SS‐DIARY

2014年10月30日(木) (SS)幸か不幸か


「キミの将来の夢は?」

何と言うことのない会話の中でふと塔矢に聞かれた。

「おれの夢? うーん」

しばし考えた後でぽつりと言う。

「おまえとシアワセになることかなあ」

さり気なく告白も混ぜたおれの言葉に塔矢はどう反応するだろうかと内心すごくドキドキだった。

「幸せだけど?」

キミと居られてぼくはもうずっと前から幸せだけれどと不思議そうに返されて、おれはこの天然ちゃんにどうしたらシアワセと不幸せが入り交じった今のこのおれの気持ちを伝えられるだろうかとしばし悩んだのだった。



2014年10月19日(日) (SS)何だこのクソ可愛い生き物は!


塔矢がえっちをさせてくれない。

最初は気のせいかと思ったけれど、何だかんだと理由をつけられ気がついたら二週間以上が過ぎていた。


『ごめん明日早いから』

『今日はちょっと体調が悪いんだ』

『疲れ過ぎていて…ごめん』


それ以外は普通で、もちろんそれだけのために付き合っているわけでは無いから良いと言えば良いのだけれど、あまりにも避けられ続けるとどうしてだろうかと不安になる。

今更だけれどこういう関係を解消したいのではないかとか、他に好きなヤツが出来たのではないかとか、最悪おれのテクに問題があって、だから嫌がっているのではないかなどと下世話な方向にまで想像が行ってしまうのだ。


『塔矢、今日―』

『ごめん、芦原さんと約束があるから』


とうとう匂わせもしないうちから断られるに至って堪忍袋の緒が切れた。


手合いが終わった後の塔矢を一階で待ち伏せて捕まえる。


「進藤? キミ、今日は手合いは無いんじゃ」

「無いけどおまえがあるの知ってたから来たんだよ」


むっとしたおれの顔に雲行きが怪しいのを感じてか早々に塔矢は逃げ腰になった。


「何か用でも? 悪いけどぼくは今日は―」

「この後予定は何にも無いよな。事務方に聞いて仕事のスケジュール聞いてあるから」


おれが言うと塔矢は狼狽えたような顔になった。


「仕事…は無いけれど芦原さんと」

「芦原さんとも緒方センセーとも約束は無いよな。もう連絡して確かめた」

「実はお父―」

「塔矢先生にも聞いたって。ついでに言うと市河さんにも北島さんにも広瀬さんにも聞いてあるから言い訳しても無駄だぜ」

「日本棋院長野支部の本橋さんと会う約束が―」

「おまえ、おれのことバカにしてんのか!」


思わず怒鳴りつけたら塔矢は気まずそうに黙り込んだ。


「何の予定も用事も無いならこれからおれんち行こうぜ? ここんとこ全然ゆっくり会えて無いし、これ逃したらまたお互い忙しくなるし」


暗にというより半ばはっきり「やろうぜ」と促す。


「でも今日は…」

「別に体調悪く無いだろ。こうして触ってても熱なんか無いし、今日一日元気そうだったって篠田先生にも聞いたし」

「それでも…」

「おまえ何なんだよ! そんなにおれとするのが嫌かよ。おれにもう飽きたのか?」

「そんなこと、無い」


びっくりしたように言われたので内心おれはほっとした。


「じゃあ、なんでだよ。なんでここんとこずっとおれとスルの嫌がってんの」

「それは…だって…」


いつもきっぱり、はっきりの塔矢がらしくなくもじもじと言い淀んでいる。


「もしかして下なのが嫌だとか?」

「そういうことじゃ…無い」

「じゃあなんでだよ!」

「キミに……………から」

「は?」

「キミに嫌われてしまいそうだから」


予想外の言葉におれは思わず絶句してしまった。


「なんで? おれがおまえのこと嫌うわけ無いじゃん」

「でも…………………」

「聞こえねえ!」


びしりと言うと恨めしそうな顔で見られた。


「おれバカなんだからはっきり言って貰わないと解らないって。一体なんでおれがおまえのこと嫌うんだよ」

「ぼくが、あんまり…………………淫乱だから」


言葉の後半はほとんど聞こえないくらい小さかった。


「は? え?」

「最初の頃はよく解らなかったし、痛い方が大きかったからキミ任せにしていたけれど、最近は…その…気持ちがいいんだ。すごく気持ち良くてもっと色々して貰いたくて、キミにも色々してあげたくなってしまって」

