは、次のターゲットの人間を捕まえ、ライブ中継します。アクセス数が増えると、ターゲットが死に至る細工が施してあるのです。急速に加速するアクセス。ターゲットは死に至ります。FBIが懸命に捜査する中、第二のライブ中継が始まります。

犯人は、実は早い段階でわかります。一見犯人は、サイバーオタクの愉快犯的無差別殺人に思えたのですが、その実動機は、極めて古典的でもあり今日的でもあります。ふと日本でも数年前、ワイドショーの人権侵害が討論された時代があったなと、思いだしました。

殺され方が非常にむごたらしいく、細工の仕方がすごくリアルです。私はホラー映画が好きなので、この手のシーンで気持ちが沈むことは、あまりないのですが、今回はどうも・・・。嫌悪感をすごく刺激するのです。私がホラー映画の残虐シーンが大丈夫なのは、それが作りものだとわかっているから。本物の惨劇を集めたようなものは、観たことがないし、観たいとも思いません。

そういう人の分別心を壊したのは、ネットだと思います。事件が起こるとすぐさま動画がアップされ、そこに悪意はなくとも、興味本位や好奇心で観てしまう。手を伸ばせは、そこに刺激的な映像が観られるとなると、理性や道理などより優先してしまう人の真理を、映画ではものすごいスピードのアクセス数で表わしています。

ネットの最大の特徴は、匿名性だと思います。しかしいとも簡単に自分の素性が割れ、パソコンや携帯までもがハッキングされるのだ、自分に悪意がなく、罪の意識はなくとも、この作品のように恨みをかうことがある。日頃わかっているつもりなのに、ついつい忘れてしまいがちなことを、この作品では、何よりも尊い人の命を用いて、煽情的に警鐘を鳴らしているように感じるのです。

ダイアン・レインの起用と主人公ジェニファーの造形は、猟奇的なシーンが多いこの作品の質を確実に上げ、決してキワモノ的なものにはしませんでした。ジェニファーが夜勤を希望しているのは、娘と過ごす昼の時間を大切にしたいから。有能に働く以外にも、母としての自分にも手を抜かない人です。レインの皺や生活感を残した、美人女優で鳴らした人には珍しいナチュラルな年齢の重ね方は、ジェニファーの誠実さと一致します。

シャワーシーンもあくまで生活感を出すためで、ヌードはなし、同僚刑事との心のふれあいも、あくまで同僚としての好意であって、恋愛には発展させない辺りも、テーマの絞り込みがこちらに伝わり、良かったです。

ネットの犯罪は例外もあるでしょうが、圧倒的に年齢層は若年のはず。犯人の「僕がこんな小さな子を、手にかけるわけないじゃないか」という独白は、「敵は大人」ということなのでしょう。大人とは社会とも言いかえることが出来ると思います。ラストシーンで見せた、ジェニファーのFBIとしての威信は、あれは大人として、若い人に見せつける威信でもあるのだと思います。それを社会人として母として、立派に務めを果たすジェニファーで描いたことに、深い意味があると思いました。

私のようなネットの住人には、とても考えさせられる作品で、猟奇的なシーンはOKと言う方には、ぜひ観ていただきたいと思います。しかし「グッドシェパード」や「ボーンシリーズ」で、CIAは散々な描き方ですが、FBIはアメリカ人の正義をまだまだ担っているようです。ちょっと二か所ほど、えっ?天下のFBIの、それもサイバー専門捜査官が、こんなにたやすく引っ掛かるかなぁ?、と思うシーンはありましたが。

最後にジェニファーの同僚役で、トム・ハンクスの息子の、コリン・ハンクスが共演していて、好演していました。ちょっと個性は薄いですが、今は偉大なお父さんだって、若い時は愛すべきイモ兄ちゃんだったです。お父さん譲りの好青年ぶりで、私は良かったと思います。この好青年っぷりが、実は作品の鑑賞にすごく影響しているんです。ご覧あれ。






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