SS‐DIARY

2018年12月29日(土) SSキミはぼくの


クリスマスの朝目覚めた時、ヒカルは違和感を覚えた。

腕の中には安らかな寝息をたてるアキラ、微かに聞こえるのは加湿器の音、何も昨夜から変わっていないはずなのに、何か微妙に違うと思う。

少し考えた後、手足をもぞと動かして解った。


(なんでおれ、片方だけ靴下履いてるんだ?)


もちろん疲れていて脱ぎ忘れることは無いことでは無い。

けれど昨夜は下着に至るまですべて脱いで思う存分アキラと愛し合ったのだ。それなのに何故靴下を履いているのか、それも片方だけ。


(まあ、どうでもいいか)


こんなもの脱いでしまえばいいともう片方の足を使って脱ぎにかかった所、アキラの足が絡まるようにしてそれを止めた。


「なんだ、おまえ起きてたんだ」

「ダメだよ、脱いじゃ」

「だって片方だけとかむず痒いじゃん」

「それでもダメだ、キミはぼくのプレゼントなんだから」

「は?」


頓狂な声をあげるヒカルの胸に頬を摺り寄せアキラは言う。


「知らないのか? 『良い子』の家にはサンタクロースがプレゼントを届けてくれるんだぞ」

「って、おまえもう大人じゃん」


苦笑するヒカルの唇にそっと指が当てられる。


「あのね、知っていると思うけれどぼくの家は純日本風で、サンタクロースは来なかった。さすがにイブにケーキくらいは食べたけれど、どんなに良い子にしていても枕元にプレゼントが届くことは無かったんだよ」


何年も何年もずっと『良い子』にしてきたんだからそろそろ贈り物をもらっても良いとは思わないか? と尋ねられてやっとヒカルにも合点が言った。


「なーる…」


確かに塔矢家にクリスマスツリーもサンタクロースも似合わない。けれど似合わないからと言って憧れないとは限らない。


「で、じゃあおれがおまえのプレゼントなわけ?」

「靴下に入っていたのならね」

「そうか、おれがおまえのクリスマスプレゼントなのかぁ」


しみじみ感じ入ったように呟いた後、ヒカルは俯いて、アキラの髪に口づけながら聞いた。


「え? でも、じゃあおれのプレゼントは? おれもかなり『良い子』だったと思うんだけど、サンタクロースは来ないのかよ」

「本当に? キミはそんなに『良い子』だったかな」

「だったよ。少なくともおまえにとってはそうだったはず!」


憤慨したように言い切るヒカルにアキラがおかしそうに笑う。


「じゃあ確かめてみるといい、キミにもプレゼントが届いているのかどうか」


一瞬考えて、ヒカルは足でアキラの足先を触った。

先ほど絡められたのとは逆の足に、靴下の感触を覚えた時、その顔が満面の笑顔になった。


「届いてた! おれにも最高のプレゼント!」


そして幸せそうにぎゅっとアキラを抱きしめると、贈り物の中身をゆっくり確かめ始めたのだった。


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すみません、今頃ですがクリスマスSS第二弾です。
置き土産SSです〜。



2018年12月24日(月) SS「こんなクリスマスイブ」


この冬が暖冬かそうで無いか知らないが、十二月二十四日の今日は間違い無く寒かった。

街中に居る時はさほど感じなかったが、人気のない公園でじっとしているとしんしんとした冷えが足元から這い上がって来るような気がする。


「…い」


寒さを払うように足踏みしていたヒカルは、傍らから声がしたような気がして問い返した。

「ん? なんか言った?」

「…すまない」


弱々しい声はアキラのもので、アキラはすぐ横のベンチで横たわっている。

忙しい日々の中、奇跡的に空いたクリスマスイブの休暇。

ここぞとばかりに気合を入れて、映画を観たりクリスマスマーケットに行ったり、日が暮れてからはイルミネーションを見に行った。

そして締めくくりにホテルのレストランで食事をしてバーでカクテルを飲んで帰って来たのだが、その帰途、幾らも歩かない内にアキラは顔色が悪くなり吐いてしまった。

タクシーで連れ帰ろうとしたけれど、イブの夜に空車が見つかるはずも無く、仕方なくヒカルはアキラを公園のベンチに寝かせたのだった。


「いいよ、それより寒く無いか?」

「大丈夫…キミこそ寒いだろう、ごめん」


アキラも元々冬用のコートを着ていたのでそんなに冷えることは無いのだが、ヒカルは自分のコートもアキラの体にかけてやっていたのだ。


「いや大丈夫、ヒートテック着てるし、まだアルコール残ってるし」


アルコールと聞いてアキラの眉が寄せられる。


「最後に飲んだカクテルが悪かった。結構度数があったから…」

「あー、飲みやすかったけどな」

「ディナーの鹿肉も悪かったかも。食べなれないものを食べたから胃がびっくりしたんだ」

「そうだなあ、美味かったけどな」

「クリスマスマーケットでも食べ過ぎた。普段あんなに食べないのに」


実際、シチューやプレッツェル、ホットワインなど雰囲気に浮かれて随分食べてしまったのだ。


「そうだなあ、ホットワインとか酔いやすいしな」


ぼつぼつと続くアキラの愚痴にヒカルは優しく相槌を打つ。


「それと…」


言いかけたアキラの言葉がふいに途切れた。


「何? 吐きそう?」


覗き込むようにしたヒカルの顔を避けるようにアキラは横を向く。


「嘘だ、ごめん。全部美味しかったし、楽しかった。折角キミがお膳立てしてくれたのに悪く言ってごめん」

「いいよ、別に」

「浮かれていたんだ、きっと」


クリスマスマーケットは初めて行ったし、映画も久しぶりだった。何より普通の恋人同士のようにクリスマスイブを過ごせたことが嬉しくてたまらなかった。


「なのにそれを台無しにするようなことになって…ごめん」

「別に台無しになんかなってないけど?」

「だって、こんな」

「おれも今日一日すっっっごく楽しかったし、嬉しかった。でも本当に飲み過ぎたし食い過ぎたよな。食べつけないような物も調子に乗って食っちゃったし」


そこら辺、おれも気を付ければよかったんだとヒカルは言う。


「キミは何も悪くないじゃないか」

「それでもさ、普段より食うおまえが嬉しくて止めなかった。おまえ忙しくて疲れ気味だったし消化悪いもんばっか食べたらそりゃクルよな。悪かった」

「進藤」

「それに」


にっこりと笑ってヒカルはアキラの頬に触れた。


「こんな風に弱ってるおまえを見るの、実は結構好きなんだ。普段絶対言ってくれないようなこと言ってくれるし、可愛いから」

「…バカ」

「うん、バカなんだおれ。それで、こうして弱ってるおまえを独り占め出来てるのもすごいシアワセ」


おれにとって最高のクリスマスプレゼントだよと言うとアキラは深く眉を寄せ、何かひとことキツイことを言い返そうとしたらしい。

ヒカルはじっと待ったけれど、いつまでたってもそれは吐き出されることが無かった。

代わりに、「最低だな」と掠れたように言ってアキラが頬を染めたので、ヒカルは満面笑顔になって、「うん、おれ最低なんだ」とこれ以上無い程優しい声でアキラの耳に囁いたのだった。



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