6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2005年08月30日(火)   ソノテヲドケロ

絵茶で捧げちゃっ隊6兎出張版リターンズ。 (は?)

これは、Yコさん宅で敢行された6月後半のガチンコ絵茶から生まれた話だったりします。
Yコさんが提供してくれたシチュ「今まで感じたことのない相棒の体温が服ごしに伝わってくる」と描いて下さった萌え絵に感じたストーリーみたいなものをずらずらずら〜と書きまくった訳で(笑)
まぁ、いつもの捧げ状況となんら変わりませんね★

拉致った萌え絵をアップしたいのは山々なんですが。
それは、また後程・・・サイト改装の折のお愉しみということに。
Yコさん、その時はお覚悟あれ(笑)←鬼か

そんなこんなで。
捧げますから!と言いながら、放置プレイの上、焦らしプレイも併用。
今が8月後半ですから、そのプレイの酷さたるや・・・orz

Yコさん、ゴメンナサイ・・・あんまりにも考えすぎて進まない罠にはまってたんです・・・(涙)

と、自分の遅筆さを棚に上げてみたりする。
しかし、なんとか完成の日の目を見て、よかったなと。
そして、これを嫌がられても、Yコさんに捧げるのであった。



ちなみに、これは原作ベースの話です。
だから、トグは生意気だし、バトさんはセクハラ親父です。 (え?)
更に、他の媒体のあのヒトを登場させちゃったりして、意外と好き放題やってます。
萌えの暴走、恐るべし。

それでも、いいよ、という方は。
↓のほうへ、スクロールをして下さいませ。


















その日。
トグサは、専従捜査になった案件の情報収集の為、バトーと組んで旧市街に向かった。
うらぶれた路地を共に歩き、足と目と耳で情報を拾う。
電脳空間での情報収集よりも、元刑事のトグサは、こういう地道な捜査のほうが好きだった。
まぁ、時々は歯噛みするような思いもするのだが。


******************************


旧市街。
その一角、薄汚れた灰色のビルが軒を連ねる商店街。
闇市のような雰囲気が漂う。
軽自動車二台がかろうじて擦れ違えるくらいの道路の両端を小さな間口の店がひしめき合い、埋め尽くしている。
頭上に視線を巡らせれば、覆い被さる様に、色とりどりの看板が並び主張し合っていた。
目に見える店よりも、看板の方が多い印象を受けるのが不思議だった。

雑多な街だ。

それらを眺め、改めてトグサはそう思った。


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裏世界の事情に精通しているバトーのツテを頼りに。
数箇所、探りを入れてみたが、思ったような成果もなく。
捜査における99%の無駄を噛み締めながら、二人は人ごみの中を歩いていた。
トグサは器用に人を避けながら、ジャケットに両手を突っ込んだバトーの後ろ姿を追う。
その視線の先、バトーの背中の向こう。
不意に視界に飛び込んできたモノに、トグサの口許に笑みが浮かんだ。

あの看板の犬、バトーがよく飲む缶ビールの犬に似てるなぁ。

立ち止まり、油絵の様に厚塗りされている犬をぼんやりと見上げる。
荒みかけた気分が、少し、和んだ。
と、その瞬間。
突然、大きな手に腕をとられた。
次いで、灰色ビル達の細い切れ間、路地裏にいきなり引き込まれる。

犬から意識を剥ぎ取った、無遠慮な手の持ち主が誰か。

トグサには、見なくても、腕を握られた感触ですぐにバトーだと判った。
その力の強さに、顔を歪める。
義体の力に、翻弄されるのは、好きじゃなかった。
生身と義体の差を見せ付けられるから、かもしれない。
例え、それが信頼できる仲間のバトーであってもだ。
いや、バトーだからこそ、トグサは嫌なのかもしれなかった。
「ッ・・・何すんだよ、バトー!!」
壁に背を押し付けられた格好になったトグサは、胸に生まれた苛立ちを言葉にしてバトーにぶつけた。
腹立たしさを隠しはしない。
「静かにしろ」
が、抑えた低音が返ってきて、トグサはすぐに自分の感情を引っ込めた。
「な、んだよ」
「あれ、見えるか?」
バトーの義眼が、通りの向こうに向けられる。
苛立ちは胸の奥に押し込んで、トグサはその視線を追った。

