6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2006年02月28日(火)   BT30題「27) 怒っちゃいないさ」

表にあげた話の、もう一つのバージョン。

↓にアップされてる話(未完成品)を書きながら、しっくりこない、と悶々とし続けてたところ。
Yさんの「トグにさせたい萌え動作(?言動?)」の提言に、パッと閃く。
まさに、雷に打たれたかのごとく、ピッシャァーン!!!と(笑)

こうしたら、いいかもしれないよね!

で、速攻、萌えをベースにして書き上げて。
表の文は、やっとこ完成したのでした(笑)

そしたら、途中のまま残ってしまった文が、発生。
このまま放置するのも、なんだか勿体なくて。 ←貧乏性?

コレも書き上げてみたり。

うんーーー(悩)
まぁ、これはこれで、ありかなぁ?とも思いますが(笑)
なんとなく。
表にあげたほうが、原作バトグサにしっくりクル気がするワケでした☆





























一瞬の油断。
気付いた時には、撃たれていた。
怯えたような目をした武器の運び屋に、話し合いの機会を与えたのが、まずかったようだ。
ただ、ラッキーなことに、この男の射撃能力は低かったので(銃を撃った経験が少なかったのかもしれない)、致命傷になることはなかった。
小口径の銃から放たれた弾丸は左腕を掠り、背後の壁に。
腕に焼けるような痛みが走った瞬間。
それに顔を顰めながら、トグサはやっぱり自分は甘いと舌打ちした。
そして、踵を返し慌てて逃げ出す男の背に、銃口を向けた。
狙いは足だ。
死人は何も語ってはくれない。語らせるには、動きを封じるだけでいい。
それは、自分を拾い上げてくれた女の教えだ。
が、突然、降ってきたものに標的を遮られる。
目の前には、ビルの屋上を伝いながらフチコマで周囲を警戒していた相棒の姿があった。

「撃たれたとこ、見せろ」

バトーは、犯人にも目もくれず、撃たれた左腕に手を伸ばしてきた。
俺の怪我を気にする場面じゃないだろう。
その手を振り払い、湧き上がってくる感情のまま、トグサは怒鳴った。

「俺のことはいいから、行けよ!犯人確保が先だろ?!」
「フチコマに追わせた。逃がしやしねえよ」

微かに眉間を寄せたバトーの表情と、その口が吐いた言葉に、眩暈がするような怒りを感じた。

そうじゃない。

自分を気遣ってくれるのは、嬉しい。
けれど、ここで、それを見せないでくれ。
それでは、あまりにも、自分が惨めだ。

トグサはもう一度、怒鳴った。

「いいから、行け!!」
「───────」

それでも、バトーは動かなかった。
ただ、トグサを阻むように立っている。

「あんたが行かないなら、俺が行く・・・」

バトーを押しのけて、犯人の後を追おうとしたその瞬間。
電脳に、明るい声が響き渡った。
それはフチコマからの電通で、トグサは足を止めた。

『バトォさーーん、トグサくぅーん、この人どーすればいいー??』

どうやら、犯人を難なく確保したようだった。
それに、バトーが応える。

「フチコマ、お前はそのまま本部に戻って、そいつを少佐に渡して来い」
『いいのー?』
「いいさ。ワイヤーでぐるぐるに巻いて連れてけ。そんで、少し怖いメに遭わせてやれや。そしたら、素直な気持ちで色々喋るだろうからよ」
『怖いメね?ラジャー♪』
「俺らは後から行く。だから、お前はさっさと行けー」
『アイアイサー♪♪』

僕が褒められちゃうかもね〜と言う、やけに楽しげなフチコマの声が電脳に響き、回線は閉じられた。
トグサは、その場に立ち止まったまま、動く気が起きなかった。
無言。
胸に燻る怒りが、表情を歪ませる。
バトーもその場に無言のまま立っていたが、大きな溜息を一つ、わざとらしく吐くと口を開いた。

「おい」
「────────」
「何か言えよ」

でも、答える気にならない。
黙っていると、バトーがまた、声をかけてくる。

「無視するな、トグサ」
「──────────」

耳に馴染んだ低音が、不快に聴こえるのは、心がささくれているからだ。
その原因は、自分に起因するのが、尚更に苛立ちを生む。

「怒ってるのか?」

そう聞かれて。

「怒っちゃいないさ」

感情を抑え、答えた。
それは嘘だ。
みえみえで、バレバレの嘘。

怒っているさ。

いつまでたっても、生身の俺に甘いあんたに。
それから、甘さが抜けず己の身も守れない、自分自身に。
むっつりと押し黙り、その場から動かないそんなトグサに、バトーは呆れたように口をへの字にした。

「まったく、お前は融通がきかねえ」

今度は黙らずに話し出した。少し、笑っているような声で、言葉を続ける。
それが、また、癪に障った。

「何でも自分でやろうとしなくても、いいだろが」
「ウルサイ」

黙っていられなくなって、吐き捨てるように返す。

「利用出来るものは何でも使え。フチコマは俺達のフォローの為にあるんだぜ?」
「・・・・・・・・・そんなのは解ってる」
「怪我したら、大人しくしてろ。俺に頼れ。フチコマだって、便利に使えよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

どれも正論で、反論できない。
それが、更に、腹立たしかった。

「何?お前より先にフチコマに指示したのが気に入らなかった?もしかして、嫉妬しちゃった?」
「する訳ねえだろっ!!!」

突然、ふざけたような口調になったバトーに、トグサは思わず大声を出してしまった。

まるで、図星を指されたみたいな反応じゃないか。

そう思ったが、トグサはむっつりとした態度を崩さず、違うと自分の中で否定する。
そんなことはない。

「誰もお前が使えねぇなんて思ってねえだろーが。大体、お前を使えるようにしたのは、この俺様だぞ?」
「そういうことじゃねえ!」
「じゃあ、なんだ?」

バトーに問われ、言葉に詰まる。

「・・・・・・・・・」

どう言っても、情けない気がして、トグサは言葉に出来ない。

「そんなに、気に障ったのか?お前の怪我のほうを優先させたことが」
「・・・・・・ッ」

今度こそ、図星を指されて、口許が歪む。

「お前のプライドを傷つけたんなら、謝るが…でもな、俺の心配も解ってほしいね」

それに苦笑を浮かべたバトーは、そう言いながら大きな手で頭を掻いた。

「・・・・・・・・」

黙ったまま聴いていると、

「あと少し、ずれてたら、致命傷になってたかもしれねえ」

義眼が静かに、トグサの怒りを抑えた目を射た。

「お前は、何が命取りになるか、判らない。俺は、それが怖いのさ」

バトーは、少しだけ早口に、そう締めくくった。
いつもとは違う、深い声。
トグサはそれに、戸惑ってしまった。
この男は、いつも。


卑怯だ。


ふざけて、からかって、そして。
突然に、真剣に、生真面目に、こういうことを口にするのだ。

「怒ってるか?」

伺うように首を傾けるバトーに、トグサはしかめっ面を変えないよう努力して、

「怒っちゃいないって、さっき言ったろう」

それだけを口にした。
これ以上話せば、ボロが出る。そう思ったのだ。
この男に気遣われるのは、正直、嬉しい。自分が、この男にとって、少しは大切な位置にいると思えるから。
だが、やっぱり。
甘さよりも、優しさよりも。

