ケイケイの映画日記
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2007年04月11日(水) 「ブラッド・ダイヤモンド」


昨今ハリウッドで流行りのアフリカ物。今回は内戦中のシエラレオネが舞台です。少し食い足りない思いもありますが、見応えは充分の作品で、社会派娯楽作としては、上々の作品だと思います。監督はエドワード・ズウィック。

内戦の続く90年代半ばのシエラレオネ。家族と睦まじく暮らす漁師のソロモン(ジャンモン・フンスー)の暮らす村に、反政府軍RUFが襲撃し、家族はバラバラに。ダイヤモンドの採掘現場に回されてソロモンは、そこで高価なピンクダイヤを見つけ、密かに隠します。政府軍の襲撃で留置所送りになったソロモン。そこでダイヤモンドの密輸でしくじった、南アフリカ出身の白人ダニー・アーチャー(レオナルド・ディアプリオ)と知り合います。家族の救出を交換条件に、ダイヤの隠し場所をソロモンに迫るダニー。不穏な町の情勢は、アメリカ人ジャーナリスト・マディ(ジェニファー・コネリー)も巻き込み、過酷は状況へ彼等を導きます。

シエラレオネの内戦については、ある報道番組の特集で内情を知りました。スポットの当たっていた少女は、この作品のソロモンのようにURFに村を襲撃されレイプされ妊娠、両手首を切り落とされていました。少年兵も出てきましたが、親が亡くなって行き場がなくなったり、思想に共鳴して自ら志願した子達が出ていて、この作品のように、年端の行かない子達を拉致し、酒や麻薬漬けにして思想的に洗脳しているのにはびっくり。またそのシーンが生々しいので、胸が痛むなどどいうセンチメンタルな感傷にふけるより、これは子供達の人権にとって大変なことなんだと、憤りの方を強く感じます。

アフリカ諸国が、欧米の金の成る木であるのは、「ナイロビの蜂」などでも描かれています。今回の種はダイヤモンド。政府側・URF両方ともが軍事資金にしているというのは、考えればわかることなのに、恥ずかしながら描かれて初めてわかる私。そのため欧米の国が内戦を長引かせているというのも、やりきれない思いがします。

ダニー、ソロモン、マディが三人三様の、それぞれ思惑を秘めて接するうち、段々と同志のような感覚が芽生える構成は上手く機能しており、人物描写の描き分けもきちんとしています。中でも出色はフンスー。彼自身出身はベナンで、アフリカ育ちの俳優です。自分の出自から思うところもあったでしょう、思想的には何もない純朴で温厚なソロモンが、どんな危険も顧みず何が何でも息子を救おうとする姿には、大変心打たれます。子供が何人いようと親にとってはその子は一人。その子はあきらめて、他に子供がいるから残された子を大事にして行こう、とは到底出来ません。ふと拉致被害者の親御さんたちが浮かびました。

コネリーも凛とした美しさと、ジャーナリストとして心豊かで厳しいマディを、安定した演技で見せてくれます。レオも無精髭を生やし、過去を背負った密輸人という難しい役ですが、こちらも安定してみせてくれます。元々演技は上手な人なんですよね。その過去なんですが、大人になってからではないのが、とてもレオ的。しかしその過去は、ダニーのキャラを説明するには有効でしたが、設定的に筋に食い込んできてもいいようなもんですが、その辺はスルーなんで、ちょっと惜しい気がします。

この道行きで一番感化されたのはダニー。それはマディの正義感、ソロモンの子を思う愛でしょう。しかし少々アバウトですが、人と深く関わるということは、良きにつけ悪しきにつけ、影響されるということなのだと感じました。数々の紛争地に、危険を顧みず飛び込むマディは、私は刺激が好きなのと苦笑しますが、彼女があちこちで戦争で傷つき、死んでいく人々と深く関わることで、今の彼女の強靭な正義感が生まれたのだなと感じました。

URFの善良な村を襲撃する凄惨な様子、町を空爆したり銃撃戦の迫力は、さすがハリウッド娯楽作、見応えがありお金もかかっています。ストーリー的にも文句もあまりないのに、でも少し物足りないのです。ラストも希望も感じ後味も良いのですが、レオの扱いなど良くも悪くもハリウッド的で甘い感傷で締めくくられるのが、個人的にはイマイチ。もっと苦い結末は出来なかったかなぁと思うのです。

内戦の中、脱出より故郷に残り踏ん張る人々が何人か出てきますが、彼等の扱いは軽く、もっと無常観が漂う掘り下げガ欲しかったです。悪人も白人なら正義の味方も白人。結局はアフリカの人々は、欧米の国の保護や援助なくしては生きられないのだとの苦悩や皮肉が、イマイチ届かない。これでは観た人は、こんなこと知らなんだ、勉強になったわ、ラスト良かったわね、というナンチャって良い人で終わってしまう気がします。私も何にもしていないので、偉そうなことは言えないのですが、せめてしばらく席から立てないほど痛々しい気分になり、自分の無力や無知を恥じる感覚が欲しかったなと思いました。

とは言え上記に書いたように、充分楽しめる作品ではあります。出来が良かったので、もうちょっとこうなら傑作なのにと、贅沢を書いてしまいました。この作品を観て、オスカーはレオ&フンスーコンビにあげたかったなぁと思いました。


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