ケイケイの映画日記
目次過去未来


2004年11月29日(月) 「Mr.インクレディブル」

昨日の先行ロードショーで観てきました。ディズニー配給のピクサー作品というブランド映画なので、さぞやいっぱいと思いきや、入りは半分。もっとも朝イチの9時半の回。それに吹替え版というのがミソをつけたか?しかしこの吹替え版が実に絶妙でした。黒木瞳のような大女優が、何で今更ディズニー作品など引き受けたのか?と思っていましたが、やっぱり彼女は賢い人です。ハラハラドキドキ、健全な楽しさ満開の中、家族愛を軸にしながらの倦怠期の夫婦ものの秀作だとは、私も思ってもいませんでした。

かつてスーパーヒーローとして活躍したMr.インクレディブルは、やはりスーパーヒーローだった妻・ヘレンと結婚し、3人の子の父親です。引退後は保険会社にに勤め真面目なサラリーマンであり、家庭では良き父良き夫です。家族全部が持てる特殊能力を隠しながら生活している中、彼は昔の栄光が忘れられないでいました。そんな時ヒーローとして復活出来る話が舞い込むのです。喜び勇んでOKする彼でしたが・・・

ピクサーのCGアニメの技術は、素人の私でも一作ごとに飛躍的にアップしているように思えます。特に私が好きなところは、決して人間に見えるようなリアル感ではないところ。手書きアニメの暖かさや血の通った趣があり、今作では顔の表情がとても上手に描かれていました。数々の特殊能力を発揮するアクション場面では、アニメであることをフルに活用。実写CGを超えるパワフル感とスピーディさに、大人の私もワクワクでした。ストーリーの危機また危機や、その凌ぎ方やアイテムも、「007」シリーズや「スパイキッズ」シリーズより、私には面白かったです。

私が一番感心したのはアクションアニメでありながら、きちんとドラマが描けていること。ピクサー作品では、いつも親として子供にどう接したら良いかのヒントが散りばめられています。この作品でも母へレンは、絶対絶命の危機に怖がる子供達に「お母さんを信じない!」と力強く言い切ったり、自分の能力に自信のない長女・ヴァイオレットに、「あなたなら出来るわ」と励まし、無理な注文に答えられず謝る子供に「お母さんが悪かったわ。」と、素直に謝ります。観ていて当たり前の親としての接し方なのですが、これが中々難しい。人生の岐路よりこういう切羽詰った場面で見せられると、とても心に刻めるものです。

家族の絆・愛は、アニメでも観たことはありますが、夫婦としての心の機微を描いたものは初めて観ました。インクレディブルは、自分が一番輝いていた頃が忘れられず、家族は愛しているが、自分だけの時間や幸せも求めたい。妻は家族の幸せを望んでいるはずと思い込み、夫婦単位で物事を考えません。
ヘレンは家庭の安定と子供の成長が一番大切。昔スーパーヒーローだったのなんて忘却の彼方。どうして夫はいつまでも昔の夢を追い求めるのか?もっと大人になって欲しい。誰にも頼まれないことに一生懸命にならずに、もっと出世のことも考えて頂戴と思っています。

それが夫が事件に巻き込まれるや、そんな不満はどこへやら。「気づかなかった私が悪かったのよ。」とヘレンは泣き崩れます。。普段は好き勝手する夫に不満がいっぱいなのに、そのことで家族全員が危機に巻き込まれようが、それ見たことかとはなりません。自分を責め、危険を侵しても夫を救おうとします。それが妻の情というものです。対する夫も、初めて自分が好きな夢を追えたのは、暖かい家庭があってのことと気づきます。そして夢を追いかける世の夫たちにため息をついている私たち妻は、それは夫達にとって必要なものであって、決して家族を愛していないと言うことではないと、インクレディブルを観て思います。

夫婦けんかの場面、それに心を痛める子供達、精神的には少々かかあ天下、しかし生活上は夫婦不平等感などを織り込む細かくリアルな描写を、大笑いとハラハラとの中にしっかり観る者に刻ませ、ラストの家族の明るい未来に終結させる手抜きのない脚本には、とても感心しました。

吹替えの三浦友和と黒木瞳は、子供を持つ良き家庭人の側面も表の出す俳優なので、役柄に違和感がありませんでした。特にヘレンの母親にとても共感を呼ぶキャラクターは、黒木瞳の一層のイメージアップに貢献していたと思います。家族揃っての映画鑑賞はお金がかかり、お子様映画では大人は損をした気になるもの。でもこの作品に限っては、絶対損な気分はないとお薦め出来ます。家族揃って敵に向かう姿に、まだ子供達が小さくて車で旅行へ行く時に、もしここで事故に合って死んでしまっても、家族全員いっしょなら何も心残りはないと思った10年前を、懐かしく思い起こした作品でした。まだ親が世界一好きな年齢のお子さんをお持ちのお父さんお母さんに、是非見て欲しい作品です。


ケイケイ |MAILHomePage