行き交うボロ車、怪しげな雰囲気を醸し出す人々、雑然とした店先、得体の知れない商品。
その中に紛れた何気ない一角。
誰も気にとめはしない、街角の風景。

しかし、トグサには、そこが浮き上がって見えた。

周囲に溶け込んでいるようで、決定的に、異端。
その中心。
痩せ細った一人の男がいる。

骨と皮しかないように見える身体。
蒼白い相貌は、異様。
頬は痛々しいほどにこけ、生気を感じない。
まるで人形みたいな男だった。

「あれが、何だよ?」
「キムっていう、食えねぇ男。まあ、情報屋みてぇなもんだ」

バトーに[キム]と呼ばれた男は、背の異様に低い、浅黒い肌の男と話し合っている。
トグサは目の前に現れた二人の男を視界に捉え、その言葉の先を促した。

「知り合い?」
「なぁなぁで呼び合う様な、そんな知り合いじゃあねぇがな」
「てことは、軍関係者?」
「元、な」

凄い経歴の持ち主か。
バトーの口調から、トグサはそう察した。
それから、視線を[キム]から転じて、もう一人の男に移す。

「じゃあ、もう一人の男は?」
「───────────クロルデンとこの使いっパシリ」
「その名前、少佐から聞いたことある」
「クロルデン・・・元・公務員の凄腕のハッカーさ」
「情報屋とハッカーの組み合わせで、そこから何が生まれるか?」
「ふん。ロクでもなさそうもんが飛び出してきそうだが・・・さぁて」

自分の電脳に、バトーから聴いた情報を上書きしていく。
と、不意に自分の今の体勢が気になった。
トグサは、息が掛かる程に近く、身を寄せるバトーを見上げる。
バトーの義眼は、二人の男を真っ直ぐに捉えていた。

精悍な顔と無骨な義眼。
サイボーグであることの意味を体現する、ゴツイ図体。

何故か、服越しに、バトーの体温を感じる。
そんなわけ無いのに。
何故なら、この男がいつもは義体の精度をあげる為、体温を低く設定しているとトグサは知っていた。

それなのに。
まるで、素肌に触れられているような。
温度を感じる。

そこまで考えて、トグサは自分の思考に嫌気がさした。
[毒されてる]
義眼のサイボーグを見上げて、心の中で呟いた。
この男のセクハラまがいの言葉を聞き過ぎたせいに違いない。
それから。
トグサは、この体勢がいけないんだ、とバトーの胸を拳で叩いた。


女にキスを迫る様な。
女がキスをせがむ様な。


この接近しすぎた体勢が。
いけない。
トグサは、いつもの口調で。態度で。
過剰な反応だと思われないように、押しのけようとしていると思われないように。
慎重に行動を起こし、言葉を投げた。
「どうする、バトー。コンタクトとってみる?」
バトーは口許を押さえると、思案するように俯いた。
どうやら、自分の心の動きには気付いていないようだ。
トグサは、安堵と毒された己の思考を胸の奥に押し込んで、バトーに話しかけた。
「昔のヨシミってやつで、旨い情報もらえるかもよ」
「───────さぁて。そう上手くいくか如何か」
眉間に皺を寄せ、渋る様子を見せるバトーに、トグサは鼻を鳴らした。
「らしくないじゃないか。あんたが、当たっても見ないうちに、そんなこと口にするなんてさ」
過去に何かイワクでもあるのかもしれない。
そんな考えに行き着いて、トグサはいつもの仕返しだとばかり、
「タイプじゃないと気が乗らないワケ?」
そう言い、にやと笑って見せた。
たまには、会話の主導権を握るのも悪くない。
が、逆に。
「俺のタイプが気になるか?」
ニヤリと笑う義眼に遣り込められる結果となった。
バトーの大きな手が、トグサの頬を撫で、太い指が唇を這う。
「トグサ」
余裕たっぷりのその表情に。
トグサは顔に血が上ってくるのを何とか堪えた。
ここで、顔を赤くなんてしたら、何をされるか分かったものではない。
バトーの手を思いっきり、払い除けてやった。
「・・・・なんねぇよ」
そう突き放してはみたが、にやにや笑う口許が、目に入る。
バトーはわざとらしく、トグサの耳元に顔を寄せると囁くように言った。
「俺はな、ちゃんとお前みたいに肉のついてる奴がいいのサ。抱き心地がいいのが、俺の好みな訳だ」

