6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2005年03月28日(月)   悪戯と桜

裏パラ「鬼」は一休み。

で。

これは。
[ひげファイア]缶さん宅の絵掲示板のお題「桜」に投稿させてもらったものだったりします。
別に、なにをしてるわけでもないから、表にあげても良かったんですが。
むしょーに恥ずかしいので、こっちにアプ。

人様のところに、恥ずかしいものを投稿してきたのかよ・・・orz(酷ッ)

缶さん、こんなのを喜んでくれて、ありがとうございました・・・(深々と礼)
バカップルで御免なさい(笑)




























「また、こんなとこで寝ていやがる。ったく、この生身様はいつになったら、仮眠室で寝る事を覚えるのかねえ?」

タチコマの整備を赤服達とするためにハンガーに行っていたバトーが、共有室に戻ってくると相棒がいつものソファでうたた寝している姿が目に入った。
足音を消さずに近づいてみたが、トグサは反応する気配もない。
いくら9課の中だからといって、この無防備さはどうか?
バトーは呆れを滲ませた溜息をついて、寝入ってしまっているトグサの傍に立った。
トグサは、背もたれに身体を預けきって眠っている。
背もたれを枕にし、喉を反らせて眠るというのは苦しい体勢のように見えるのだが、薄く開いたトグサの唇からは、安らかな寝息が漏れていた。

「よく寝れるな、この体勢で」

苦笑しながらそれを見、ふとバトーの悪戯心が首をもたげた。
こうやって、安らかに寝ている者を見ると、邪魔をしたくなるのは何故なのだろう。
そんなことを思いつつ、バトーはトグサの寝顔を見下ろした。
意地の悪い笑みを浮かべたバトーのことも知らずに、トグサはまだ、安らかな寝息をたてて眠っている。

バトーは手を緩く握ると、その人差し指と中指の背で、トグサの薄く開いた唇に触れた。
こんな感触も、本物のように感じるのが、睡眠のために鈍くなっている感覚のなせる業だ。
きっと、唇の感触に間違うだろう。

そして。

バトーの思惑通り。
それに、眠っていたはずのトグサは飛び起きた。
慌てふためいて振り返り、バトーを見上げ、驚いたように目を見開いている。
バトーは、にや、と笑って見せた。

「だ・旦那・・・いま、いま、何し・・・・??!」

口許を押さえたトグサの顔がみるみる染まっていく。
桜色から、あっという間に、朱色へと変わっていった。
それをバトーはにやにやと見つめた。
ほんの冗談の悪戯が、思いのほか成功したのだ。
笑わずにおれようか。

そして、ふと。
トグサの頬の色で、思い出した。
そういえば、今は桜の季節だったなと。

確か。
何日か前に、新浜市に桜前線が到達したとニュースで言っていた。

考えてみると。
バトーはもう何年も、まともに桜なぞ見ていない。
まあ、この職業をしてるうちは。
ゆったりとビールを飲みながらの花見には、縁はないだろう。

が。

ちょいと眺めるくらいなら、ありかもしれない。
そう、思い直した。
バトーは、目の前で、紅くなったまま固まっている相棒の茶の髪を乱暴に撫ぜた。

「トグサ、今度、桜でも見にいくか?眺める程度だがよ」

「──────」

口を開閉させて、自分を見上げてくるトグサにバトーはにやりと笑って見せた。
それから、もう一度、さっきのようにして唇に触れる。

「どうだ、相棒?」

桜が満開になるには、もう少し、時間が必要だ。
満開になったら。
この、目の前で、今度は怒りに頬を染め始めた相棒を連れて行ってやろうとバトーは心に決めた。




花見には、ちょっと物足りないかもしれないけれど。



2005年03月23日(水)   鬼の守人   <七>

ども、しつこく続けてます。
鬼の<七>です。

しかし、一向に進みませんね・・・orz
更に言えば、裏らしくもならないですね・・・・・・orz

どうするつもりなんだろうね、自分?
わかりまへんよ、自分。
(自問自答)



なるようにしか、ならないと悟り始めた今日この頃です。


サイトーさんは、猫。
パズは、狐。
ボマさんは、どうしようと考え。
辿り着いたのは、狛犬みたいなイメージでした。

えへ?


















