ケイケイの映画日記
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2005年03月09日(水) 「復讐者に憐れみを」

韓流ブームが日本にどっと押し寄せている中、毎日のように容姿端麗な韓国俳優が、雑誌やテレビで取り上げられています。しかし四天王と持てはやされているヨン様たちは、映画でのキャリアはまだ浅く、本当の意味での現在の韓国映画の三本柱は、個人的にはソル・ギョング、チェ・ミンシク、ソン・ガンホではないかと私は思っています。作品選びから演技力まで、この三人は本当に甲乙つけ難く、出演しているだけでその作品が観たくなる人たちです。この作品もガンホが主演。確かに力のある作品で、褒める人も理解出来る作品ですが、私は好きになれませんでした。監督は「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク。筋は違いますが、「復讐三部作」と名づけられた、復讐がテーマの第一作で、「オールド・ボーイ」は、この後作られています。今回ネタバレです。

聾唖者のリュ(シン・ハギュン)は、親代わりに育ててくれた姉が重い腎臓病で、移植しか生きる道がありません。彼の腎臓は血液型が違い不適合です。折りしも務める工場は不況で、彼は解雇されます。チラシで見た怪しげ臓器売買組織に、姉を救うことを賭けた彼は、結局自分の腎臓を取られ、退職金まで持ち逃げされます。そんな時腎臓提供者が現れ金に困ったリュは、左翼活動家の恋人ヨンミ(ペ・ドゥナ)にそそのかされ、解雇された会社の社長ドンジン(ソン・ガンホ)の娘を誘拐します。最初は金が入れば親に返す気だったリュですが、事故で娘は亡くなります。全てを投げ打ったドンジンは、自分で犯人を探し、復讐の鬼となります。

タイトル通りテーマは復讐で、リュの臓器売買組織への復讐、ドンジンのリュへの復讐と、復讐の連鎖が胃をキリキリさせます。緑色に髪を染めるリュは、一見パンク青年に見えてもよさそうなのに、物静かで穏やかな青年です。ヨンミも少々蓮っ葉でピントのはずれた思想活動家に見えますが、心の悪い人ではありません。そしてドンジンは学歴社会の韓国で、高卒ながら懸命に仕事をし、一代で会社を築いた人です。会社の役員達から、「そんな人の良いことを言っていたら、会社がつぶれてしまいますよ。」と言われる、最後まで社員の解雇に首をふらないような人で、男を作った妻に逃げられ、大切に一人娘を育てています。言わばみんなが善良と言える人たちなのです。

そんな善良な人たちが、少しずつ歯車が狂い復讐の連鎖の渦に巻き込まれるやるせなさや痛みは充分に感じます。しかしその見せ方が残虐で扇情的過ぎるのです。そのため返って登場人物に気持ちがついていかないです。幼い女の子が溺れて硬直する姿を見せ、そしてその解剖に父親を立ち合わせるのですが、こんな場合遺族は立ち会うのでしょうか?遺体にメスを入れるシーンまでご丁寧に出てきます。誘拐中、少女を大切に扱っていたシーンはいいのですが、裸体で少女が昼寝するシーンは必要でしょうか?

重要な証言をする人物に、脳性麻痺と思われる人物が出てきます。「オアシス」のムン・ソリを見て、最初は見てはいけないような気分になる人も、段々としっかり彼女を見て、自分の偏見の気持ちを正そうとするでしょうが、この作品ではただの見世物か道化のような扱いです。申し訳程度に「知能は正常」というセリフが出てきますが、彼の扱いも不快でした。

臓器売買の組織を殺戮するシーンは残虐でも、多少溜飲を下げる気にもなりますが、こんな人でなしが母と息子達とは、やりきれなさを通り越して、気分が悪くなります。ヨンミを見つけたドンジンが拷問するシーンも、ご丁寧に失禁する尿に血が混じっています。そんなことはおかまいなく横で食事を取り、拷問を続けるドンジン。

確かにこの汚辱にまみれた凄惨なシーンを逃げずに見続けることで、決して監督の言いたいことが「人を呪わば穴二つ」だけではないと感じます。しかしもっと嫌悪感を感じてもいいはずだった「オールド・ボーイ」では、獣道を歩む決心をした二人やユ・ジテに、「哀切」という言葉も浮かびました。こちらは同じ復讐の連鎖でも、この作品から最も感じるのは、不快感と嫌悪感です。ラストもドンジンを殺したのは、解雇された会社の元社員だと思っていたら、なんとヨンミが属していたテロ集団の報復にあったと表現されています。最後の最後まで少しも気は晴れませんでした。

私にも嫌いな人苦手な人はいますが、今までの人生で、殺したいほど人を憎んだことはありません。帰りの電車の中、そんなことを考えながら、監督は復讐の不毛さや、無常感とともに、自分の境涯に感謝しなさいと言っているのかな?とふと思いました。


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