SS‐DIARY

2018年04月03日(火) (SS)四月とキミと嘘


「おれ達、付き合うことにしたんだ」


一昨年の四月一日、進藤がそう言うと和谷くんを始め友人知人は皆口を揃えて「いいんじゃねえ?」と言った。


「碁の鬼とバカでお似合いだよ」


ぼくの周りの人達も概ね同じ反応だった。




去年の四月一日、「おれら同棲することにしたから」と言うとこれまた同じく「そーか、そーか、良かったな」という反応だった。


そして今年、「おれらケッコンすることになったから!」と進藤が言ったら、和谷くんにため息まじりに「へいへい、おめでとう」と言われた。


「ついに結婚か。来年は子どもでも生まれるのか? しかし、おまえらもいい加減そのネタ引っ張り過ぎ」


そろそろ別のネタ考えろと言われた。





「末永くお幸せにとまで言ったヤツも居たけど、これ見てどう思うかな」

「さあ、嘘の続きとでも思うかもしれないね」


ポストに大量の封筒を落とし込んでから、ぼく達は顔を見合わせてそっと笑った。

投函したのは半年後に行われるぼく達の結婚式の案内状だ。

人前式にしようと決めて、両家の親以外親しい人達だけに送ることにした。

それでも結構な人数になったのだが。


「だあれも来なかったらショックだよな」

「来るだろう? 来なかったら引きずってでも連れてくればいい」


何しろこちらは段階を踏んで告げて来たのだから。


告白を四月一日にしたのは、嫌悪感を露わにされた際にエイプリル・フールの嘘だと誤魔化せるからだった。

有り得ない、冗談でもそんな気持ち悪いこと言うなと言われたらそのまま秘めるつもりだったけれど、思っていたよりも反応はずっと好意的で拍子抜けしたくらいだ。


「まあみんな、おれらがくっついても変だとは思わないみたいだしな」

「お似合いだってお墨付きも貰ったんだし、これからは四月一日に関係なく堂々とさせて貰おう」


最速なら明日届く封書、貼られた慶事用の切手に受取人は気が付くだろうか?

ひっくり返して連盟の差出人名を見た時はどう思うだろう。

寿のシールを剥がして開いたその中の招待状を見た時に驚愕するであろう顔を想像してそっと笑みを漏らす。



「誰が最初に電話してくっかな」

「キミは和谷くんだろう? ぼくの方はきっと芦原さんだと思うな」

「いや、絶対緒方センセーだと思うぜ」


冷静なふりして慌てふためいてかけてくるぜと進藤に言われて破顔した。


「楽しみだ」

「おれも! すっげー楽しみ♪」


にっこりと笑いあってそれから手を握る。



もうじき四月一日は終わり、エイプリル・フールも終わるけれど、ぼく達のついた『嘘』は終わらない。

永遠に続く『真実』に変わるからだとそう思いながら、ぼく達は幸せな気分でゆっくりと街を歩いたのだった。




 < 過去  INDEX  未来 >


しょうこ [HOMEPAGE]