「それが何か悪いん?」

「はしたないだろう。ぼくの方から誘ったり、ねだったり」

「いや、おれは嬉し―」

「縛られるのだって嫌じゃないし、道具を使われるのも感じるし、無理矢理乱暴にされるのも実は好きだし」

「おれの方は願ったり叶ったり―」

「挙げ句の果てにはキミのを飲ませて欲しいなんて頼んでしまって…自分で自分が恥ずかしい」

「えーと」

「このままだともっと恥ずかしいことを言ったりしたりしてしまいそうだったから、だから」


止めどもなく喋り続ける塔矢の前でおれはスマホを取り出して検索を始めた。


「キミに嫌われる前に少しでも自分をなんとかしたかったんだ」

「解った」


キツイ調子で言ったつもりは無かったけれど、塔矢がはっと顔を上げた。


「だから…そういうわけだから」

「うん。お前が死ぬ程バカだってのがよくわかった」


どこの世界に自分の恋人がよりえっちになって嬉しく無い野郎がいるんだよ!


「調べたらこの近くにもマニアックなホテル結構あったわ。だからおれが本当に淫乱なおまえのことを嫌いかどうか確かめに行こうぜ」

「え?」

「淫乱でキレイですげー可愛いお前をおれがどう扱うか自分でちゃんと確かめろって言ってんの」


それでもまだぽかんとした顔でおれを見つめるクソ可愛い恋人をおれは思う存分滅茶滅茶にしてやるために外へと引きずって行ったのだった。

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アキラの悩みはいつもヒカルの想像の斜め上ということで。



2014年10月15日(水) (SS)という夢を見たと言ったので怒鳴ってしまった


「バカじゃねーの? バカじゃねーの? なんでそこで逃げねーんだよ! 二人一緒に死んじゃって、それでいいことなんか一つもねーだろ!そもそもおれが逃げろって言ってんのにどうしてそこ丸無視なわけ? 普段全然言うことなんか聞かねーんだからそういう時くらいおれの言うこと聞けってんだよ! おまえだけでも生きてて欲しいって夢の中のおれに謝れ!」


破滅的な夢を見たとその内容を話されて思わずムカっとして怒鳴りつけたら塔矢は反抗的な顔で「嫌だね」と言った。


「ほら、そーやって言うこと聞かないじゃん! おれの最後の言葉くらい素直に聞いたっていいだろう」


夢の中の話とは言え、怪我をしたおれを見捨てられずに居残って襲ってくる化け物に一緒に殺された。そしてそれをさも幸福なことのように言う塔矢がどうしてもおれは許せなかったのだ。


「じゃあキミは逆の立場だったらそうするのか?」


もし怪我をしたのがぼくで一人で先に逃げてくれと言われたら喜んでそうするのかと尋ねられて即座に「んなわけねーじゃん」と怒鳴り返した。


「一緒に居るよ。おまえ置いて逃げられるわけねーだろ」


そもそも一人だけ生き残ったって全然意味なんか無いんだよと言ったおれの言葉にそうだろうと大きく頷く。


「ぼくだって同じだよ。二人一緒に生きられないならせめてキミと一緒に死にたい。そう思って何故悪いんだ」

「………… っ、でも、それでもやっぱおまえはダメ! おまえは生きてなきゃダメなんだっ!」


我ながら駄々をこねる子どものようだと思いつつ、それでもどうしても譲れなくて塔矢を怒鳴る。


「おれはおまえに生きてて欲しいんだって! おれが生きられないんだとしたら尚更おまえにだけは生きてて欲しいんだってば!」


おれはおれ自身よりもおまえの命のがずっとずーっと大切なんだと終いには半泣きになって訴えた。


「どうしてそれがわかんねーんだよ」

「だったらぼくも百万回でもキミに言ってあげる。ぼくだってね、ぼく自身よりもキミの命の方がずっと…ずっと大切なんだよ。だから例えそれがキミの最後の願いだとしても窮地にキミを置いて逃げるようなことはぼくは絶対にしない」