強さから生まれる信頼が欲しい。

この男に相棒として認められる様に、なりたいのだ。
背中を預けても安心だと、思われる様に。

「そ?ならいい。そんじゃ、本部に帰るとしますか」
「ああ」

でも、そんなことは、この男にだけはバレたくない。
歩き出した男の大きな背中を眺めながら、トグサはしかめっ面をキープし続けるのに四苦八苦していた。






END



2006年02月22日(水)   夜は問い、月に語る

無敵の女王様企画

2月22日0時更新───に、モノの見事に間に合わず(号泣)

午前2時に更新の罠発動・・・・・orz

お題のの両方を絡めて、そこに月のイメージもいれてみましたよ。

少佐とサイさん。
9課設立当時、な過去系。
妄想の激しさに、吃驚でス。わ。 

捧げ文「死神〜」の続きみたいな雰囲気になってしまいましたね(笑)
ずっとあの続きを書きたいと思ってたので。
ほんとは。
もう少し、書き様があった気もするんですが。

今はコレが精一杯・・・(花を差し出しながら)



とか言って。
知らぬ間に、書き直してるかも・・・・ネ☆(ノ´∀`*)
























新しい住処となるビルの屋上。
吹き荒ぶ風に曝されながら、眼下を見下ろす。
乱立する高層ビル群。
氾濫する光。
それを縫うように走る幾筋もの帯は、車道だろう。

溢れる人々、物。

どれも、今まで生きてきた場所には、無かったモノだ。
銃声も硝煙の臭いも、爆音も。
曝されたままの死体、乾いた血の跡も、倒壊した建造物も、無い。
憤怒、慟哭、悲鳴も、嘆きも。

冥い闇夜も。

ここには、無い。
恐ろしいまでに整えられた街並みは復興の証だが。
奥底深く何かを孕み、この街は眠っているだけだと感じる。

いつ、目醒めるのか。

それはまるで、身の内に獣を飼っているようで。
肌に馴染む、気配がした。
ここも、形は違うが、同じリアル。

戦場なのだろう。


「サイトー」


背後から、自分を従わせる声が、名を呼ぶ。
振り返ると、そこには、女の姿があった。
紫暗の髪、血色の双眸。
自分を支配する美しい女の姿が。

「少佐か」
「何をしてる。こんな寒い中、ぼうっとしてると風邪をひくぞ?」

からかうようにそんなことを言う女に、口の端を引き上げて見せた。
完全義体の女。
引き換え、自分はほとんどが、生のままだ。
電脳化。
それから、女に奪われた左眼と左腕以外は。

「生身も、そうヤワなもんじゃない」

肩を竦め、おどけて見せると。
近付いて来た女は微かに笑い、すまないと口にした。
その言葉には、謝罪というより、返された応えに面白がっている節があった。

「生身の感覚を失くして、久しいからな」

世界最高の義体使い、そして、電脳使いでもある女。
戦場で、この女を知らぬ者は無い。
戦いの支配者。
美しい死神。
この女が、この女である為に何を無くし失い、捨ててきたのか。
付き合いの短い自分に知る術はないが。
今、目の前にある、赤い眼があれば。
それで良かった。

「あんたは、その感覚を義体を操る術に昇華した」

そう言う事だろう、と返すと女は瞬きをして、薄く微笑んだ。
屋上に張り巡らされた低いフェンスに寄り掛かり、それを残された右目で捉える。
戦場を駆けるこの女は、まるで、夜のように静謐。
そして、新月の様に鋭利。
けれど、こうして微笑を浮かべる姿は、満ちた月の光のように柔らかい。

「ここで何を視ていた?」

隣りに立った、夜を纏う女は眼下を見下ろし、問う。
先程まで視ていた景色に背を向けたまま、応える。

「これから戦場になる街が、どんなものか、視ていた」
「そうか」

頷いた女は、静かに街を視界に収め。
自分は、その女を見遣った。

軍を離れた女に従って、日本国の組織に属することになった。
勿論、イシカワやバトーという大男も一緒だ。
対テロ組織、公安9課。
別名を攻殻機動隊。
警察機関でありながら、軍隊並みに攻性の部隊。
しかも、大臣直属で目障りな人間が介在しない優位な立場のおまけ付き。
実質の指揮者は、女が信頼する人間だから、これ以上の居場所もないもんだ。

テロリスト紛い、いや、そのものの様に生き狙撃もしてきた自分が、対テロ組織の一員とは。
似つかわしいとも思えず、笑えるが。

自分の存在する場所は、あの女の傍しかないのだから、否やがあろうはずもない。



肩越しに、街を見下ろし、流れ明滅する光に目を細めた。



この国は、世界のどの国よりも、光が溢れている。
昼夜を問わず、人が蠢き、あらゆる物が動く。
けれど、きっと。
その光のせいで。
どこの国よりも、深く冥い、闇が存在しているのだ。

女は。
その闇を、敵に定めたのかもしれない。
ならば、それが自分の敵だ。

黙したまま、沈黙に身をゆだねていると、不意に女が口を開いた。


「満足しているか?」


それが、何に対しての問いか、すぐに解った。
己の立ち位置。
心の在り様。
矜持。
俯かず、折れず、居られるのか。

「いきなり、どうした」

そう返すと、女は彼方の闇を見据えたまま、口を閉ざした。
否と言わせぬ支配者の口で、言葉を吐くくせに。
この女は、いつだって、答えを求めている。
そう感じるのだ。

あの時、答えを求めたように。

生と死の境界に追い込み、
「私の部下になれ」
そう、命じながらも。
それでいいのかと、赤い血色の目が問うていた。
今も、同じ目をしている。

女の静かで、美しい横顔。

どう、この女に説明すべきか。
自分の今の感情を。
一度、国を捨て、他国で生きた。
己の引いた引き金で、死んだ人間はどれほどか。
国など持たず、生き、死ぬ覚悟だった。
それが、拾われ、舞い戻ることになったのは。
生きて手足となれと命じた、この、草薙素子という女ゆえだ。
しかし。
それでいいと選択したのは間違いなく、自分。
ここに立つ、己自身だ。

「らしくないことを訊く」
「────孤高の一匹狼が、首輪を付けられ、飼われることになった」
「飼われる、という感覚がないな」

国に飼われるつもりは無い。
あるとすれば。
女に付けられた首輪を外すつもりが無いという意思だけだろう。

「俺は、草薙素子という女に命を預けた」

今に、満足している。
そして、これからも、この満ち足りた気持ちが欠ける事は無いだろう。
この女に失望する日など、来はしないのだから。

「それだけの話だ」 

そして、従う自分に、嫌気が差すこともないのだから。

「違うか?少佐」

この答えに、満足するか?
逆に問うと、血色の眼が、こちらを向いた。

女は、瞬きをすると薄っすらと微笑んだ。


「そうか」





その一言が、自分を支配する。









夜の帳に覆われる空を見上げた。

星がまばらに散ることも無く。
月もまた、無い。




ただ。

地上の月だけが、傍らに佇んでいる。









END



2006年02月16日(木)   BT30題「15) 深夜残業」

BT30題。
SACベース。短文。
お色気系もどき。 ←もどきってナニさ?