七・再度、接触


素子の言葉に、馬濤は隣りの兎草を見下ろした。
「いいのか?」
それに兎草は、頷いてみせた。
姉の言うとおりだと思ったし。
それに、なんだか、馬濤を此処に放り出していくのも心配だった。

兎草は馬濤の先に立って歩く。
その後ろを音もなく、馬濤がついて来た。
「お前達の爺さん、すげえ術者だなあ。櫻の外に出てから、圧力感じっぱなしだぜ」
「馬濤ほどの霊力を持ってても、そうか?」
後ろを振り返り、馬濤に目を遣る。
その自分の顔が笑っていたせいか、馬濤が口許に笑みを浮かべていた。
自分が褒められたかのように嬉しいのだから、しょうがない。
それくらい、兎草は祖父を尊敬しているのだ。
「力が出しづれえ」
馬濤はそう言って、大きな掌を握ったり開いたりを繰り返した。
「清浄の地から異端の者を弾き出そうとする力だ。こりゃ、小物は近づくことも出来やしねえぜ」
「祖父さまは、この日本で一、二を争う術者なんだ」
「だろうな」
そう言って馬濤は頷き、天を仰ぐように辺りを見た。
「それから、お前のことが余程、大切らしいな。力以上の何かがこの結界には宿っている」
馬濤のその言葉に、兎草は驚き、言葉を失った。
その言葉がこの男の心を映している。
そう、直感したからだ。
「力ってのは、使う奴の想いに左右されるものだからな」
「─────────」
「お前は愛されて育ったんだなあ、兎草」
馬濤の口許に優しい笑みが見えた。

まっさらな力は、人の想いに染められて、様々な形で放たれるものなのだ。
力自体に、善悪は存在しない。
力を使う人にこそ、善悪があるだけで。

[だからこそ、力持つものは己を律し、善の心で力を揮う努力をせねばならぬ]

祖父がよくそう言っているのを兎草は思い出していた。
この男は、祖父と同じことを言っている。
言葉は違えども、思いは一緒だ。

あのように、荒れ狂ったような力を持っているのに。
この男は、解っているのだ。
力が、どんなものなのか。
自分の揮う力が、どれほどのものなのか。
きっと、解っているのだ。

歩くのを忘れてしまった兎草の頬に、いつの間にか近くまで来ていた馬濤の大きな手が触れた。
労わるようなその感触。
「どうした、兎草?」
「・・・う、ううん。なんでもない」

嬉しい。

「行こう、馬濤」
そんな感情が、自分の奥から溢れてくることに、兎草は気付いた。
何故だか、解らなかったが。
とても、嬉しかった。


とても。



2005年03月18日(金)   鬼の守人   <六>

ども、まだまだ続く気配の裏パラ。
鬼の<六>です。

これで、9課の実行部隊は出揃いました。
トグサ君と少佐以外、みんな人じゃなくて、御免なさい・・・orz
元・人とか妖怪とか・・・・・・。
もう、好き勝手です。

ほんと、すいません。
でも、楽しいです。(おいおい)





























六・その女


男が名乗りをあげたその時。
暗闇を裂くかのような女の声がした。
「兎草!!」
凛と響くその女の声に、その場にいた者達の意識が向かう。
「姉さん」
兎草は、駆けてくる姉の姿をその視界におさめた。
すらりとした肢体の、美しい、強い意志を宿す瞳をもった女。
それが兎草の姉、素子だ。
素子の足元には、犀灯が。
そして。
その後ろから、もう一匹、大きな白い塊が駆けて来るのが見えた。
眼と目元が朱色、白い毛の、犬のような獅子のような姿の獣だ。
「防摩、お行き」
素子の声に、白い長毛をなびかせ、防摩が男の背後に身を躍らせた。