口でも敵いそうに無いのか。
畜生。

「安心したかな?トグサ君」
「する意味がねえだろ?大先輩」
それにトグサは、口を思いっきり歪めて、こう言葉を吐くので精一杯だった。
これ以上の追求をかわすには、話題を現実に引き戻すしかなかった。
「つーか。どうするんだよ、バトー」
トグサは顎で、二人の標的を示した。
「当たって砕けて、藪から毒蛇が出て来ないとも限らんぞ?」
やっぱり、乗り気じゃないらしいバトーに、トグサは歩き出しながら言った。
「そうなっても、あんたが何とかしてくれる」
立ち止まり、肩越しにバトーに笑いかけると。
「だろ?バトー」
それにバトーは短く刈り込んだ髪をがしがしと掻き毟った。
「・・・・・お前はほんと、可愛いんだか、可愛くねぇんだか」
「可愛くないのさ〜」
「性質悪ぃなあ」
口をへの字に曲げたバトーが、トグサを追うように歩き出した。
「行こうぜ、バトー」
「ハイハイ。なんとかしてみせまショ」
裏路地から、また人ごみの中に戻る。

「頼りになる先輩は、ダイスキさ」
「そうじゃなくても、好きだろーがよ」

それには、断固として応えず。
トグサはバトーと連れ立って、器用に車を避けながら、車道を横切った。



怪しげな人々は、そんな二人に素知らぬ顔でゴミゴミした道を往来し。
車は引っ切り無しに走り、喧騒がカラスの鳴き声よりも、けたたましく辺りに満ちていた。
狙う獲物はまだ、互いの体格差が生む段差を物ともせずに、顔を突き合わせ、何やら話し込んでいる。









END



2005年08月23日(火)   BT30題 「 11) ピュアな愛情 」

犬ベース。

やっぱり、法則通り、暗い感じに仕上がった。
しかも、切ない系。

甘い話にしたいんだが・・・(遠い目)



































無垢な愛情。
汚れ無き白の感情。
何の打算も見返りも求めない、無償のカタチ。





あの男のピュアな愛情は、すべて、彼女に向けられているに違いない。

紫暗の髪、朱色の瞳、全身義体のサイボーグ。

殻を脱ぎ捨て、この世界から、飛び立ってしまった彼女にだ。
想いを伝える術も、触れ合える身体も、語り合う言葉もなくなってしまっても。
愛しいと想った気持ち。
そのピュアな愛情に。
バトーは固執したまま、過去に囚われている。

運命の女。
バトーにとって彼女はまさしくそれなのだ。

そして。
俺の中のピュアな愛情は、家という安らぎを与え合う、妻と子供に向けられている。
明るく微笑み、疲労に苛まれる自分を優しく迎え入れ、癒してくれる。
彼女達に。
自分のピュアな愛情全部が、彼女達のものだ。
他の誰にも、それを与えることはない。
ゴーストは、彼女達が愛しい、大切だと囁き続けている。

命を懸けて守りたいと望む女は、彼女達だけだ。

けれど。
自分の奥で燻り続けるゴーストは、その同じ口で、違う言葉をも囁く。
彼女達が愛しいと囁きながら。

あの男も愛しいと叫ぶのだ。

なんて身勝手な。
なんて不実な。
ゴーストの囁き。

でも、もうこの囁きをないことには出来ない。
気付いてしまったから。

しいていえば。
これは、ピュアじゃない愛情。

この男に抱いている感情は、白には程遠い。
きっと、深く黒く塗りつぶされた色をしているに違いないのだ。
この、つれない義眼の大男に。
自分を。
現在を。
まるで無いことのように振舞う男に。
抱く気持ちは、複雑で。
打算も、嫉妬も、見返りもその内に在るのだから。


自分の奥底深く、真っ暗な部分に、ひっそりと佇む。
そのピュアじゃない愛情を。
捨てずに、心の中で飼う。



あんたにも、ピュアじゃない愛情って、あるか?
あるなら、俺の苦しみを理解してくれるだろうか?