えー。
えー。
どう弁解したらいいのか、わかりません。

ちょっと、顔を覆いたいカンジで、恥ずかしいですネ(笑)































深夜に仕事が終る。
帰宅するには微妙な時間。
気が付くと。
義眼の男のセーフハウス。

自分的に、この流れは、どうかと思うが。
いつも、こうなってしまう。

困ったものだ。





「何だよ?」
「こんな時間に、あんたの顔を眺めてる不思議について考えてたのさ」
「ハァ?深夜残業ん時だって、見てるじゃねえか。何が不思議なんだか?」


深夜残業の時は、仕事をしてるだろう。
今はベッドの上だ。
その不思議について、どう説明がつくのやら。


「コレが、深夜残業だとでも?」
「ふん。こんな残業なら、いつでも歓迎だがな」
「……あんたなぁ」
「気持ちイイことして、夜を越す。ヨクねえかよ?」
「悪食」
「じゃあ、そんな俺に付き合ってるお前は何なんだ」
「……物好き?」
「言ってろ」


男は笑って、覆い被さってくる。
それを払い除けるのも、至難の業。
────結果、いつもの流れに飲み込まれる訳で。






全く。
困ったものだ。





END



2006年02月14日(火)   BT30題「29) チョコレートブラウン」

BT30題。
SACベース。
バレンタイン仕様inバトグサ。

─────なんか、微妙に恥ずかしいのは、気のせいではありません(断言)

SACのつもりで書いたんですけど。
これまた微妙に、原作の気配が漂ったり。

ムァア・・・・orz

チョコレートはあげるより自分で食った方が幸せ派ですから。
こういう雰囲気は書けないのかもしれませんね(断言)
































習慣、風習、年中行事などとというものは。
どれ程、科学が蔓延した世の中になっても、しぶとく生き残るもので。
クリスマスになれば、キリスト教徒でもないのにケーキを食べて騒ぎ。正月になれば、初詣におせち。節分になれば豆を投げ。
世間はそれ一色に染められる。
日本というのは、どこまでも暢気な国だ。
ちなみに。
今現在、街を彩るのは、甘ったるい匂いがする褐色の菓子だった。

聖・バレンタインデイ、というやつである。

傍らの相棒はといえば。
それの恩恵を受けたのだろう。
朝から満面の笑みでご機嫌だ。
奥さんと子供から貰ったチョコレートを手に出勤してきたのだから、相当、嬉しかったと見える。
昼の休憩時間には、嬉しそうにそれを口に運んで、子供のように無邪気に幸せそうな表情をしていた。
そんなトグサを少々、いや、かなり呆れた目で見る。
これが、公安9課なんて物騒な職場で働いてる男だろうか。
有り得ん。
そんなことを考えつつも、他愛の無い会話をしていると、トグサが何の気なしに、

「サイボーグ食のチョコってあったよな。こないだ、ボーマが食べてるのみた」

こんなことを言った。

「旦那は貰うアテはないのかよ?」

そうくるか。
特別なにかの思惑があって、言い出したのではないことは、顔を見れば判るが。
隠密裏の荒くれ稼業をしてる独身の男に、アテなどあるわけがないだろうに。
身近にいる女といえば、全身凶器のアノ女しかいない。
世の働く女は、同僚である男達にチョコ(主に義理)を配るのが通例らしいが。

アノ女が、同僚(自分達)にチョコを用意して、配る?想像も出来ん。

妙な想像をしてしまったせいで、眉間が自然に寄ってしまう。
それを振り払い、口許を歪めて、鼻息も荒く答えを返す。

「ふん。サイボーグ用の味気ないモン食わされるくらいなら」

そして、それに浮かんできた言葉を付け足した。
幸せな男に、これくらいの意地悪は、許されるだろう。

「お前でも食ったほうがましだね」
「・・・・・・」

トグサの顔が、微妙に歪んだ。

「チョコみたいな色してるもんな、お前ってよ」
「…あ、あんたなぁ」

耳に心地いい、甘い低音が呆れの色を含む。
間違ったことは言ってない。
チョコレートブラウンの髪。チョコレートブラウンの双眸。
トグサの髪を一房掴むと、それに口許を寄せ、耳元で囁く。

「一つもチョコを貰えない男を哀れに思うなら、今夜、付き合えよ、ん?」
「────逆らう気も、失せた・・・」

トグサは、がっくりとうな垂れた。
しかし。
しょうがない、そんな苦笑を浮かべたトグサの表情を見逃さなかった。
自分の内側に入れた人間には、どこまでも甘いのだ、この男は。
中身も甘く出来てる。

そう、チョコ並みに。

たまには、バレンタインという世間の流れに乗ってみるのも悪かない。
トグサの髪を指先で弄びながら、にんまりと笑みが浮かぶのをとめられなかった。





END

ヒェィ(((;´Д`)))ジブンデカイテオイテ震エガキターーー



2006年02月11日(土)   ソバニイテ

今回は、義眼と生身の話じゃなく。
若かりし頃の髭の人と女隊長さんの過去話でございます。

なので、少しだけ。
少佐がか弱い感じに仕上がりました。

それにしても。
またしても、絵師さんの絵の威力にヤラレました。
想像(妄想ともいう)の翼がばたばたいいっぱなしです。
おかげで、萌えに任せて、書いてしまいましたもの。←通常通り

イシ素をね。

Bさん、いつも萌えをありがとうございます。
萌え絵と萌え設定に、日々、転がされとりますよ(´∀`*)ノシ
そして、いつもウザイくらい、文を押し付けてすみません・・・orz

頂いた萌えを少しでもおかえし出来てれば、いいんですが(汗)

最後に。素敵絵のお持ち帰り+掲載許可をありがとうございました!
ドキドキしながら、貼らせて頂きました(緊張)

B会長の恩に報いるために、イシ素普及協会平会員は、こそこそ頑張ります(笑)


























雨は嫌い。

何かを無くす時。
いつも雨だったから。

身体を無くした時。
仲間を亡くした時。

心の一部を無くした時。


いつも、雨だった。


だから、雨は嫌い。
揺らぐゴーストを突き刺すように降る、雨が嫌い。






共有室を覆う強化硝子に、雨の雫が落ちてきたのは、何時間前だったろうか。
ただ、待機するのにも飽きて、眼下に広がる夜景を見始めて直ぐだったような気がする。
ログを調べれば正確な時刻を知ることも出来たが、知る必要もない事だったので、止めた。

「どうした、少佐。んなとこで、ぼーっと」

耳に馴染む、男の声。
姿を確認しなくても、誰だか判る、掠れた低音。
ダイブルームの主も、情報の海を泳ぐのに厭きたのだろう。
暫しの休息を得に、ここに来たのに違いなかった。