男・馬濤は、悠然とそれを見、それから視線を兎草に落とし、
「この別嬪さん、お前の姉上様か?お前と同じ、良い眼をしてる」
そう言って、口の端を引き上げた。
「見える、のか?馬濤」
訊いておいて、兎草は間抜けた質問だったと思った。
相手は、元・人間であって、今は霊なのだ。
見えるとか、見えないとかの問題じゃない。
しかし、それに馬濤はちゃんと答えを返した。
「ん?ああ、この目で、という事か。この目では、もうモノは見えねぇ。が、感じる」
それから、にっと笑って兎草を見下ろす。
「お前の顔もちゃんと見えてるさ。この髪の色も、目の色も、いいな」
馬濤は、少し長い兎草の茶の髪を一房つかんで、笑みを深くした。
先程までの恐ろしい緊迫感が、音を立てて崩れたように感じた兎草は。
困ったように馬濤を見上げ、それから、居心地の悪さを感じ身を竦めた。

ぐったりと横たわっていた狐が、主の存在を感じて、身動ぎした。
[も、素子・・・]
「──────波厨」
頭をもたげ動こうとする波厨に、膝をついた素子は手を伸ばし、それを制した。
[すま、ない・・・]
波厨の謝罪の言葉に、素子は首を振る。
「わかっている、もういい。動かず、大人しくしていろ」
その波厨に寄り添うように犀灯は立つと、投げ出された前脚を気遣わしげに舐めた。
[大丈夫か?]
[何とか、な]
狐の口許が、皮肉気に歪んだ。
自分の配下の妖しの者の無事を確認すると素子は、すっくと立ち上がり、己の弟の傍に立つ大柄な霊体に鋭い視線を向けた。
声には、隠し切れない冷気が滲んでいる。
「───お前、どうして此処にいる?此処には、結界があったはずだ」
馬濤は、それに頭を掻いた。
「俺は最初から此処にいたぜ?この櫻が、おれの依り代だった。いつからかは俺も知らねえから、答えようがねえ」
正直に答えてくる馬濤に、少し毒気を抜かれたのか、素子の視線が和らいだ。
しかし、この男は未だに危険な存在である。
不確定の要素が、はっきりとした形を現すまでは。
油断をするわけにはいかないと素子は、気を引き締めた。
そんな素子に気にもとめず、今度は馬濤が問う。
「その九尾はお前さんのか?」
「──────そうよ」
「で、兎草のお守に憑けた?」
「ええ」
「俺の庇護者なんだ。波厨も犀灯も」
姉と男の遣り取りを見ていた兎草も、そう言って、素子の言葉を補った。
それに、馬濤は、
「それは、すまなかった。お前さんのもんを傷つける気はなかったんだが、寝起きで気も立ってたからよ」
そんなことを言って、頭を下げる大男に、素子の殺気は完全に消えることになった。
素子の眉間が困ったように顰められている。
きっと今、素子も。
先程、兎草が感じたもの、戸惑いの様なものを感じているに違いなかった。
「邪魔ぁされるのが、嫌いなもんでよ。つい、やっちまったんだ」
「・・・・・・・・」
「本当にすまねえ。俺はただ、こいつと話したかっただけなんだ」
戦闘モードから、いきなり引き摺り下ろされた感が否めない。
が。
こうなると、気を高ぶらせているのもバカらしい。
素子は、あっさりと殺気を手放した。
弟に、危害を加える敵ではないようだし。
主同様。
足元の二匹の配下も、攻撃に備えさせた配下も、目の前の敵だった者の態度に困惑を隠せない様だった。
やられた波厨でさえ、どうしてよいやら分からんと頭を地面にあずけている。
「取り合えず」
素子は一つ大きく息を吐くと、
「敵じゃないなら、いいわ。兎草、大丈夫ね?」
大男の隣りで、困ったような顔になっている弟に声をかけた。
それに、兎草は頷いた。
「あんた、名前は?」
「馬濤だ」
「ずっと、此処に居たのね?」
「ああ」
馬濤は暫し考えるように俯き、それから素子を見た。
「これはお前の結界か?」
それに素子は首を振った。
「いいえ。お祖父さまの結界よ」
それに頷きながら、馬濤は先程の素子の質問の答えを導き出した。
「そうか。じゃあ、それよりかは前ってことになるぜ・・・俺が櫻を依り代にしようとした時にゃ、結界なんてものはなかったからな」
明確ではなかったが、答えである馬濤のその言葉に、素子は頷く。
その口許には、呆れたような微笑が浮いていた。
律儀なのか、それとも、目醒めたばかりで状況を飲み込むための情報を欲しがっているのか。
忘れていた記憶を呼び覚まそうとしているのか。
気安い口調の、口達者な霊体に、今度こそ素子は警戒を解いた。
なにより、あの弟が大人しく傍に居るということは、力の強い霊ではあるが危険なものではないということだろう。
素子はそう解釈して、防摩を手元に呼び寄せた。
それから、素子は跪いて波厨に手を伸ばして、その肢体を優しく撫でた。
すると、波厨は元の小柄な狐に戻った。
素子は気遣うようにそっと抱きかかえると、来た道を戻り始めた。
「あんたが此処に居たこと、お祖父さまが知っていたか、訊いてみないとね」
後ろを返り見、顎でついて来いと促す。
女は、妖しの者達を引き連れ、闇の中を躊躇うことなく歩いていった。