いや、理解してくれなくてもいい。

切なく苦い、危険に甘い、この感情のすべては。
永遠にこの男に届くことはない。
知って欲しいとも、思わないから。

そう。
知られてはいけない、このピュアじゃない愛情を。
あんたにだけは。






陽炎のように揺らぐ、無垢な愛情。
染まり、歪み、欠けながら変質する無垢。

硝子細工のような無垢なままの愛情と。
そして、砕けてしまった無垢じゃない、愛情。





END



2005年08月22日(月)   BT30題 「 7) ソファー 」

SACベース二連。

これも、精神的に・・・orz(以下略)

トグの無防備に寝ている姿は、書いてて楽しい。
それを眺めてるバトさんを書くのも楽しい。

ようするに。
二人を書いてるのが好きなんだな、っと(笑)































また、ソファーで寝てやがるのか。
コイツは。
何回言っても、仮眠室に行きやしねぇ。
大体、こいつが使わなきゃ、あの部屋ほとんど無駄なんだぞ。
(サイトーもたまにしか使おうとしねえし)



ソファーに横になり、毛布を襟元まで引き上げ、微かに寝息をたてて眠る男。
生身の相棒。



叩き起こして、仮眠室に連れて行くか?
こんなとこで寝たって、疲れなんてとれやしねぇしな。
ただでさえ、こいつは夢中になると休息というもんを忘れる性質だからな。
休める時に、きっちり、休ませとかねぇと。



その安らかな寝顔は、子供のようで。
穏やかな寝息は規則正しく、毛布を上下させている。



・・・・・・・まぁ、このままでもいいか。
ここまで、寝入ってる奴を起こすのも、なんだか気が引けるしな。
だが、次こそは、仮眠室で寝るようにさせねぇと。





あーまったく、この生身は手間が掛かるぜ。








END



2005年08月21日(日)   BT30題 「 2) QRSプラグ 」

SACベース。

内容的には全然、裏じゃないんですが。
精神的に(え?)裏だったので、こちらにアップです(笑)

バトさんの語りみたいにしたからか。
ものっそ、恥ずかしい感、溢れてます・・・orz


ううう、ある意味、甘い話より破壊力があった(汗)































首を覆い隠す後ろ髪。
ハイネックのシャツ。

常に隠されている、生身に唯一組み込まれた、機械的な部分。
QRSプラグ。

生身の肌に刻み付けられた傷痕。
世界に拡がる広大な情報の海と繋がる為の契約の証。

隠したいのか。
無機である、異端の部分を。

それとも、見えない何かを晒しているような、そんな気になるから。
隠そうと?



さて、どうだろう。
この男は、直線的で素直だが、案外と複雑なツクリをしている。
本人に訊いてみないと解るまい。
(まぁ、訊いたりはしないが)

それに、人間という生き物は、秘密の部分が無いと面白くない。
隠されるからこそ、興味が湧き、惹かれるのだ。
だから、あの隠されたQRSプラグは。
そのままがいい。





「旦那・・・・・なんで、俺の後ろ頭、じっと見てる訳?理由を聞いてもいいか?」
「お、悪ぃ。考え事してたわ」
「どんな考え事だったんだか・・・・訊きたくはないけどさ」
「ふふん。永遠に人が虜になる物は何か、さ」
「・・・・・ワカンナイネ」
「そうでしょうとも」
「ええ、大先輩の偉大な思考なんて、私には解りかねますから?」





そう。
秘密は、だから面白い。
なぁ、トグサ?








END



2005年08月18日(木)   BT30題 「 13) 背中 」

SACベース。
砂吐きそうなくらい、甘い話になったので、裏でアップです。


犬ベースが「切ない」だとすると。
SACベースは「甘い」感じで。
原作ベースは「セクハラ(お笑い系)」だと思われます。(え?)


