「お、桜ラテだって、美味しそうじゃん。おれ、これ飲もうかな」
入ろうとしたカフェの入口に貼ってあったポスターを見て進藤が言った。
「なあ、おまえもこれにしろよ」
桜すごく好きじゃんかと言われて眉を寄せる。
「こんな…見るからに甘そうじゃないか。それに桜って言っても味はきっと桜餅みたいなものか、さくらんぼの味だと思うし」
だって桜は花なのだから、香りがあったとしても味があるはずも無い。 その香りだって、きっと花では無く葉の香りだろう。
「じゃあやめとく?」
ゆっくりとガラス戸を開けながら進藤がぼくを振り返った。
「いつも通りカフェラテとかモカとか…」 「誰が飲まないと言った! もちろん飲むに決まっているだろう」
睨みながら言ったら進藤がにやっと笑った。
「うん、そーだよな。おまえいつもそーだもんな」
うっすら色づいたドリンクの上に山のようなホイップクリームと削ったピンクのチョコレート。
激甘なのはわかっているけれど、それでも何故か頼んでしまう。
この季節だけの『限定品』
「似て異なるものだと思っているけど、それでもやっぱり桜だからね」
ぼくは桜が好きなんだよと、つんと顎を上げて言ったら進藤は、「よっく知ってる」と可笑しそうに笑って、ラテの他に桜のロールケーキも二つ注文したのだった。
end
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