2005年03月11日(金)   鬼の守人   <伍>

ども。
やっとこ、<伍>でございます。

彼を書くのが、非常に楽しくなってまいりました。
傍若無人的に書きたいんですが、なんか、へタレ感が漂う・・・orz
なんか、切ないですが。
それもありで。

可愛い兎のあんちくしょうは、ほんとに可愛いのかどうか。
疑問系になりつつありますが・・・orz
これでも、可愛いつもりなんですと開き直って。
書き続けることにします。

なんだかなあ。



























伍・接触


兎草の身体を覆い隠す程に変化した波厨の九尾の尾が、敵を威嚇するように揺れている。
波厨の周囲をちらちらと火の粉が舞い、被毛を黄金色に輝かせていた。
男は、目の前に現れた妖しの獣を物珍しそうに眺め、
「ほう、九尾の一族か」
と呟いた。
「お前、面白いな。今の時代の人間はこんなお守を憑けてるもんなのか?」
それから、心底、面白い。
そういう顔をして、兎草を見る。
口許しか見えないのに、男の表情は豊かだった。
男が、笑む。
その笑った顔は、恐ろしい圧倒的な霊気とは違い、とても無邪気なもので。
兎草の心の恐れを軽くした。
[この方に、近づくな]
波厨は、威嚇するように身を沈める。
それに、男は口許を歪めた。
一瞬で、無邪気な空気が消え、相手を捻じ伏せる声が響いた。
「邪魔するな、俺はこいつと話してぇんだ」
男が腕を一振りすると、風が鋭い凶器となって波厨を襲う。
男の闇色の衣がするりと肘まで落ち、引き締まった筋肉の塊のような腕が、見えた。
波厨の九尾の尾からは、炎が吐き出され、盾のように風を弾く。
しかし、風の威力は、炎の盾を裂いて。
波厨の四肢を襲った。
麦の穂色の体が、後方に吹き飛ばされる。

「波厨っ!?」

これほど簡単に、この九尾の庇護者が、打ちのめされるのを兎草は初めて見た。
幼い頃から傍にいたこの九尾の狐は、いつだって、恐ろしい者達から完璧に兎草を護ってくれた。
波厨は、高位の妖しの者だったのだ。

それをこれほどあっさりと。

恐れに、兎草の身体が強張る。
波厨を助けに行きたい。
もし、波厨が消失するようなことになったら・・・。
妖しの者は、力を無くすという消失で、永遠に失われる。
存在する為には永遠のような永い時間を要するというのに、あまりにも、簡単に失われてしまうのだ。
早く、波厨のところに行かなくては。
そう思うのに、身体は動いてはくれなかった。
兎草のそんな心の動きを男は察したのだろう。

「心配するな、殺しちゃいない。俺はただ、お前と話してぇだけだからよ」

そう言って、笑った。
男は遮るもののなくなった兎草の前に立つと、じっと覆われた目で、兎草を舐めるように見る。
そして、男は兎草に手を伸ばす。
その男の腕が、自分に近づいてくるのを兎草は身動ぎもせずに見つめるしか出来なかった。

ひたり。

男の冷たい掌が、頬を撫で、首に掛かる。

震えるほどに恐ろしい。
それは圧倒的な強い力に対する恐怖。
そして、相手を知らぬという未知のものへの恐怖でもあった。
しかし、恐ろしさを忘れる、そんな瞬間もあったのだ。
確かに。
兎草に見せた、あの男の笑顔がそうだった。