「───イシカワ」

血の繋がりよりも、濃い絆を感じるほど、長く。
死線を共に歩いてきた、男。
戦友であり、仲間でもあり───。
この男との関係を言葉で表すのは、酷く、難しい。

「どうした?」

闇色を溶かした硝子に、近付いてくる男の姿が映る。

「どうもしない」
「そうか?」

傍らで立ち止まり、訝しげに見下ろしてくる男に、少し逡巡。
慎重に、言葉を選んでから、口にした。

「・・・ただ、雨を見ていただけ」

そう、ただ、雨を見ていただけ。
そこに、深い意味も、語るべき理由も無かった。
無いはず、だった。

「雨は、嫌いか?」

男のその問いに、ゴーストが揺れる。
奥底に沈む囁きが、浮かび上がり、形を成す。

「─────────────嫌い」

雨は嫌い。
底にある過去と、記憶の中の想いが、電脳に拡がっていく。

「俺は」

ジャケットを探る音に次いで、パッケージから煙草を抜き出す音がした。
硝子越しに視線を向けると、煙草を咥えた男と目が合う。

「嫌いじゃないがな」

慣れた手つきで火を点けた男は、白い煙を吐き出しながら、そう言葉を続けた。
その口許には、笑みが浮かぶ。

「何故?」

そんな笑みを見たのは、久しぶりで、思わず訊き返してしまった。
男は鏡越しにこちらを見ている。

「・・・何時だったか、まだ軍属だった頃。俺が死にかけた時があったろう?お前に、助けられた、あん時さ」

それから直ぐに視線を眼下の景色に移すと昔を思い出すように遠くを見つめるような目をした。
男の言っている過去が、いつのことだったか。
記憶が引き出される。

「雨が、降っていた」

覚えている。
肌を刺す雨も、纏わりつく空気も、揺らぐゴーストも。
叫びだしたくなるほどの焦燥も。
何もかも。

「───────」

「だから、俺は雨が嫌いじゃないのさ」

男は煙草を口許から離し、煙を吐き出すと、そう言って。
硝子越しではなく、こちらを向いて、笑った。







鬱蒼と茂る密林。
奇襲は失敗に終り、指揮官が退くタイミングを逃した代償は、多くの兵士の命で贖われた。
戦場で否応無しに求められるそれは、恐ろしく重く、そしてまた、恐ろしく軽い。


例えて言えば、散る花のように。


無情にも降り出した、雨。
深く茂る枝葉を貫き、足場を崩す泥濘を生む。
断続的に響く、銃声。喧騒。
鈍く響く、水音。

刹那。

自分の傍らで倒れたのは、長く背中を預けていた髭面の男だった。
血の気が引いた。
ゴーストが震え、それに同調するように銃を握る手が震える。
しかし、紅い義眼が捉えた標的を撃ち漏らすことだけはしなかった。
したくなかった。

「私を庇う奴があるか!義体は撃たれても死なない・・・ッ」

倒れ逝く標的から、意識を逸らし、足元で蹲る男の身体に手をかける。
違う。
怒鳴るべきは、自分。
気を散らした、自分自身にだ。
どんな状況でも、冷静に己を制御しなければならないというのに。
自分に向けられた銃口、殺気を感じ損なうなんて。
男に庇われ。
男に負わなくてもいい傷を与えた。
悔恨に銃を握る指先が冷える。
そんな感覚をもつことのない義体だというのに、恐ろしいほど、ぞっとする冷たさを感じた。
それをかき消すように。

「そんなことは解ってる。が、動いちまった、もんは仕様がねぇだろうよ?」

苦痛に呻く声で無く、飄々とした応えが鼓膜を撫でた。
焦る心の中、この男らしい口調、言葉に安堵が生まれる。
が、状況は笑い出したいほど、最悪に近い。
素早い行動と的確な判断が、生死を分かつことに違いは無かった。
男の身体を木々が折り重なる場所に引き摺り込み、撃たれた箇所を確認する。
銃創から流れ出た血は、衣服を染め、溢れ出ようとしていた。
どちらも致命傷ではなかったが、生身の部分を多く持つこの男は、ほんの少しのきっかけで死んでしまう。
血が多く流れ出れば、それが死へと直結する。
そう、考えた時。
作戦のお粗末さも、指揮官の無能さも、この軽装備も。
己の迂闊さも。
吐き気がする程に、厭わしく感じた。

「肩と、脇腹か・・・」
「おい、こんな事してると、囲まれるぞ」
「今更だ」

肩から掛けていた銃弾のホルダーを素早く外し、迷彩服の上着を脱ぐ。
雨で湿ったそれを裂き、止血に使う。
浅い息を繰り返す男の、血と泥に塗れた服の上から、肩を締め上げるようにきつく巻き付けた。
脇腹にも、血止めの為に巻き付けるが、直ぐに血が滲んでくる。
それに舌打ちをし、残りの布を押し当てた。

「今以上に、退路を断た、れると、お前まで」
「ウルサイ!黙っていろっ」

見捨てることなど、出来ない。
出来るわけがない。
この男を置いて逃げ、生き残ったとて、それが何になるのか。
ホルダーをタンクトップの上から掛け直し、ぐったりとしはじめた男の身体を背負い上げた。
非力な女ではなく、義体化した身体であることをこれほど感謝したことは無い。
けれど、その義体は。
背負った男の体温が徐々に失われていくのを克明に感じ取り、全身に伝え、そして、ゴーストを揺らす。

忌々しい、雨。
髪を伝い、頬を濡らし、肩を滑り落ちる。
そして、服を湿らせ、背に負う男の体温を容赦なく奪っていく。

「あれだな、少佐」
「喋るな、死にたいのか?!」
「・・・・な女の腕の中で死ねたら、最高だが」

男は、黙らない。

「お前の背中で死ぬのも、悪かない、な」
「馬鹿!誰が死なせるか・・・ッ」

その叫びは、自分でも判るほどに、掠れ震えていた。







嫌になるくらい克明に。
まるで昨日のことのように。
ゴーストと電脳に刻み込まれた記憶は甦る。

雨と、泥。
纏わりつく、甘く、生臭い臭い。
流れ出す、赤い血。
吐く息に、咽喉が焼かれるような、感覚。

冷えていく身体は、どちらのものだったのか。
揺らぐゴーストが叫んだ言葉が、なんだったのか。



それらを振り払い、感情を押し殺した声で、口を開く。

「あなたは、死にかけてたのに、口が達者だったわよね」
「ふふん。あの状況であれだけ喋れれば、上等だろう?」

飄々とした語り口は、あの頃から変わっていない。
あの後、救援の信号をたよりに救出にきた別働隊と合流した。野営地で男が治療を受けているのを傍らで見守った。
総てが終り、ベッドの上で煙草を吸うその姿を見て、心底。
泣きたいほどの安堵を感じたのを鮮明に思い出す。
覚えている。
何もかも。
男が、総てを知っているかのように、笑い。
「そんなカオ、お前には似合わん」
そう言ったことも。
笑んだ髭面が、無性に、愛おしいものに見えたことも。