と、まぁ。
そんなこんなで。
SACベースゆえに、甘ったるい話に仕上がりました。



あー恥ずかしい・・・・(笑)

























腕の太さも肩幅も。
大きな背中も。
自分とは、まるで違う。
生身の柔な身体ではない、肉厚の人工筋肉で武装しているサイボーグの身体。

フローリングの床に座り、背中を丸め、様々な武器が掲載されているカタログに視線を落としている男。
それをソファに座り、見下ろすように、眺めた。

「何だ?」

視線に気づいたのだろう。雑誌からは目を離さず、男の声だけが自分を捉える。
それに、いつもの声で応えてみせた。

「何でもないよ」
「─────────」

男はその言葉に納得してはいないが、更に問い掛けるような真似はしてこなかった。
だから、そのまま、眺めた。



この背中が、時に脆く、時に強く、自分の前にあることが。
どれほど、自分を支え、強くするか。
どれほど、愛おしいか。



ソファから身を下ろし、同じように、座る。
男の背に手を伸ばし、触れて。
手の平でその感触を確かめ、その背中に、寄り掛かった。
肩を預け、頬を寄せる。
微かに背中が振動し、男の声が名を呼ぶ。

「トグサ、言いたいことがあるなら、ちゃんと言え」

じゃなきゃ解らんぞ、と言葉が続く。
それに、自然と笑みが浮かんだ。

この背中を守りたい。
この男が、自分を守ろうとしてくれているように。
いや、それ以上に。

「あんたの背中、好きだよ」

こんな台詞、普通なら、言いやしない。
でも、ちゃんと言うのも、たまになら。
悪くないだろう。

一瞬の間。

それから、驚いたように振り返る男。
体重を預け、寄り掛かっていた背中が大きく揺らいだせいで、仰向けにひっくり返ることになった。
ごん、という鈍い音が響き渡る。

「・・・痛い」
「お、お前がヘンなこと言うからだろうが」
「あんたの要望に応えて、ちゃんと言っただけだろう?」

寝転がったまま。
斜め下から見上げた男の義眼が、戸惑っているように見えたのは、気のせいじゃない。
笑い含みの声で、トドメの言葉を投げてやった。

「ご不満でも?義眼の旦那」

悪戯が成功したような気分で、今度は、背中ではなく男の顔を眺めた。





END



2005年08月01日(月)   不明瞭な視界

仕上げるまで、●ヶ月かかったSSだったり。
(最近、そんなんばっかりですよ)
自分で書いてて痛い話、だったからかも・・・・orz
アップするの、どうしようかと、考えたりもしましたしね。
でも。
あえて、アップしました。
裏で、ですけども。(全然、裏な内容じゃないんですが)




怒りも悔しさも、哀しみも辛さも、何もかもを内包して。
前を見ることの出来る人。
泣いても、叫んでも、苦しんでも。
正面から見据えることをしようとする人。

そんな印象をトグには受けるのですよ。
だから、こんな話が出来たわけで。
弱そうに見えて、強い。

逆に。
バトさんは強くて、弱い人に思える。
繊細で臆病で。
でも、それだけじゃない。
そんな人。

どちらも、格好よい男だなと。
思うわけで。 ←だんだん、何言ってんだか解らなくなってきた模様。



















「おい、本当に大丈夫なんだろうな?このままなんてこた・・・」
バトーは目の前の女に、掴みかからんばかりの勢いで問いかけた。
「一時的な視力障害だ。時間がたてば徐々に回復し、元に戻るそうよ」
女、草薙はそう言って、バトーを見上げた。
「イシカワ達に任せたデータのせいで、電脳に何らかの負荷がかかったことが原因だそうだけど」
「────────」
「それだけじゃ、なさそうね、バトー?」
「あれ、視たか、少佐」
「まだよ」
バトーは、自分の義眼を覆うように目元を押さえた。
閉じられない無機質の目の奥で、数時間前に見た記録が再生される。
「あいつに、視せるんじゃなかったと、今は思う」
暗い淵に沈むような声に、自分の声かとバトーは渋面を作った。