だから、知りたいと思った。
男のことを。
恐れを感じながらも。

そして。
この男が、自分を知っていると言った意味も。
何故なのか、知りたい。

男の大きな手が、指が、兎草の首筋を撫で。
ざわりと背筋が震えた。
けれど、この男からは害意を感じなかった。
先程の総てを圧倒するほどの気も、今は静寂の内に沈み込んでいる。

「お前、名前は」

それに兎草は、躊躇うことなく答えた。
今は、恐ろしくはない。
この男は、けっして自分に危害は加えない。
そんな、確信のようなものが、兎草の内に芽生えていたからだ。

「兎草─────お前は、誰だ?俺は、お前を知らない」

「俺か?」

男は嬉しそうに、兎草の問いに言葉を返した。

「馬濤。馬濤だ、兎草」





2005年03月05日(土)   鬼の守人   <四>

ども。
「鬼」の<四>をアップです。
1話だけなんで、凄い短いですが(汗)ご容赦を。

やっと、彼を書けますよ。

義眼をどうするのよ?と考えて、苦心の末、あんなになりました。
あれもあり、の方向で。
お願いしたいです。

もう、好き勝手やりすぎだぜ、自分。
と思うのですが。
愉しいので、暫くはこのままかと・・・・・(笑)

もうちょっと、お付き合いいただけると、有り難いです。

ところで。
漢字変換、わかりますかね?
字面のいい漢字を当てはめてるつもりなんですが(汗)
ま、もしもの時は。
皆、出揃ったら。ずらーと、書き並べますです。
























四・その男


その男が纏う気は、濃密で。

兎草は気おされる様に一歩、退いた。
桜から、そして男から、更に離れるために身を引く。
鼓動が、可笑しくなるくらい、早鐘を打った。
兎草が今まで視てきた者達とは、何かが、決定的に違っている。
こんな霊体は、視たことがない。
これほどの、圧倒的な力も感じたことがない。

兎草のもとに駆け寄ろうとしていた庇護者達も、あまりのことに身動き一つ出来なくなっていた。
妖しの者達でさえ、この男の気に圧倒されているようだった。
波厨も、犀灯も、ただ男を見つめるだけだ。

「時節ってやつが、来たって事か?なら、仕方ねぇ、目醒めるとするか」

男の低く、深い声が、兎草の耳に響いた。
兎草の足元が、砂を食む音を立て、その微かな音に男が反応する。
男の顔が、兎草の方を向いて。
その覆われた目で、正確に、兎草を見つけた。
再び、男の声が兎草の耳を打つ。

「お前、良い匂いがするな」

男は、ふと考えるように口許に手をあてがうと、頷いた。

「──────ああ、この匂いは、覚えがある・・・いつも感じていた気、あれがお前だな?」

男は、兎草に向かって、一歩踏み出した。

瞬間。

庇護者達は、我に返った。
己たちの主の命が、四肢中で響き渡る。
『波厨、犀灯・・・兎草を頼む。護ってやって、あの子を』
その場に、二匹を縛り付けていた鎖が解かれた。

[犀灯、行け!素子に報せろ]

波厨はそう叫ぶと、兎草の前に身を躍らせた。
男の目から兎草の存在を隠すかのように、小さかった狐の四肢が、炎が燃え盛るかのように変わっていく。
それをちらりと見た隻眼の猫は、一瞬、躊躇いを見せた。
己も此処にいて、子供を護らねばならぬのではないか。
が、犀灯は身を翻すと来た道を駆け戻っていった。
二つに裂けた尾が、空気を打ち、漆黒色の小さな体が闇に紛れた。



2005年03月01日(火)   鬼の守人   <弐>/<参>

ども。
「鬼」の続きです。

如何なものでしょうかね?こういうのは(汗)
不安を拭いきれずに、続編のアップですよ。
ま。
ありえないのは、本人が一番わかってるので。


突っ込みは、ナシの方向でお願いします(平伏)