この男は飄々と語り、何気ない顔をして、安堵を与えるのだ。
今も、傍で、変わらずに。





強化硝子を叩く雨は、激しさを増してきた。
大粒の雨が、硝子に弾け、流れ落ちていく。
このままいけば、今日の任務は、雨中の作戦となるだろう。
あの時と同じ雨。
けれど、今降る雨は、似て非なるものだ。
叫びだしたい、もどかしさも。
焦りに似た、衝動も。
身の内に巣食うことはない。
あの頃には、持ち得なかったものを、手にしているから。

「イシカワ」
「何だ」

傍らで煙草の煙を吐き出す男の腕を、拳で叩く。

「コーヒー、淹れてあげる」
「こりゃまた、珍しい」

咥え煙草のまま、大袈裟に驚いてみせる男に、少し眉を顰めた。
にやにやし始めた口許から、短くなった煙草を掠め取る。

「少し、付き合って」
「喜んで」

問答無用の色を滲ませた言葉には、笑い含みの答えが、返ってきた。





そういえば。
あの時から、失うものが、減った気がする。
無くしかけたものを、この手で繋ぎとめられるように。
なった気が。

けれど。

それでも。
私は、雨が、嫌い。
ゴーストを刺す様に降る、雨が嫌い。




だから。
傍にいて。






少しだけでいいから。








END



BUBさんのこの絵がなければ。
この話は生まれてませんでした。
素敵な絵と出逢えて、文を書くことが出来て、幸せです。
BUBさん、本当にありがとうございました!



2006年02月10日(金)   BT30題「4) ツーマンセル」

BT30題。
犬ベース。
甘アマ系。犬扇子その後の感じで。

書き終わって、読み返してみたら。

かなり甘い気配が滲んでました・・・orz

犬、というと大概、苦い、切ない仕上がりになるのが常なんですが。
反則的に、こんな感じに。

・・・・?????(困惑)

トグがなんか、初恋をしてる青少年(むしろ乙女?)みたいになってますよ???


































ハダリ。
ロクス・ソルス。
北端。
人形になりたくなかった、子供。
人間になりたくなかった、機械。

守護天使の降臨。

絶望から解き放たれたゴースト。
電子の海に溶け込むゴースト。





陽の光差す、懐かしき過去への回帰。














あの事件が解決して以降、この男とは組んだままだ。
相棒として、任務にツーマンセルで当たる。
以前と同じ様に、男の背を見て歩き、皮肉混じりの言葉を交わす。

けれど、何かが、少しだけ。
変わった。

壊れたものは元には戻らないが。
新たな形を得て、再生されたように。


男は変わった。


独りではないことに。
あの北端の地で。
追い求めていたものが、すぐ傍にあることに。
彼女とのつかの間の再会が、気付かせたのだろう。
過去に囚われる必要がなくなった男は変わった。

そして、自分も。

過去に囚われた義眼に、焦燥を。
既製品の言葉に、喪失を。
苛立ち、胸を裂かれていたことが、まるで嘘のように。
綯い交ぜの感情を隠したまま、見ていた背中を。
凪いだ心で見ていられるようになった。

今はもう、届かない背中に怯える必要もない。
拒まない背中が、そこにある。

手を伸ばせば、届く距離に。

だからといって。
この男との間に横たわる距離を越えようとは思わない。

触れたいと思う心と。
今までの距離を維持しようと思う心。
それを程よく共存させて。

男との、新たな距離を築いていければいい。
彼女とは違う形の相棒に、なっていければ。
いいと思っている。








部長の執務室に呼ばれ、男と共に向かう。
また、物騒な事件の始まりらしい。
悪が眠ることは、ないようだ。

男が自分の前を歩く。
それを視界におさめながら、数歩遅れてついて行く。
以前はここで生まれる無言に、叫び出したい程の苛立ちを覚えていたが。
今では、気にならない。
不思議なものだ。

男が歩くたびに、結わえられた髪が左右に揺れる。
それを何の気なしに、見て歩く。

白銀の髪は、犬の尻尾のように、揺れていた。

そういえば。
以前、この男は短髪で。
この髪形になったのは、彼女がいなくなってからだ。
これから、どうするんだろう。
切ったりするんだろうか。
それとも、このまま現状維持か。

何故、唐突に。
こんなことを考えたのか、自分でも良く解らない。
拒まない背中が、目の前にあったからだろうか?
手を伸ばせば届く、背中。
揺れる、白銀の髪。
やっぱり、触れてみたいのかもしれない。

瞬間。

「何だ、トグサ」

男の困惑の声と、窮屈そうに肩越しに振り返る義眼。
自分の手には、男の結わえられた髪。
その事実に、頭が一瞬、白くなる。

フリーズ。

触れたいと思う心のままに。
無意識に伸ばされた手。
何をやっているんだ、自分は。
子供だって、こんなことしやしない。

「────わ、悪い。何でもないんだ」

上擦ってしまった声に、訝しげな視線が返ってくる。
なんて、居た堪れない。
だからといって、あんたの背中に触れてみたかった。
とか。
揺れる髪が、気になった。
なぞと言えるワケもなく。

「気にしないでくれ」

慌てて、固まった様に髪を握り締めていた手を離すしか出来なかった。
するりと滑らかな感触が指を掠めていく。
男は、まだ、自分を見ている。

「─────」

この義眼の視界から、逃げ出したい。
男が何かを口にする前に。
その衝動に突き動かされ、急ぎ足でその場を離れようとした。
が。
男の傍を擦りぬけようとした、その瞬間。

笑う気配を感じ、足が止まってしまう。

恐る恐る、振り返ると。
男が笑っていた。
口の端を少しだけ、引き上げて。
そして、深く響く低音で、言葉を紡ぐ。

「揺れてるモンに反応するなんて、猫か、お前」

過去の言葉の引用ではない、男自身の言葉。
ゴーストを揺らす声。

「───ッ」

ああ、やばい。
これは、想像以上に、やばい気がする。
距離が近すぎるし、刺激が強すぎる。


「……猫じゃねえよ、馬鹿」


それだけを無理矢理、何とか吐き出して。
止まってしまった足を動かす。
すたすたと早足で、男との間に距離を作る。

「おい、トグサ。どこまで行く気だ?猿オヤジの部屋はここを曲がらねえと行けねえぞ」

「…………」

馬鹿だ。
自分は、呆れるほどの馬鹿だ。

男の背を見、追っていくことに夢中になって、周りが見えてなかった。

体温が、面白いほどに上がっていく。
きっと、今、自分は凄い顔をしている。
この男にだけは見せたくない。

が、呼び出しを無視することは出来ない訳で。

苦肉の策は、男より前を歩くこと。
俯いたまま、方向転換。
待ち構えるように立っている男の前を通り過ぎ、執務室へ続く通路へ入る。

「変な奴」

男の笑う声が、すぐ後ろでした。




早く、新しい距離を作り上げなければ。
そうじゃないと、やばい気がする。

職務に影響を及ぼすつもりは全くないが。
別なところで、影響がでそうで。

それだけは、嫌だ。絶対に。

今以上の変な奴になってしまうのだけは。





この男とのツーマンセルは、前途多難かもしれない。








END



犬で、こんな話。
ありなのか。
ないのか。

うううん?????(唸)