出来ないんだと塔矢もまた泣きそうな顔になって、けれど揺るぎない頑なさで言い切ったので、そこからまたしばらく不毛な言い争いになったのだった。

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とうやの日SSの続きみたいなもの。矛盾しているし理屈は成り立っていないですが、感情とはこういうもんですよね。永遠の平行線です。



2014年10月08日(水) (SS)という夢を見たと言ったら怒られた


逃げろよと言われた。

そこはどこか知らない街で、ぼく達二人は何者かに追われている。

否、ぼく達だけでは無く、全ての人間が必死で何者からか逃げていた。


捕まれば喰われる。

または踏みにじって殺される。

元の姿がわからないくらい爪で細かく引き裂かれた死体も見た。

なので逃げていたわけだけれど、途中で進藤が足を怪我した。

ぼくを庇って負った傷で、最初はそれほど非道くは見えなかったけれど、すぐにそれがかなりな深手だと解った。


『いいからもう、おまえ先に行けよ』

『嫌だ、どうして自分だけ先に逃げられると思うんだ』

『思っても思わなくてもいいから、とにかく先に行けって、おまえのペース
で行くのおれキツいんだよ』

『だったらもっとゆっくり行くから』

『そーやって、恩着せがましくされるのもムカつくんだって』


絶対に後から追いつくから、とっとと先に安全な場所まで行けよとまっすぐに果てを指さされた。


『嫌だ』


後ろからは追いかけて来る何者かの影が見える。

ああもうあんな近くまで来てしまっているのかと、恐ろしさに足が竦んだけれど、でも心は変わらなかった。


『行けって馬鹿』

『悪いけど…行かない』

『時間がねーんだって!』

『だから行かない』

『塔矢!』

『ごめんね、だって―』


キミを残して行くくらいだったら、ぼくはここで一緒にズタズタに引き裂かれた方がずっとマシなんだよと。

言った瞬間何者かが追いついて、ぼく達の体を鋭い爪が突き抜けた。

自分の人生にこんな終わりが来るとは思いもしなかったけれど。


(それでも)


最期まで一緒で幸せだ。




という夢を見たのだと話した瞬間、ぼくは彼に本気で罵倒されたのだった。

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今日は10月8日、とうやの日ですね。なのにこんな話で申し訳無い。
でも、アキラらしいかなと自分では思ったりします。