任務に、私情をはさむなど、らしくない。

が、そう思う心で。
確かにあの時。
バトーは思った。
トグサに視せるべきではない、と。
しかし、あの男の目は、きっと真実を見つめなければ、納得しない。
そうも思った。

結局、バトーは、トグサの意思を尊重する方を選んだ。

選んで、今の状況である。
苦いものが、咽喉の奥を流れ、身に染み込んでいく気がする。
バトーの心の奥をまるで見通したかのように、草薙が口を開いた。
「でも、貴方は視せる事を選んだ。そしてきっと、あの子もそれを選ぶ」
だから、そうしたんでしょう?草薙はそう囁くように言う。
(何よりも、それが解っていたから)
バトーの電脳に、草薙の声が響いた。



********************



犯人と思われる男の部屋には、ネットの海に漂うストレージの形を模した円形の外部記憶装置があった。
その他は、恐ろしいほど物が少なく、人が生活しているとは思えぬ部屋だった。
男の全ては、外部記憶装置の中に、集約されていたのだろう。

それ以外を男は必要としていない。

一日の記憶。その日、自分が見たもの。感じたもの。
それらの残滓がことごとく記録されていた物のみが、自分だったのかもしれない。

物証を確認する為に、それらの記録を再生しなければならなかったが。
バトーは、それに手を伸ばすのを躊躇った。
いつもなら、これ程、躊躇ったりしないというのに。
今回だけは、バトーの心は酷く落ち着かず、手は鉛のように重くなっていた。


犯罪を犯した者の、暗い暗い記憶。
他人を喰い尽してまでも、自分を優先させるエゴ。


その塊を覗き見しなければならないのは、苦痛以外のなにものでもない。
しかし、それらをやり過ごす術をバトーは持っていた。
長い経験から得たモノ。
どれほど慣れようと、苦痛を感じはするが、それをオブラートに包み、感覚を鈍くすることは出来る。
そうすればいい。
が。
それを使えなくさせている原因があって。
それが、誰かは、解っていた。


その誰かが、バトーよりも先に動いた。
トグサの手が、現実世界に置かれたストーレージを撫でた。
バトーではなく、トグサが、躊躇うことなくそれに手を伸ばす。
それを呆然と見、次に、この男なら、そうすることが解っていたことを思い出した。
義眼の見つめる中。
トグサは身代わり防壁を上着から取り出すと慣れた手つきで、自分の首のプラグにはめ込んだ。
そして、コードを引き出しながら、背後に控えていたバトーを振り返る。
「旦那は、どうする」
いつもより、感情を抑えた目のトグサに、バトーは胸の奥に拡がるものを止められなかった。
しかし、黙っている訳にも、先に進まない訳にもいかない。
大きく息を吐き出すと、バトーは答えた。
そして、トグサのように、身代わり防壁を取り出すと装着した。
「何があるか、判らんからな。俺も潜る」
「それは、俺じゃ不足だって事?」
トグサの眉間に皺がより、声のトーンが下がる。
しかしバトーは、それに気付かぬ振りをして、言葉を続けた。
「いーや。用心深いって事さ、俺がな」
口では軽くあしらったが、内心は違う。
バトーがトグサに感じていたもの。

それは、不足ではなく、不安だ。

けれど、バトーはその思いを噛み砕いた。
任務に私情を挟むなど、らしくない。

そう、全く、らしくない。

だから、その思いは隠しておかなければ。
コードを引き出しながら、バトーはストレージに近づいた。

こんな思いを抱かせる、忌々しいデータのストレージ。
くそったれのデータなど、消えてしまえばいいものを。
バトーの舌打ちは、電脳の中にだけ響き、外に洩れ出ることはなかった。