コノ話の素は。
Yコさんと語ってたメッセだったり。
犬は全てがエロス。
とか。
バトさんの髪の毛、結ってるとこ掴みたいっすよね〜。
とか、話してまして。
普段はしそうにないことを、するのって萌えですよね〜。
それを犬でやったら、どうでしょうね〜。
なんて、言ってるうちに。
私の中で、全部、結びついちゃって。←何故

出来た話がコレカーーーーーーーーーーーーーー!!!!!(自分にツッコミ)

というオチ。←オチてない。
自分の頭が導き出した答えに、何気に、ビックリです。
なんか、犬じゃない気配ですが。
たまにはこんな話もあってもイイかなと、思うわけで。

・・・・・ね?(。。;)



2006年02月09日(木)   BT30題「10) シャツの汚れ」

BT30題。
原作ベース。
お色気系とみせかけて、お笑い系の罠。

原トグは怒ってたり、叫んでたりするのが、多い。
原バトさんはニヤニヤしてたり、セクハラしてたりするのが、多い。

それによって導き出される答えは、原作ベース=お笑い系、ということだろう。 ←今更ジャン































「あんたと組むと、ロクなことがない」
朝、自宅を出た時は真っ白だったシャツが、泥まみれで薄汚れてしまっている。
勿論、上着は更に上をいき、目も当てられない状態だ。
トグサは、苦々しげに肌に張り付くシャツを引っ張り、それから、傍らの大男に突き刺さるような鋭い視線を向けた。
そこには、似たり寄ったりの格好をしたバトーがいて、半笑いを浮かべながらその視線を受けている。
「お前と組むと退屈しねえよな〜」
「あんたと組むと、ロクなことがないッ!」
そんな男の態度に、トグサはもう一度、同じ言葉を吐いた。




シャワー室が併設されているロッカールームに辿り着くと、トグサは忌々しげにベンチに泥だらけの上着を投げ捨てた。
それを見ていると任務中に自分に起きた出来事が再生され、腹立たしさが甦るようだ。


天井の抜け落ちた廃ビル。
逃げ込んだ犯人を追って、壁やら柱やらが倒れる悪路を駆けた。
そして、追い詰めた犯人と格闘している最中。

床が抜けた。

そして、落ちた先には折れ曲がったパイプから滴り落ちた水が溜まっており───。


結果が、コレである。
犯人は無事に確保したものの、間抜けといおうか、ナンと言おうか。
床が崩落した瞬間、犯人(サイボーグだった)を放り投げて、自分を庇ってくれたバトーに対して怒りの矛先を向けるのはどうかと思うが。
ぶつけないではいられない気持ちも、解ってもらいたいものだ。
「わぁるかった!トグサ君」
全く悪いと思っていないバトーのその言葉に、更にトグサの腹立たしさが募る。
でも、これはバトーに対するもの、というよりは自分の間抜けさ加減に対するものだった。
しかし、そんなトグサの複雑な感情など知らぬ気に、義眼の大男は口の端を意味深に引き上げると言葉を次ぐ。
「お詫びに」
瞬間的に、この先の言葉は聞きたくないと脳が判断した。
このカオ、この言葉。
きっと、ロクでもないことを吐くに違いない。
「遠慮する」
トグサは、速攻で断ち切った。
しかし、どれだけ予測が当たって、それに適した対処しても、この男が相手では。
「脱がせてやるよ」
全く、露ほども、効きやしない。
「遠慮するって言ってんだろうが。このエロサイボーグッ!」
「遠慮するこたねぇよ。俺とお前の仲じゃねえか」
「ドンナ仲だぁーーーーー」
バトーは嫌がるトグサの汚れたシャツをひん剥きながら、楽しげに鼻歌を歌う。
「ふざ、けんなっ!」
いつものように、全力で抵抗していると。

「何やってんだ、お前ら」

せめぎ合いを割るように、平然とした声が響いた。
「!!???」
「悪いが、ヤるならここじゃなく、仮眠室に行ってくれ」
声をした方を見遣ると、そこには、動じた様子さえ無い男が立って居た。
隻眼の狙撃手、サイトーだ。
「俺は人の濡れ場を見る趣味はないんでな」
助ける気配すらなく、意地の悪い笑みを浮かべるサイトーに、トグサはがっくりとうな垂れた。
弱々しく呟く。

「ここは、ほんとに優しさのない職場だよ・・・」

トグサの言葉に口の端を引き上げた狙撃手は、二人のことなど気にした風もなく、さっさと服を脱ぎ捨てシャワー室へと消えていってしまった。
「うう、サイトーめ。少しは気にしろよ」
恨み言を呟くと、能天気な声が腹の立つことをのたまった。
「ほれ、サイトーもそう言ってるし。気にしないで続きしようぜ?」
「 ナ ン ベ ン 言えば分かるんだッ!この ク ソ 野 郎 ー ー ー ー ッ !!!」
トグサの絶叫がロッカールームに響き渡った。








END



2006年02月06日(月)   犬と首輪

去年の5月に書いた「猫とリボン」の続編。

今度はバトーさんに犬になってもらいましたよ。 ←あーやっちゃった
犬の格好のまんまで終わらせたのが、私のなけなしの良心(え)

ほんとは、「猫」で終りの書き逃げのハズだったんですが。
当時、気に入った、と言ってくれる奇特な方々がいて(笑)
なんだか嬉しくなって。
続編、書こうとずっと練り練りしてました☆

その中でも、続きーと囁いてくれたM月さんに、こっそり捧げます。
よかったら、もらってやってください。
それから、サイト1周年、おめでとうございました!(遅ッ・・・orz スミマセン)
これからも、M月さんの素敵萌え絵&文を見るのにストーキングさせていただきますので、宜しくお願い致します(笑)←さらっと変態





























『じゃあ、貴方の初仕事よ。迷子にならないようにお供を付けてあげる。仕事が終わったら、寄り道しないで帰ってらっしゃい』
女はそう言うと嫣然と微笑んだ。







その日。
トグサは古い雑居ビルの隙間を縫うようにして続く、路地裏を歩いていた。
一歩前を道案内をするように、大型の犬が歩いている。
これから向かうべき場所は、電脳で拾えるような地図には載っていない、公的機関の情報網を駆使しても辿り着けない特殊な場所らしく、道を知るこの犬について行かねばならなかった。
それを見下ろし、
「なんで俺がこんなこと・・・」
トグサは溜息と共に愚痴をこぼす。
しかし、どれ程、愚痴をこぼそうとも。
行かねばならないのだ。
行かなければ、何が起こるか、知れたものではない。
身を守るためには、従うしか、ないのだ。
犬にはめられた黒い首輪を見るともなしに見ながら、トグサがもう一度、溜息をつくと犬は振り返り、同情するようにふっさりとした尾を振って見せた。
それに、笑って見せ、再び歩き出す。
途切れることのない雑居ビルの谷間は、昼間だというのに薄暗く、気が滅入ってくる。
長居したくない、という気持ちが自然、早足という動作になってトグサを急がせた。
そんなトグサの気持ちを察してか。
犬は、少し駆ける様にして先を急いでくれた。





