ケイケイの映画日記
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2008年04月13日(日) 「いのちの食べかた」




ドイツ・オーストラリア合作の、食品がどのように加工されるかを撮ったドキュメンタリー。全国で劇場を替えてロングラン中です。それも納得の仕上がりになっています。

実は今月の四日姑が亡くなりました。その直前に主治医から持ち直したと説明を受けたので、集中治療室を出たら、これから忙しくなって当分映画はお預けになるからと思い、ガーデンシネマで「トゥヤーの結婚」と、はしごして観た作品です。観ている最中は思いもよらぬことでしたが、画像のヒヨコのパートでは、お婆ちゃんのことも頭に浮かんだので、やっぱり飛ばさず書きたい思います。

鶏、豚、牛、魚から、果物や野菜まで、ほぼ全て毎日口にする食物が、どういう風に加工されるかが、描かれています。日本とは多少異なるでしょうが、狭いブロイラーや豚の飼育小屋、飛行機で農薬をまくシーンなど、日本のドキュメントでも観たことがあるので、基本的にはいっしょでしょう。

動物は日頃スーパーで買う時は、綺麗にパック詰めされているため、命の恵みをいただいている、という感覚は希薄です。日頃は知っているのに目をそむけている部分なんですが、ここがガシガシ目の当たりにさせられます。

とにかく「生き物」ではなく、「物」なんですね。ヒヨコなんか、ベルトコンベアーに鉄砲玉のように飛ばされて選別されるし、魚ってあんな機械で無味乾燥にさばくのかと、びっくりします。日本のスーパーでは、人の手でさばくことも多いかと思いますが、加工工場では、やはりこうなのでしょうね。無味乾燥と言えば、鳥や豚の屠殺もそうです。動物たちをボタン一つで絞め、ボタン一つでかっさばいて行きます。真っ二つになっていく牛や豚からは、大量の血液や内臓、体液が出てきますが、ジェットシャワーできれいになって吊下げられ、それを工場で働く人たちは、淡々と切り落としていきます。

私が一番牛を気の毒だなと思ったのは屠殺ではなく、種付けです。正確にいうと、種付けのための精液をとるのに、前に当て馬(いや当て牛か?)の牝の牛一匹あてがい、興奮した牡牛の射精した精液だけを採取する場面です。しかし交配して品種改良したお肉を作るには、これが一番コストが安い方法なんでしょうね。これは全然知りませんでした。

日本では食品偽装があちこちで起こっています。当事者のある会社の社長が、「こんな安い値段で売れるなんて、偽装していると思わない消費者の方がおかしい」と発言して、問題になりましたが、言い方はもちろんバツですし、偽装は絶対ダメですが、安く流通させるには、やはりそれなりの方法があるわけで。こういう「企業努力」という名の、大量生産の方法で生まれた、薄利多売の品を買うか買わないか、それはあなた次第ですよと、画面から言われ続けます。

スクリーンからは結構ショッキングなシーンも映されますが、そこには本当に作り手の意図は含まれず、善悪もなく、否定も肯定もありません。自分で観て考えて下さいという気持ちが伝わってきて、そこがとても気に入りました。

以前観たドキュメンタリーで、遊牧民が羊を絞める時、一敵の血もこぼさないように気をつけていました。そこへ「命の恵みをいただくのだから、ひとつも無駄にしてはいけないのです」との、ナレーションが流れました。別のドキュメントでは、名のある料理人が、生き物の命を料理するのだからと、
毎日仕事の開始と終わりに、塩でまな板を清め、祈りの様子を映していました。

地球上の生き物の長である人間は、他の生き物の恵みをいただいて生かせてもらっている、それを忘れてはいけないのだと、ある意味スクリーンに映されることとは真逆のことを、私は一番痛感しました。この作品は、人それぞれに感情が湧いて、どれもが正しい作品のように感じます。

さてヒヨコなんですが、大阪では縁日のことを夜店と言い、昔は「ヒヨコ釣り」なるものがありました。選別された雄のヒヨコを、黄色のカラースプレーで可愛く元気に見えるようお化粧して、まーるい箱にいっぱい入っているのを釣るんです。釣ると一匹もらえるのですが、うちの夫は中学の時、それを釣ってきて、毎朝5時に「コケコッコー!」と鳴くまでに大きくしたのだそう。温度調節やら、育てるのは難しいヒヨコをそこまでにしたので、夫は得意満面で、ピー助かピーコか、名前までつけ、ペットのように可愛がっていたそうです。

しかし家を勝手に出て行っては、近所の軒先の植木をひっくり返したり、早朝に鳴くしで、近所では顰蹙ものだったとか。家族も迷惑していたそうですが、夫一人、大事に育てていたんだとか。

それがある日学校から帰宅すると、ピー助がいない。そして晩ご飯はサムゲタン・・・。「あの日から一ヶ月はオカンとは、口利かんかったわ」。大人になった今では、亡き姑の気持ちもわかると言うものの、当時夫は本当に哀しかったんだとか。

サムゲタンの一番の高級品は、烏骨鶏という品種を使ったものです。烏骨鶏の飼育は、広い場所での放し飼いが基本で、いわば毎日健康に育った鶏です。生まれた時から身動きできない場所で、人間の口に入るため餌だけ与えられたブロイラーたちと比べると、ピー助の一生は、それなりに幸せだったんじゃないかと、この作品を観て思い出しました。



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