ケイケイの映画日記
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2005年03月11日(金) 「サイドウェイ」

面白かった!すごく良かった!期待して観た作品が、期待通りだった時ほど嬉しいことはありません。私が大変気に入った「アバウト・シュミット」のアレクサンダー・ペインが監督。今年のオスカーの主要部門に軒並みノミネートになった作品でもあります。(脚色賞だけ受賞)

小説家志望の国語教師にして、ワインについて造詣の深いマイルス(ポール・ジアマッティ)は、ただいま初出版出来るかどうかの瀬戸際。大学時代からの悪友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)が結婚を一週間後に控え、二人で気ままなワインとゴルフの旅に出ます。ジャックは今でこそ売れない俳優で、CMのナレーションで食べていますが、かつては人気ドラマの売れっ子俳優でした。年貢を納める前に、見知らぬ土地の女たちとセックス三昧したいジャックは、2年前の離婚からまだ立ち直れないマイルスもと、虎視眈々。かくしてワインと美女を道連れに、二人の珍道中が始まります。

とにかく笑えます。男同士の友情を描くと、熱かったりライバル同士の愛憎劇や成長劇など、とかく雄雄しい感じのものが多いです。ですがこの作品のマイルスは、竹を割ったようなの反対で餅をついたようなネチネチさ。うじうじぐたぐた文句ばっかり言うし、別れた女房が再婚すると聞くや、酔って電話するし、ここ一番いいムードの女を押し倒して、ものすることも出来ません。あげくジャックの秘密をチクったのに、疑われるやシラをきり、全く女々しいったらありゃしない。

ジャックはジャックで、男の下半身には理性はないのか?と思わせるほどの
シモユルっぷり。女性をナンパする際の入念な仕込み、婚約者に浮気がばれないように苦心惨憺する様など、よく女は浅知恵と言われますが、男は猿知恵なのだなと爆笑します。若い時「囲うのはダメだが、一度や二度の浮気なら、知らなければ別に良い。」と先輩奥さんが口々に言うのを、ウッソーと思っていましたが、今なら私も同じです。まー、男なんかそんなもんですよねー。浮気発覚のピンチにオイオイ泣き出すジャックが、情けなくもちょっと可愛く見えます。彼はそのため色々怖い目にも遭い、懲りないジャックにお仕置きを据える脚本なので、女性にも受け入れやすいキャラクターです。

割れ鍋に綴じ蓋の性格の全く違うダメ男二人ですが、観ていて愛嬌や共感を抱いてしまいます。二人ともすごく人間臭くて素直に感情を表すので、とてもわかりやすいです。それは大人に成りきれない幼児性とも言えますが、自分の自我やわがままを相手にぶつけるのを見ることで、気の置けない男同士の友情の楽しさと大切さを感じました。

マイルスと旧知のワイン通美女マヤ(バージニア・マドセン)は、ダサ男のマイルスに好意を寄せますが、こんな美女が何故?とは疑問に感じません。彼女も離婚経験者ですが、ウェイトレスとして働きながら、園芸学の学位を習得まじか、着々と自立の道を歩んでいます。大学教授夫人の座を手放した彼女には、容姿や身分より、素のその人だけを見る力が備わったと感じました。対するマイルスは、まだ離婚の痛手を引きずる情けなさで、同じ離婚経験者でも、そこからの男女の成長の違いを描いているかと思いました。

何をびっくりしたって、バージニア・マドセン初登場シーンです。ワインバーのウェイトレス姿という地味ないでたちながら、聡明さと成熟な美しさが香っていました。彼女は昔から美しい人でしたが、小悪魔系のセクシー女優で、「ホットスポット」の果敢な全裸ヌードなどもある人ですが、今作ではそれこそ芳醇なワインのよう。知的で思慮深く、画面に小じわも全て映るのに、内面をも美しいと感じさせる、暖かみのある美しさです。マヤ役がアメリカでは大変高評価を受けたそうで、納得の名演技でした。

彼女のセリフで、「最高のワインはピークを過ぎると、緩やかに下り坂になるが、それもまた味わいがある。」とのセリフが、この作品のテーマなのかと思います。私も気がつけば人生の折り返し地点を3歳も過ぎてしまいました。口ではまだまだ若いや、もう一花など言ってみたりしますが、ふっとした拍子に年を気にしてしまいます。そんな時それも味わえばいいのだなと、彼らといっしょに「寄り道」しながら、教えてもらいました。

はからずも自分探しをするはめになったマイルスの、そこはかとない孤独感が心に染みます。大切にしていたワインを、元妻からあることを聞き一人で飲んでしまう彼に、優しさと寂しさの入り混じった切なさを感じさせ、見事な脚本だと思いました。ラストやっと自分の壁を乗り越えたマイルスを見る事が出来、ちょっとウルウルしました。

ワインのことは全然知らない下戸の私ですが、ワインが飲みたくなる作品です。ジャックと深い仲になるステファニーに、実生活で監督夫人のサンドラ・オー。会った日に男性とベッドインする尻軽女ですが、情熱的で魅力的に描けています。監督の妻への愛も感じて、ちょっと嬉しくなります。


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