ケイケイの映画日記
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2008年01月23日(水) 「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」




待望の鑑賞です。ジョニデ&バートンは、ハリウッドのド真ん中で君臨するようになっても、アンダーグラウンドの雰囲気を残しつつ、娯楽的にも大変優れた一流の作品を連発し、好事家から一般の映画ファンまで、広く愛されている稀有なコンビです。最近のバートン作品は、お父さんにもなったし、幸せなんだよ、バートンだって大人になっても当たり前だよ、面白いからいいじゃないかと、控えめながら受け入れていましたが、今回は久々に毒々しくシニカルで、ダークな切なさに包まれていました。私は大好きですけど、「ビッグ・フィッシュ」「チャーリーとチョコレート工場」でバートンが好きになりました、という方はお気をつけを。

かつてフリート街で腕のいい理髪師として名を馳せていたベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)。しかし美しい妻ルーシーに横恋慕したタービン判事(リック・ウェイクマン)に無実の罪を着せられて、15年投獄されてしまいます。やっと街に帰って来た彼は、ミセス・ラベット(ヘレナ・ボナム・パーカー)の店に入り、彼女から妻は毒を飲み、乳飲み子だった娘ジョアンナは、タービン判事に幽閉されていると聞きます。復讐に燃える彼は、名をスウィーニー・トッドと変え、復讐を実行すべく元の理髪師として戻りました。そして彼の過去を知る者の喉を掻き切ったのを手始めに、次々と身寄りのない者を殺害し、その人肉でミセス・ラベットはパイを作り、それが評判を呼び店は大繁盛となります。

ブロードウェイの舞台を映画化したものです。でも舞台はどう処理したんですかね?あの大量の血!「スプラッタ・ミュージカルだ」という感想をちらっと読んでいたので、それほどびっくりはしませんでしたが、もうピューと吹き出すわ、滴るわ、はりつくわ、すごいです。パク・チャヌクが観たら大喜びしそう。流血シーンも明るい歌声とともにリズミカルに描きます。とんでもないんですが、楽しんでいいのか、ぞ〜としたらいいのか、何か観ていてお尻がもそもそして落ち着きません。

しかし罪もない人が血を流せば流すほど、トッドの心も氷のように冷たくなっていくのですね。彼の心にあるのは、常に復讐だけ。娘に会ってこの手に抱きたいという父親らしい感情より、復讐を優先した彼は、そのため大きな代償を払います。

人肉でパイを焼く鬼のような女のはずのラベット夫人ですが、とてもいじらしい女心を見せます。乙女のような心でトッドに尽くすのですが、彼に話しかけてもいつも上の空。その一途なトッドとの結婚への思いは、演じているのがヘレナ・ボナム・カーターという事もあり、「コープス・ブライド」の腐った花嫁・エミリーが彷彿されました。

この二人だけが目に隈を作り、不健康極まりない顔色です。二人に合わせたような、常に青白い映像のトーンが、夫人が妄想する明るい海辺の家でのトッドとの生活は、一点明るい色調で歌い踊るのですが、観ていて段々、願っても願っても、恋しい男の心がえられない彼女を思うと、物悲しくなるのですね。

今回見事な歌声を聴かすジョニデですが、負けず劣らず他の出演者も堂々たる歌声でした。今回コミカルな場面が一切ないジョニデに代わり、アラン・リックマンが極上の敵役で憎たらしいのだけど、あちこち抜けているタービン判事を、愛嬌を交えて演じています。「ジョアンナと結婚することにした。しかし彼女は嬉しそうではないのだ。何故なのだ?」などど、バカかお前は!というセリフが、彼を憎み切れなくしてしまいます。

タービン判事がトッドを妻から横取りする部分は、とてもあっさり描いていました。お陰で罪もない人まで殺すトッドには、同情より冷酷さを強く感じさせました。それがあんなに哀しい結末を導くためのものだなんて・・・。尽くしているようで、トッドを独り占めにしたかったラベット夫人、復讐の鬼となってしまったため、大切な妻の顔さえ忘れてしまったトッド。愛から始まったはずのことが、愛を見失ったための結末でした。皆々相応しい最後だったと思います。哀しいけど、希望の光が一筋残るところが救いでした。

再現されるフリート街は、不衛生で埃っぽい感じで、貧しさがそこかしこに感じられます。これがトッドが妻や娘と幸せに暮らしていた頃の暖かさに包まれて街だったなら、トッドの気持ちも変わったでしょうか?いいえきっとあの寒々しい街は、彼の心が映した町だったのでしょう。

ゴシック調にしっかり作り込まれた世界で、ただいま最強のペアの作品を存分に楽しみました。もう一度観たいなぁ。


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