ケイケイの映画日記
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2006年01月13日(金) 「ロード・オブ・ウォー」


昨日千日前セントラルで観てきました。この作品は武器商人のお話だとは知っていましたが、予定外でした。しかし予告編で私の好きなアンドリュー・ニコルが監督だと知り、更にニコラス・ケイジが主演で彼が割りとハンサムに見える。私は彼がハンサムに見えたり、セクシーに見える作品はいけるのだな。予告編もなかなかパンチが効いている割には軽妙で観易そうだし、これは社会派娯楽作の秀作かも?の予感は見事的中。秀作どころか傑作じゃないでしょうか?テーマからはすごく不謹慎なんですが、メチャメチャ面白かった!

子供の頃ウクライナから家族と共にアメリカに移住してきたユーリー(ニコラス・ケイジ)。ブルックリンの最下層が住む集落でレストランを営む両親を手伝っていた時、ギャングの銃撃戦を目撃します。これからは武器の売買がもうかると踏んだ彼は、弟ヴィタリー(ジェレット・レト)を相棒に、銃の売買を始めます。意外な商才を発揮する彼は、やがて軍事用の武器にも手を染め、高値の花だったエヴァ(ブリジッド・モイナハン)と結婚し、エリート・ビジネスマンさながら、世界を股にかけます。しかしその背後には、インターホールのバレンタイン刑事(イーサン・ホーク)の捜査が迫っていました。

監督自ら本物の武器商人5人から取材して作り上げた人物が、ユーリーだそうで、ノンフィクションの場面も多いのだとか。これが事実は小説より奇なりを地でいく、あの手この手で捜査をかく乱、これが実に面白く、映画的見せ場がふんだんでした。すごく重たいテーマなのに、ブラックなユーモアと娯楽色強いアクション場面や心の葛藤を上手く掘り下げながら、着地は皮肉たっぷりです。

ユーリーは実にトークが上手く、ヨイショするかと思えば、商売敵(イアン・ホルム)に塩を贈る場面でも、相手を立てながら老いぼれの時代じゃないぞと釘を刺すのも忘れません。演じるケイジは後退する一方の頭髪のためか、若い時から老けていましたが、やっと実年齢に容姿があってきて、この稀代の武器商人を実に魅力的に演じています。この魅力的に見えるというのが、実はこの作品の最大のポイントなんじゃないかと思います。

以下ネタバレ******









武器商人としてトントン拍子の兄と対照的に、弟は心を病みますが、これは弟が純粋だからというより、「仕事」に関しての根性が足りないんじゃないかと感じました。本当に自分の売った武器での殺戮がいやなら、もっと早く足を洗えばいいし、兄とも距離を置けばいいのに、ヤク中で家族の厄介者となり結局は武器商人で得た兄の金で暮らしてるんですから。

それに比べ、独裁者の用意した美女と酒池肉林も出来たはずなのに、エイズが怖いと追い返すユーリーは、とてもセルフコントロールの効く人なのだと思います。愛する妻のためではないところも、商売と家庭は別物だと感じさせ、試し撃ちをする独裁者に、無意味な殺人を咎めるのではなく、中古品になったではないかと憤慨する彼は、ビジネスライクに徹しています。そこが同じ場所にいても、弟は殺戮が頭から離れず、兄は不時着した飛行機を根こそぎ火事場泥棒のように持って行く現地人のしたたかさの方を、強調して描いているところに現れています。

ユーリーがあれもこれもと手を広げるようになったのは、元はと言えば妻にぜいたくをさせたかったから。その妻は内心夫は危ない橋を渡っているのを知っていたのに、この生活を失いたくなくて知らぬふりをしていたはず。それが武器商人と知るや、一転彼に仕事を辞めるよう訴えますが、それって正義感じゃなくて、夫が捕まって自分や子供まで汚名を着せられるのがいやだっただけじゃないの?きっかけはバレンタインの捜査協力の要請からですから。全部服を脱いで「みんな血で染まったお金で買ったものよ。」夫に訴えるなんざ、年季の入った商売女の手練手管みたいでした。きっと夫の力をもっと小さくみて、監獄行きと決め付けて出て行ったのだと思いました。彼女は「妻」を演じる娼婦だったんですね。だって妻なら毒を喰らわば皿までなんじゃないでしょうか?私ならそうするな。

しかし、弟は甘ちゃん、妻にふん!と思いながら観ている私も、メチャメチャ面白いと思って観ているのですから、これは結構な「人でなし」です。「男たちの大和」を観てビャービャー泣いたのが、ちっとも生かされていない。生かされていたら、もっとこの作品には嫌悪感が募っていいはずなのです。

結局は私もヴィタリーや妻といっしょ、いやそれ以下な訳です。戦争はいけないと言いながら、巻き込まれることのない場所でぬくぬくして、害がないのでちゃちな正論しか言えない自分に、はっとしました。それが監督の狙いだったんじゃないでしょうか?

自分の妻子に去られ、親にも縁を切られても信念で天職を全うするユーリーですが、彼が罪悪感から数々の悪夢を見る場面は印象的。彼も人の子だということです。ハイエナに囲まれるところは、自分もそうだと思っているんですね。この場面のおかげで、救われている気がします。

イーサン・ホークは、つまみ食いのため大物美人女優のユマ・サーマンに三行半を突きつけられ、もうしょぼくれるのかと思っていましたが、とっても渋くて素敵になっていて、ヨカッタヨカッタ。バレンタインの実直な正義感も歯が立たないユーリーですが、毒は毒を持って制すしかないんでしょうか?面白かったけど、自分を少し恥じてもしまう作品です。監督作「ガタカ」、脚本作「トゥルーマン・ショー」など、切ない誠実さが美しいと感じ、大好きになったニコルですが、進歩も成長もしているのを感じ、この人にもついて行こうと思いました。




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