狂言財源よりも風采草創。

あの日、時計を落として壊してしまった。
その時計を何処へやったのかなんてすっかり忘れていた。
壊れた時計の事なんかどうだって良かった。
きっともう捨てていたと思っていた。

深い青の中で自らを押さえ込んだ
浮かぶ碧を何度も眺めながら佇んだ
其れを望んでいると思い込もうとした
身と心が共に蝕まれ続けた

何の前触れも無く、ふと時計の事を思い出した。
あの日に壊れた時計の行方が気にかかっていた。
探そうとしたところですぐ其れが目に飛び込んで来た。
今まで気付かなかったのが不思議な程近くに時計はあった。

崩壊を待たず決壊して奔流は見境を失った
どれ程重ね合わせても一つは一つだと知っていた
濁流は其れさえ押し流してぶつかり押し流した
思い込めない思い込みが上昇しては下降した

あの日壊れたはずの時計が動いていた。
確かに止まっていた時間分ずれた時を刻んでいた。
正しい時間に合わせることはしないことにした。
この時計が着実に刻む時を奪い飛ばす真似はしたくなかった。

表面を撫ぜるだけの温い風が吹いた
温い風に隠し切れない冷たさを覚えた
其の背に庇うものが大きくなる程庇い切れなくなった
白の中で途方に暮れて孔を穿った

止まっても動き出した時計の針が時を刻み続けた。
戻ることもなく駆け足をすることもなかった。
自らの力で自らの時間を一歩一歩進んでいた。
誇らしげな時計が眩しく見えて目を細めた。

駆け引きの終わらない雲が光を遮った
粒子を一つたりとも零さぬように覆い尽くした
無機質な情景は反転したまま形骸化していた
炙られて風化した思いは砂に還った

加担コロイド。

思いがけず動くのはこの手ですか?

其処に思考は無いので底を志向しましょう。
学の有り無しについてもついでに喧々諤々しましょう。

曲がった指先が指し示す方向を真に受ける見えない人が居ますか?

白々しく始まった同列という名の区別は笑っています。
中心に堂々と立つ象徴は内包する前提の否定を踏み潰しています。

其れは成れの果てでした。
自らの意志で動くことを当然と想い続ける人の成れの果てでした。
常勝する遺物はいつか上昇したまま低地を忘れました。
重ね重ねの二言とは既に原型を留めない事と知りました。

数多の引く手なんて望むべくもありません。
数多の引く手なんて全部同じ欲色をしています。

制するべきものはあの日に済ませてしまいましたか?

要るネセサリー隠滅。

目覚めは酔い良い、後はみんな怖い。
いつの日のことだったろう。
夢にまで見たのに、今はその通り、夢。

正しい路は相対を持つだけ。
ぐねぐねと歪みだすから、またしゃがみ込んで。

ぬかるんだ地べた、必死に爪を立ててしがみ付いた。
君は揺らぎもしないで離れてった。
掴めないこの手は血と泥を握り締めてた。

届かない声のことを知っていますか?

そっと取り出した方位磁石、ふらふら頼りなくて。
見えない先を余計あやふやにしてた。

君が居なくなったからもう立つ必要もなくなって。
正しさと僕とこの方位磁石は良く似ていると想ってみた。

届かない声がもし届いても、もう同じだから。

届かない声になった僕を知っていますか?

消えた正しさと消えた僕を汚れた方位磁石が指し示してた。
消えた路は消えた笑みと消した想い出を埋めてた。

零と壱の綴れ織。
過去 一覧 未来