ケイケイの映画日記
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2004年12月10日(金) 「お父さんのバックドロップ」

この作品は大まかなストーリーだけ頭に入れて、鑑賞に望みましたが、主人公の名前でまずヒット!下田牛之助って、往年の名ヒール・上田馬之助のもじりではないの!ヒール転向後の金髪+隈取風メイクはグレート・カブキも入っているような。そうです、私はこの映画の設定の1980年前後、大のプロレスファン(主に全日本プロレス=ジャンアント・馬場)でした。

ドサ回りの新世界プロレスのレスラー・下田牛之介(宇梶剛士)は、妻を亡くし一人息子の一雄(神木隆之介)を連れ、生まれ育った大阪・平野区のアパートに戻ってきました。そこには牛之助の父(南方英二)がおり、韓国人だった夫を亡くし、一人息子哲夫(田中優貴)を育てる金本英恵など、昔懐かしい人々が、彼らを大歓迎して迎えてくれます。少々短気ですが男気溢れる牛之介は、皆から好かれていますが、プロレス嫌いの一雄とは気持ちが通わず、それが悩みの種。折りしも経営状態の悪い団体の起爆剤として、社長(生瀬勝久)からヒール転向を打診された牛之介は、古参レスラー松山の解雇取り下げを条件に、その役を引き受けます。拍車がかかる息子との間。自分の息子を思う気持ちを伝えようと、極真空手チャンピオンとの、勝ち目のない異種格闘技に、牛之介は望みます。

全編笑いと人情に溢れています。そして何気ない言葉・シーンが、セットや情景が、ハッとするほど胸に染む込むように演出されています。面白くなさそうに一雄とキャッチボールをする牛之介は、気の合わない息子と、どう接していいかわかりません。血の気の多い彼が、息子に対しては腫れ物に触るようです。ソリが合わない父子は世間にゴマンといますが、その潤滑油となってくれるはずの母はいません。母を語る一雄の「いつも優しかったわけじゃない。ケンカもしたし、たたかれもした。でも僕はそんなお母さんが大好きだった。」本当にどこにでもある母と息子の風景。この言葉に、自分の時間などまるでなく、時には不満を募らせながらも、子供だけを見ていた時期のある私は、ただ当たり前のことをしただけでも、子供とは母親をこんなにも愛してくれるのかと、目頭が熱くなりました。

対する父親はというと、父に何故勝ち目のない戦いを挑んだと問われた牛之介は、「息子に尊敬されたいから。」と言い切ります。父親は何よりもプロレスが大事だと思っている一雄に、そのプロレスが出来なくなるかも知れない相手と戦うことで、自分の気持ちを伝えようとする牛之介。この尊敬されたいの平凡な言葉に、息を呑むほど父親というものの厳しさを感じました。

しかしながら、お互いの孤独な心が浮かび上がるかと言うと、そうではありません。切なさや不器用さは感じても、お互いを求め合い、二人とも孤独ではないのです。何故ならとぼけた味で二人の仲を取り持つ祖父。ほのかに牛之介に思いを寄せて、愚痴を聞いてあげる英恵は、一雄の事だって心から案じています。社長は業突く張りのようですが、根は善人で何としても団体を存続させたいと思っており、誰よりもレスラー・牛之介を認めています。哲夫は嬉しい時悔しい時、いつも一雄の隣にいて、喫茶店でやけ酒ならぬ、やけイチゴセーキを飲む仲です。これらともすれば、押し付けがましく見えかねない人物達の熱い人情を、素直に観客の心に溶け込ませます。

私が主役二人と同じくらい気に入ったのが、金本英恵。女手一つで忘れ形見の哲夫の幸せだけを一心に願い・・・という母ではなく、厚化粧で家業の焼肉屋の手伝いに哲夫をこき使い、心配やうんざりさせまくりの母です。しかし金本という姓は在日の通名ではポピュラーで、日本人の彼女は夫の死後、旧姓に戻れるはずなのに、息子共々そのまま名乗っています。多分夫と営んでいた店なのでしょう、いまだに韓国歌謡が流れ、韓国の酒がおかれている様子に、彼女がいかに夫を愛していたかが忍ばれます。そんな彼女の口から、「おばちゃん、寂しいねん。」の言葉は、一人寝の寂しさではなく、夫恋しさからだと感じました。転じてほのかな牛之介への思いも、下世話な様子と裏腹に、純粋さを感じてしまいます。

演じる南果歩は、都会的な今までのイメージをかなぐり捨ててのまさかの怪演。何故かとても楽しそうです。宇梶剛士は、強面の容貌の中に見える優しさと男らしさが魅力。決して演技が上手いのではないのですが、自分の持ち味を最大限に出すことで、乗り切っています。ネイティブ関西人の中に入って、違和感のない関西弁でした。神木君は言わずと知れた、現在NO.1の名子役。今回も賢さと繊細さの表側と裏腹の、子供らしい親への屈折した気持ちを好演。意外な好演の田中君は、いてるいてる、こんなごんた(やんちゃ)な子、と言う感じで、とても可愛かったです。何でも上手く出来なくて、監督に相当鍛えられたそうです。その甲斐がありました。南方英二は、出てくるだけで、私は嬉しいです。生瀬勝久は、いつもながら名脇役ぶりです。憎々しく演じているのに、演じている社長の本心を的確に観客に伝えるのがすごく上手です。彼の演技は、いつも作品の良いスパイスになります。

他には古参レスラーがバカにされたスナックの客に向かって叫ぶ「お前がプロレスの何を知っているのだと!」という言葉。今はK-1やプライドなど、真剣勝負を売り物にした格闘技がもてはやされている中、筋書きのあるプロレスには、いかがわしさがつきものです。しかし昔府立体育館で生で全日の試合を観たことのある私は、ブルーザ・ブロディに鎖で追い掛け回されて逃げるも、彼は細心の注意を払っていたので、誰一人観客には怪我をせず。ブッチャーやテリー・ファンクの技の応酬と本物の流血とに、感動を覚えた私は、軽々しくショーとは呼べないものを感じたものです。本作では、このいかがわしいショーに魅せられ心と体を賭けた、男の美学も感じさせます。但しプロレスシーンは突っ込みとあっさりが満載。清らかな優しい心で観てください。

監督は初作品の李闘士男。テレビ出身の人で、もっとスタイリッシュな作品を撮っても良かろうに、泥臭くファンキーなこの作品は、大阪出身の監督の、故郷への愛を感じさせます。

脚本は何と「血と骨」で私を大いに落胆させた鄭義信。よっしゃ、チャラにしたろう!


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