2014年10月07日(火) (SS)下僕の幸せ



「悪いけど、付き合って貰うよ」


有無を言わせない口調で引っ張られ、ヒカルが連れて行かれたのは会場から出た通路の奥にある休憩所だった。

非常ドアの側にあるそこは会場から遠いのと、喫煙所を兼ねていないので他に誰も人の姿が無い。

お義理のように置かれた長椅子に先に座るとアキラはヒカルを促して座らせ、その肩にゆっくりともたれかかった。


「何?」

「これからぼくは眠るから一時間経ったら起こしてくれ」


それは丁度昼休みが終わる時間だった。


「ちょ…おれ昼抜きかよ」

「ぼくだって何も食べていない。それにキミのせいなんだから責任を取って貰う」


不機嫌そうな声に言われてヒカルは一瞬黙った。


「あー…、えーとその…、もしかして痛い?」

「痛いよ。それだけじゃなく体中の関節がバラバラになりそうな程痛んで苦しい」


キミは一体どういう力のかけ方をしたんだと言われてヒカルは面目なく顔を手で覆ってしまった。


「や、そりゃ悪かったけど、でもおまえも嫌がんなかったじゃん」


昨夜ヒカルはアキラを抱いた。

好きとも何とも告白もせず、唐突に衝動で押し倒してしまった。

倒されたベッドの上でアキラは非道く驚いた顔をして、けれど次には観念したように大きく一つため息をついた。

『いいよ』と呟かれた言葉にヒカルは自分の気持ちが一方通行で無かったことを知り、ほっとするのと同時に触れることを許されたことを素直に喜んだのだった。

けれどそれはタイミングとしては決して良い物では無かった。何故なら仕事で来ていたファンとの交流会の前夜だったからだ。

翌朝アキラはヒカルの目覚めを待つこと無く、さっさと起きて支度して部屋を出て行ってしまい、その後は司会進行や挨拶などをそつなくこなしていた。

少しばかり顔色が悪いなとヒカルは遠目に見て思っていたけれど、睡眠不足のせいだろうと、さして深くは考えていなかったのである。


「さっき鎮痛剤を飲んだから午後からは少しはマシになると思うけれど、午前中は何度もキミを殺してやりたくなった」

「って、おまえ大丈夫? そんなにキツかったんなら言えよ」


薬嫌いのアキラが鎮痛剤を飲んだと聞いてヒカルは今更ながらに慌ててしまった。


「もしかしておまえ熱も出てるんじゃねえ? なんだったら緒方センセーに言って午後の仕事誰かに代わって貰―」

「なんて言って?」


男に抱かれて、そのせいで調子が悪いとでも言うのかと言われてヒカルは黙った。


「でも…しんどいんだろ」


ヒカルに体を預けているアキラはぐったりと目を閉じている。

肩口に吐かれる息も心なし早くて熱く、ヒカルは自分のケダモノっぷりを呪いたくなった。


「…こんなにおまえに負担がかかるなんて思って無かったんだ。ごめん」

「謝って済むことか。帰ったら当分昼はキミ持ちだ」


突き放すような口調でアキラが言う。


「解ったよ、奢るよ」

「それと次の理事会までに会議の資料をまとめておかないといけないんだけれど、これじゃとても出来ないからそれもキミがやるんだ」

「やる、なんでもやるって」

「それから家の風呂掃除とトイレ掃除、窓も最近磨いていなかったからあれもキミにやって貰いたい」

「帰ったら速攻、洗剤と雑巾持っておまえんち行きマス」

「それと欲しい靴があるんだ。イギリス製でちょっと値が張るけど今のが随分古くなってしまっているから」

「買うよ、どこで売ってんだそれ」

「三越。それから―」

「うん」

「当分は頼まれたってしない。キミは不服かもしれないけれど、これは絶対に譲れないから」


今度はヒカルはすぐに返事をしなかった。


「なんだ? 文句があるのか?」

「…二度と、じゃ無いんだ」


伺うようなヒカルの言葉に今度はアキラが沈黙する。


「今の、『当分はダメだけど、もっと経ったらいい』ってことだよな?」

「…知らない」

「それと今更だけど、おれのこと怒ってる?」


夕べちゃんと言わなかったけど、おれ、おまえのこと好きだよと言ったヒカルの言葉にアキラは何か言いかけて、けれどすぐには声にしなかった。


「…好きにすればいい」


委ねたまま、アキラがそっとヒカルの手の中に自分の手を滑り込ませる。


「なんでもキミの好きに解釈すればいいよ」

「それっておまえもおれのこと好きってこと?」


今度こそアキラは答えなかった。代わりにすうと静かな寝息がヒカルの首筋にかかる。

目を閉じた横顔はほんのりと紅を刷いていて、でもそれが発熱によるものなのか、感情によるものなのかヒカルには解らなかった。


「ありがと」


けれどヒカルがそう呟き、アキラの手をぎゅっと握ると、眠っているはずのアキラは思いがけぬ強さでヒカルの手を握り返し、「バカ」と小声で囁いたのだった。


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もう何回目か解らないお初話です。すみません。
アキラが発熱しているのはショック性のものだと思います。要はびっくりしたと。


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