ケイケイの映画日記
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2004年12月01日(水) 「透光の樹」

高樹のぶ子原作の文芸作品。不倫を通しての純愛がテーマらしいですが、私には中年期に究極に肌の合う異性にめぐり会った男女を描いた、文芸「ポルノ」に感じました。今回ネタバレです。

ドキュメンタリー制作会社の社長の永島敏行は、二十数年前に出会った女性が経済的窮地にあると知り、援助を申し出ます。初めは金で買われた形だった秋吉久美子ですが、いつしか本気で相手を愛してしまいます。

演出やセリフが、いったいいつの時代なのかと言うくらい古臭いです。時代設定は今から15・6年前なのですが、ノスタルジックを誘うのではなく、当時の映像感覚をそのまま今に持って来ている感じです。昔を描きながら今に通じると言う感じがありません。

永島敏行が合っていません。陳腐で歯の浮くようなセリフが、彼から連発されるのですが、正直失笑を禁じえませんでした。セックスシーンでお尻も見せていますが、この役はもっと男の色気を感じさせるか、すこぶるつきの美中年の人が演じる役です。この役は当初萩原健一がキャスティングされていたそうですが、トラブルで降板。でも彼も違う。私は奥田英二なら、あの陳腐なセリフにも言霊が宿るような気がします。容姿からなら草刈正雄でも可。

純愛がテーマらしいですが、中年が主人公なのでやたらセックシーンが連発されます。それがエロティックなわけでもなく、美しいわけでもなく、何とも中途半端。監督の根岸吉太郎は、日活でポルノを撮ったはずなのですが、忘れちゃったのか?

途中までダラダラ付き合わされていたのですが、急に永島敏行が癌になり、手術をせねば死ぬと宣告されながら、それじゃセックスが出来なくなると拒否。えぇぇぇぇぇ!あんた妻子は?会社の社員の生活は?秋吉久美子も、離婚後ボケた父と娘の3人暮らしの中、年端の行かぬ娘にボケた父を押し付けて、妻子ある男と逢瀬を重ねて、一向に罪悪感も葛藤もなし。だいたい自分だって離婚の理由は、夫に女が出来たからだろうが?何故その事にも罪悪感が全く描写されないのか不思議です。

秋吉久美子は50歳とは信じられない、美しいヌードを披露していますが、健闘しているというより、その心意気には頭が下がります。でもいつもの演技が上手いんだか下手なんだか分らない芝居で、アンニュイというより表情が乏しいだけです。それがいきなりセックスシーンだけ大熱演。いつまでも少女っぽいというより、彼女の持つアダルトチルドレン風の雰囲気が、演じる女性に対しての共感を呼ぶのに邪魔します。

かように純愛というより、中年期に色狂いした不倫男女の恋にしか思えませんでした。私は嫌いですが、不倫全てを否定する気はありませんし、いい年をして無分別に走る恋愛も、またあって可と思いますが、今作はどうも盛りのついた動物のように感じるのです。ラスト、男が死んで15年後のボケてしまった秋吉久美子が、永島敏行を思い出し悶絶するシーンは、同性として、不潔なものを観た気がしました。

何故か劇場はお年寄が多かったです。映画友達によると、号泣していた60代女性もいたとか。年齢により、映画は値打ちが違うものなのですね。


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