********************



これから見る映像。
それがどんなものであるかは、当然のことながら、見る前から判っている。

個人を狙った無差別なテロ。
連続幼女殺人事件の犯人の記憶。
(今は”記録”といった方が、正しいか)
隠れ家にある、外部記憶の存在。
今いるのは、その真っ只中だ。

犯罪の瞬間が刻み付けられた、犯人を犯人たらしめる、決定的な証拠。
残酷な真実が、永遠に再生される記録。

バトーは、これが、トグサには辛いものだということが解っていた。
だから。
らしくなく、私情が咽喉に絡んだ。



********************



目を閉じたトグサの眉間は、深い皺を刻み、瞼が微かに震えている。
バトーは、再生される映像を目の端で確認しながら、トグサからも目を離さずにいた。

再生されるたびに。
目の前で、死に絶えていく少女達。
恐れの内に、死を突きつけられる。
か弱い声で、助けを求め、父母を呼ぶ。

その映像はリアル。
まるで、自分が犯人になったかのような錯覚を起こさせる。

そして、最後の少女が再生された時。

トグサの顔が、苦痛に歪んだ。
閉じられた瞼が、震え。
声にならない悲鳴が、飲み下された。

けれど、バトーには聴こえた。

耳を塞ぎたくなるような、悲痛な声が。
聞いたことの無い色をした、トグサの声が。



********************




過去の事象に、手を伸ばしても、救えない。
そこには、深い虚しさがある。

沈み込み、抜け出せない、底なし沼のような暗部。
怒りや悲しみを。
それらは食い尽くしてしまう。

真っ暗な空が堕ちてくる様に。
暗い沼の底に沈んでいく様に。

身も心も、覆い尽くす。

なんて、哀しい闇だろうか。
なんて、苦しい闇だろうか。




********************



やめろ!その子から手を離せ!!
やめろーーーーーーーーっ!!



トグサの悲痛な叫びが、電脳に響いたのを思い出し、バトーは重い息を吐いた。
ここは、病院だ、そう心に言い聞かせ。
また、重い息を吐く。

あの時。
ストレージから、無理矢理にトグサを引き上げた時。
声にならない声が、バトーを抱きしめた。



見たくない。
こんな、こんなのは、いやだ。



消え入るような言葉。
それは、多分、心の奥で。
トグサが吐いた本音だったに違いない。

最後の犠牲者になった少女は、トグサの娘と同い年の子供だった。


パパ。


少女は父親を最期に呼んだ。



********************



「どうだ、相棒」
とうに医師の診察を受け終わったらしいトグサは、診察室の前のソファの一角に腰を下ろしていた。
バトーはトグサの傍まで行き、あと数歩というところで足を止め、いつもの調子で話しかけた。
ざわつく心は、隠し、無いものにする。
トグサに、悟られぬように。
更に、いつもの声でトグサに問うた。
「どんな具合だ?」
「───旦那」
それに瞬きを数回し、トグサはゆっくりと、声の位置を確認するかのように目を上げた。
視線は確実に、バトーが立つその場所を捉えていた。
口許には、苦笑が浮かんでいる。
「何とか───と、言いたいとこだけど。視界が悪いね」
トグサは目を瞑ると目頭を押さえた。
その仕草が、酷くバトーの感情を刺激した。
心の表面を引っ掻かれたような、ちりっとした痛みが走る。
「まったく見えねぇのか?」
バトーが眉間を寄せて訊ねると、トグサは首を横に振った。
そして、腕を伸ばせば届くところにいるバトーを再び見上げ、義眼に視線を合わせた。
「いや、そうでもない。酷く不明瞭ではあるけど、見えるよ」
いつもと変わらぬ、強い意志の塊のような茶色の目が、真っ直ぐにバトーを見た。
それで、少しだけ安心する。
トグサの感情を抑えた目は、見ているほうが不安になるのだ。
今のような、目。
感情を素直に表す目じゃなければ、ならない。
バトーの心など知らぬげに、トグサは言葉を継いだ。
「視界を補助するソフト、ってのがあるらしいんだけど、やめたよ」
「何でだ?」
「任務に支障をきたすって、旦那は怒るかもしれないけど」
知らず、詰問のようになってしまったバトーの言葉に、トグサは目を逸らして続けた。
「必要ない、と思った」
それから、使いたくないが本当かなと呟くように言う。
バトーが更に問い詰めようとするとそれを遮るように、