そして、辿り着いた先は、今にも崩れ落ちそうなビルだった。
仄暗い地下へ伸びる階段がある。
とんとんと軽快に降りていく犬に続いて、トグサも階段を降りて行く。
そこに古めかしい木製の扉が現れた。
店名を示すような物は、何も無い。
ただ、彫り込まれた見事な幾何学模様が、目を引く。
トグサはそれを慎重に押し開け、更に続く階段を足音を殺して降りた。
その前を犬が導くように降りていく。
踊り場のような少し広い場所、そこから木製の手摺りが階段に添うようにあり、その先に煌々とした明かりが見えた。
手摺りに手をかけ身を屈めて覗き込むと、そこに背を丸め、開店準備をしている男が見えた。
バーテンダーの格好をした、スキンヘッドの大男。
この店の主。
名前は既に知っている。
トグサは残り数段になった階段を降り、声をかけた。
「あんたが、ベロニモ?」
その呼びかけに、大男はひぇえ、と小さな悲鳴をあげて振り返った。大柄な身体に似合わぬ、その臆病を絵に描いたような反応にトグサは笑ってしまった。
どうやら、準備に気をとられていて、全く気付いていなかったようだ。
男は、おどおどした様子を隠しもせず、
「・・・そ、そうだけど・・・・・・あんたは誰だい??見ない顔だ」
そう、逆に問うてきた。
「俺は、トグサ。見ない顔のはずさ、俺はこの店に初めて来たんだから」
テーブルに乗せていた椅子を下ろそうとした格好のまま固まっていたベロニモが、それに目を見開き首を傾げる。
「ど、どうやって、ここに来たんだ?あんた。ここは・・・」
「知ってる人間しか、辿り着けない場所だってんだろ?」
トグサは大男の言葉を遮ってそう言った。
「ここを知ってる人間に連れて来てもらえば、可能な話さ」
そこで初めて、ワゥ、と犬が鳴いた。
こっちを見やがれ。
そんな響きを持った鳴き声だ。
ベロニモはその鳴き声にも、ひぇ、と小さな悲鳴を上げ、すぐにその主が誰か気付いた。
身体を折り曲げ、そこに座る犬に憐れみの視線を送る。
「バ、バトーの旦那じゃないか・・・!その格好、また、姐さんに逆らったのかい?!」
ふんっ、という鼻息がそれに答える。

そう、トグサを導いてきた犬、その正体はバトーその人であった。

バトーの白銀の髪、そのままの色をした短い体毛、がっしりとした四肢をもつ大型犬。
義眼はつぶらな目に変わっていて、キレイな灰色の目をしていた。もしかしたら、義眼になる前の目の色かもしれない。
トグサは跪いて、バトーの背を撫でた。
「バトーのお仕置きを終わらせる為にも、あんたには仕事を引き受けてもらいたい」
そう言って、スーツの内ポケットにしまいこんでいたチップを取り出し、ベロニモに差し出した。
あの女、赤眼の魔女に手渡された、何らかの情報が詰まったチップ。
これを渡せば、コトは済むのだ。
バトーも人間の姿に戻れる。
トグサは真っ直ぐに、ベロニモを見つめた。
「───て、ことは。あんた、姐さん関係のヒトってこと?」
事情が飲み込めたベロニモは、姐さん、そう言って口許を引き攣らせた。
その表情で、あの女がどれだけ周りに脅威であるかが知れた。
今の所、自分も、この男とたいして変わりはないだろう。
まだ、あの女が何者で、何を自分に求めているのか。
分からないから。
「ああ、そうだ。と言っても、つい最近、なったばっかりの新人だけどね」
ワゥ、と同意の鳴き声がバトーから上がる。
「兎に角。これを芽吹かせてくれ、それが赤眼の魔女からの伝言だ」
「・・・わかったよ。いつまで?」
「明日までに」
「相変わらず、キビシイことを言うなぁ、姐さんは」
チップを受け取りながら、ベロニモは肩を落とした。
「じゃあ、頼んだよ。ベロニモ」
それに、トグサは満面の笑みで答え、バトーからも一鳴きあった。
バトーの背をもう一度撫ぜてから、トグサはここを出る為に立ち上がる。
階段に向かおうとすると、声が掛かる。
「一杯、飲んでいくかい?」
「薄めてない酒があるなら」
「・・・・・・手厳しいね。姐さんたら、そんな情報まで与えてるのか」
困ったような表情になった情報屋の大男に、トグサは笑って手を振り、階段を上り店を後にした。




ワゥワゥ、足元から、鳴き声がする。
「これで、任務完了だな」
灰色の目が嬉しそうに、見上げてきた。
トグサはしゃがみこんで、バトーと目線を合わせ、ニヤリと笑う。
「これで、あんたに借りが返せる」
ワゥ。
バトーはつぶらな目を少し眇めると、トグサの口許をべろりと舐めた。
それに、トグサはきょとんとした後、それがどういうことか思い至って顔を赤らめた。
本当の犬であれば、じゃれあいですむ。
でも、バトーは犬ではない。人間なのだ。
トグサは慌てて立ち上がると、すたすたと来た道を戻り始めた。
バトーを置き去りにして。
ワゥワゥ。
「さぁ、早く帰ろう」
犬の軽快な足音が、トグサの後をついて来る。
それを振り払うように、トグサは歩き続けた。







END



2006年02月05日(日)   赤眼の魔女

ハァィ!
6日にアップしてある「猫・続編」の穴埋め的文をこそーりアップですよ。


時系列に並べると→猫とリボン→赤眼の魔女→犬と首輪→になります。


気付いたら、増殖していた(。。;)ので、追加でアップの方向。
明日まで、待てない感じだったので、空いてる日付を利用しました☆

妄想し始めると、際限が無いですね、自分。

もう、なんていうか。
トンでも設定どころか、オリジナルに近付いてます。

恐ろしい。

最初はSACベースイメージだったんですが。
原作ベースのほうが、しっくりくることが発覚。
まぁ、どっちもありでいいんですがね。
だって、トンでも設定だから(ヲイ)

ごった煮でも、イイジャナイ。

ノッテると、一気に書ける。(本日の一気書き文、終了)
だんだん、長文モードに入ってきたかも新米。
ウッシャ!!

