でも、感想だったら、突っ込んで欲しい。
なんて、思ってたりもします。
筆者心は、微妙です。

───それから。

なんか、もう、何かに謝りたい気持ちなので。
謝っておきます。

課長をお祖父ちゃんにして、ごめんなさい。
トグサ君と少佐を兄弟(←違う)にして、ごめんなさい。
サイトーさんとパズを獣というか、妖怪にして、ごめんなさい。

微妙な設定で、ごめんなさい。
細切れの短い話で、ごめんなさい。
トグサ君至上主義を丸出しにしてて、ごめんなさい。
そして、なにより。


凄い愉しんで、ごめんなさい。


あー、本当に楽しいわい☆(笑)

3/1 am8:00 こそーり修正。




























弐・傷持つ桜


この長い年月を経た桜の太い幹には、大きな裂け目があった。
真一文字にはしる、深い裂け目だ。
何によって、付けられた傷か定かではないが、大輔の子供の頃から在ったものだという。
兎草は幼い頃、大輔と素子に手を引かれ、この木のもとにやって来た。
この傷は、兎草の小さな胸を衝撃で揺らした。
可哀相にと思った。
とても、痛々しく見えて。
背伸びをして、めいっぱい手を伸ばしても、その傷には届かず。
大輔に抱え上げてもらい、その傷に手を当てた。

痛くないようにと祈った。

それが、兎草とこの木の交流の始まりだった。
昔は、大輔や素子、波厨、犀灯の手を借りていたが。
14歳になった今は、手を伸ばせば、その傷に触れることが出来るようになった。

この日も、兎草はその傷に、手を当てた。
傷を持っていても、この桜は美しい花を咲かせる。
きっと、こんなことをする必要はないのだけれど。
それでも、兎草はここにきて、こうする。

自分が癒し手の力を持っているなら、そうしたいと思うからだ。

木肌に触れた手の平に、木の息遣い、鼓動を感じる。
温もりが、心地よかった。
いつもと同じように、兎草は木に手を触れ、祈った。

いつものように、静かに時が流れ。
いつものように、兎草と木が交流をする。

それは、本当にいつもの事で。
しばらくすれば兎草は、帰途の道を二匹の庇護者と歩くことになったであろう。
が。
しかし、その日はそうならなかった。
いつもとは違う、異常なことが、その場に起きたからである。








参・黒き闇と白き闇


桜の枝葉が、激しく騒ぐ。
しなやかに伸びた枝、緑濃く茂った葉も、身を振るわせる。
風も、無いのに、だ。
兎草の手の平にも、その感触が伝わった。

桜の木が、身悶えている様でも有り。

そのざわめきは、徐々に周りの木々にも伝染していった。
桜の木の身動ぎが、波のように空気を伝わっているかのようだった。

兎草を少し距離を置いて見守っていた波厨と犀灯が、弾かれたように身を起こす。
何かの、得体の知れない何かの、気配がする。

胎動。
その言葉が、一番近い。

得体の知れない、不安の正体を、二匹は瞬時に悟った。
己の内から湧いた、あの不安の種が芽吹く。
カタチ無きものが、今、カタチを得ようとしている。

[兎草、其処から離れろ!]
[此方へ、兎草!!]

二匹の鋭い声に弾かれるように、兎草は木の傷から手を引いた。
彼らの不安を兎草も感じ取り、犀灯と波厨のもとへ、身を返そうとして。

兎草は、動けなくなった。
目が、ある一点に惹きつけられ、足が止まってしまったのだ。

「あ・・・・・」

闇が切り裂かれたかのように。
木の幹から、白い、長い髪が零れ落ちるのを見た。
項垂れているのか、顔は見えない。
次に、黒い上半身が現れ。
それは、桜の幹に手を掛けるようにすると、自分の体を引き摺り出す。

そして、見事な体躯をした男が、地に足を付けた。

漆黒よりなお暗き、闇色の衣。
それに相反するような、白く長い髪が肩に散る。
露わになった男の顔には、目元を覆うように衣と同じ色の布が乱暴に巻かれ。
しかと判るのは、口許だけだ。


男は。
桜から、抜け出るように現れた。


兎草は言葉を失い、ただ、その光景を見つめていた。
目を逸らすことなく。


 < 過去  INDEX  未来 >


武藤なむ