「バトー、すまなかった」

いつもより低いトグサの声が、バトーの鼓膜を震わせた。
名を呼ばれた上での、いきなりの謝罪の言葉。
バトーは驚き、それから、深く息を吐いた。
それから、トグサの隣りに腰を下ろす。
「いきなり、なんだよ。らしくねえ」
いつもの口調を装った。
「いや、みっともないところを晒した」
その声は、掠れて、聴き取りずらかったが。
バトーの耳には、はっきりと聴こえた。
「あの手の映像は、今までだって嫌になるほど見てきたのに、情けないな」
自嘲の響きが、そこにはある。
組まれた両手に、顔を埋めるようにしたトグサの肩が微かに震えているのに気付いた。
その肩を抱いて。
震えを止めてやりたい。
そう思ったが。
「ンな事はねえよ」
バトーは足を組んで、背もたれに体を預けるにとどめた。
「それが、人として当然の反応だ。まして、人の親なら、なおさら」
そして、トグサには、そういう感情の起伏、揺らぎが必要なのだ。
この男が、この男である為に。
どれほど、痛みを伴っても。
「お前の娘と同じ年だった」
「・・・・・バトー」
「いいか、お前は、そういう感情を忘れるな。これから先も、ずっと持っていろ」
視線は合わせず、バトーは自分の中に息づく、本音を語った。
それが、必要なのだ。
自分は。
そして。

「俺達には、それが必要だ」

一瞬の間が、二人の間に落ち。
その後で、トグサが口を開いた。
「バトー、俺は」
一端、口を開きかけたが、閉じ。
けれど。
誰に聞かせるものでもないような呟きのように、トグサは言葉を紡いだ。
バトーは、静かにその横顔を眺めた。
「俺は、誰も彼も、救えるなんて・・・そんな傲慢なことは思っちゃいない」
不明瞭だというその目が、硬く握られた両手を見つめている。
その光が、心に深く差し込むのをバトーは知っていた。
「けど、自分の手で救えるものがあるなら。せめて、それだけは確実に救いたい」
思いの強さを込めて、トグサはそう言い。
「そうは、思う」
両手から視線を上げ、バトーの義眼を捉えた。
茶の瞳、その光は、心までも捉える。
バトーは、それに答えるように頷いた。
「良いんじゃねえの、それで」

不明瞭な視界は、それでも彼を繋ぎとめることは出来ない。
諦めや、絶望には。

トグサは、泣き、叫び、苦しんだとしても。
それらを振り払って、先にある温かい、希望のようなものをその目に宿し。
その手に掴むのだ。
底無し沼の暗部も、真っ暗な空も。
彼を捕らえる事は出来ない。

「お前がそうしたいなら」

そうすればいい。
助けが欲しいなら、助けに。
傍にいて欲しいなら、傍にいてやる。
そして。
どんなことでも、してやろう。

バトーは、その本音だけは、語らずに飲み込んだ。





本音を隠したその声が、静寂に溶けて。

閑散とした病院の気配に、不意に気付いた。
バトーも、そして、トグサもだ。
少し、照れたような表情を浮かべたトグサが、
「さて。本部に、戻りますか」
そう言いながら立ち上がり、バトーを見下ろした。
それを見上げ、
「おい、歩けるのか?」
眉間の皺とともに聞くと。
トグサは首を傾げ、それから肩を竦めた。
「歩けるよ」
それに、不安がまた、首をもたげる。
「大丈夫なのか?まじでよ」
トグサは、いつものような生意気な笑顔を浮かべると、顎でバトーを促した。



「あんたが、前を歩いてくれるならね」





心の奥底に隠し通したモノが、音も無く、溶けていった。
バトーはそこで、やっと安堵の息を吐いた。









END






ヒトは、残酷な牙をその身に内包する生き物。

でも、ヒトよ。
その牙を他人に向けてはいけない。
その牙は、ヒトを傷つけ癒えない悲しみを与えるのみの物。

だから、ヒトよ。
その牙を捨てよ。
永遠に。

其れが出来ないのならば。
隠せ、心の奥底に。
誰の目にも肌にも触れさせず、永遠に隠すのだ。

そうすれば。
この世に溢れる悲しみを少しでも減らすことが出来よう。





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武藤なむ