バトーがトグサでもある猫を片手で抱き、女の住まう隠れ家を訪れると。
その到来をあたかも知っていたかの様に、女と、それに従う男達が集まっていた。
足を踏み入れた部屋は、壁の総てが書架になっており、時代を感じさせる蔵書の数々がきっしりとそれを埋めている。
しかし、不思議と室内は暗く無く、心地好い昼の日差しにも似た光が部屋中に溢れていた。
赤錆色をしたソファに腰を下ろしていた女が立ち上がり、近付いてくる。

「嬉しいわ、トグサ。やっと私の仲間になってくれるのね」

≪やっと私のモノになったわね≫

聞き間違いか。
空耳か。
二重音声のように、女の声が鼓膜を震わす。

黒い服に身を包む、紫暗の髪、赤眼の美しい女。

これが魔女、素子だ。総てのモノを操り、己の思うままに世の中を泳ぐ、異能の女。
素子は、バトーに抱えられた茶色の猫に微笑んだ。自分が縛った赤いリボンを指先で弄び、再び、紅い唇に笑みを刻む。
今の幻聴は、きっと間違いなく、この女の本音。真実の声だ。
バトーはその妖しい色を含む笑みを見て確信した。
「これから、宜しく頼むわ、トグサ」
呼ばれたトグサは、微かに、にゃぁと鳴いて、バトーのジャケットに身を摺り寄せた。
まだお仕置きを解かれていないし、身の危険を感じているのだろう。(確かに、何をされてもおかしくない女が目の前にいるのだ。恐れない訳が無い)
しかも、見知らぬ男達もいる。
今ここでトグサが頼れるのはバトーしかいない。
この際、情けないとか恥ずかしいとか、そんな感情は胸の奥底にしまっておくことにして、トグサはびったりと広い胸にはりついた。
そんな気配を読み取って、バトーは宥めるように、のどの辺りを指の背で撫でてやった。


二人を視界に捉えながら、素子は言葉を続けた。
「まずは仲間を紹介しないとね」
思い思いの場所に佇んでいる男達に視線を投げる。
「右から、イシカワ。ボーマ」
髭面の男は片眉を吊り上げてから、ニヤと笑い。
スキンヘッドの大男は、朱色の義眼を向けると、笑って手をヒラヒラさせた。
「それから、サイトーにパズよ」
女の声に頷くと、隻眼の男は、少し口許に笑みを浮かべ。
煙草を咥えた細目の男は、紫煙を吐き出し、目を眇めた。
「あと・・・これは私の使い魔の」
パチンと指を鳴らすと、握り拳ぐらいの大きさの、赤と青の塊が現れる。
蜘蛛の形を模した、機械のようなものがきゃぁきゃぁと、宙を舞い始めた。
「赤いのがフチコマ、青いのがタチコマ。これが時々、私の言葉を運ぶから覚えておいて」
素子の細い指が再び、音を鳴らすと、それらは掻き消えた。
「もう一人。大切な人を紹介したいんだけど、今は出掛けていて不在なの。私達のボスの荒巻大輔。明後日には戻ってくるから、その時を楽しみにしてて」
素子はにっこりと微笑むと、バトーの胸にしがみ付く様にして身を竦めているトグサに手を伸ばし、一撫でした。
「ほんとに嬉しいわ。貴方が仲間になってくれて」
未だ猫の姿のトグサは、身を竦ませると茶の瞳で縋るように、バトーを見上げる。
それに頷くと、言葉の話せないトグサに代わってバトーが本題を切り出した。
「おい、素子。もういいだろう?こいつ、元に戻してやってくれよ」
「────いいわ。お仕置きはコレまでにする」
赤眼の魔女は満足気に目を細めると、トグサの小さな額に口付けした。
すると、誰かに解かれたかの様に赤いリボンはするりと解け、猫だった姿があっという間に、人の姿をとる。
瞬きするほどの時間で、抱きかかえられる程の小さな体から、慣れたいつもの自分の身体に戻れたトグサは、自分が変えられる前に着ていたスーツであることを確かめ、
「元通りだ・・・」
耳のあった頭としっぽがあった尻のあたりを手で探り、何度も、元通りだと呟いた。
それを見ていたバトーは、
『元に戻っても、小動物みてぇ』
内心でそんなことを思い、気付かれぬよう、声を殺して笑った。


「じゃあ、顔合わせはこんな感じでいいかしらね。トグサ、仕事には明日から就いてもらうから、そのつもりでいて」
素子は、そんなトグサの様子にくすくす笑いながら、踵を返した。
「解散」
手を上げて、一言。そして、書架をくり抜く様に設えられた、深い茶色の扉に向かって歩いて行く。
しかし、素子はふいに立ち止まり振り返ると、何気ない様子で。
「あ、トグサ。借りてたアパートは引き払ったから、帰るならバトーの家にしてちょうだい。勿論、荷物は全部、送ってあるから安心して」
傍若無人な物言いをして微笑んだ。
コレが総て、最良だ、とでもいうように。
それを聞いたトグサの頭も、バトーの視界も真っ白になった。

引き払って。
送った。

当人達の意思など関係ない所業、そして、究極の事後報告。
「はぁっ?な、な、何言って・・・!???」
「俺んとこかよ!!!」
素子は、二人の衝撃と叫びを無視して扉に手を触れると、またねと空気に溶ける様に消えてしまった。

要するに、やり逃げ。言い逃げ。勝ち逃げでもある。

「あ、あ、あの女・・・・・・」
トグサは、がっくりと力なく、その場にしゃがみ込んだ。
「ご愁傷様〜〜」
「さすが、我らが魔女殿。仕事が早い」
「まぁ、諦めが肝心だ」
「────慣れれば、困らん」
その場にいた男達は口々に、慰めだかナンだか判らない、無責任な言葉を猫の様に丸められたトグサの背に降らせた。
「ば、ばとー・・・・・・」
涙の滲んだトグサの目が、助けを求め見上げてくる。
バトーは、それに頷いた。
人間であろうが、猫であろうが、この目の威力に変わりはない。
この視線はバトーにとって、酷く、心地好かった。
全く、素子の審美眼は、文句のつけようが無いくらい素晴らしい。

≪私のゴーストの囁きは絶対よ≫

バトーの耳元に、女の勝ち誇ったような声が響いた。ような気がした。
「トグサ、みなまで言うな」
慰めるように、口許を神妙に整えて。
運命共同体のような顔をして、茶の目をいたわる。
その裏で、バトーは少しだけ素子に感謝した。
この男が仲間になり、そして、自分と一緒にいることになったのだ。
感謝せねばなるまい。

それを生み出してくれた、魔女殿には。

へたりこんだトグサの頭をぽんぽんと叩きながら、
「何はともあれ。攻殻機動隊へようこそ、トグサ。仲良くやろうぜ?」
バトーは口の端を引き上げた。
「・・・・・・・・・」
「ここにいる奴らは、同じ穴のムジナだ。心配すんな。皆で楽しくやろうや」
脇の下に手を差し入れ、軽々とトグサを持ち上げ、立たせてやる。
それから、首を傾け、トグサを見た。
「な?」
そんなバトーを見、少し俯いたトグサだったが。
諦めたように溜息をつき、でも、次の瞬間にはさっぱりした笑みを浮かべて、頭を下げた。
「こちらこそ。よろしく、バトー。それから、皆も」

生真面目で、律儀なその挨拶に、その場に居た者達から笑いがこぼれた。







赤眼の魔女のご機嫌をとりながら、集会を開くのも。
悪くない。
誰も彼も、いつしか、こんな風に考えるようになる。

だから、何も心配せずに、楽しんだらいいのだ。
日々、日常を。










END


 < 過去  INDEX  未来 >


武藤なむ