SS‐DIARY

2014年02月14日(金) (SS)悪因悪果天網恢々


うまうまと朝飯を食べていたら、目の前に座る塔矢がいきなりぼそっと言った。


「キミがあんまり、くれくれと五月蠅いので今日は朝食からバレンタインメニューにしてみた」

「は?」

「ぼくの愛情を込めたキミへのチョコレートは、その味噌汁の中」


今まさに口をつけようとしていた椀を指さして言う。


「げほっ」

「…じゃなくて、キミが口に入れたご飯の中」

「ぶっ」

「…でも無くて」

「おまえなあ」

「そのだし巻き卵の中」

「もうその手はくわねーよ、どうせどれにも入って無いんだろう」

「と思わせておいて、本当に入れた」


塔矢の言葉が終わるか終わらないかの内に口の中になんとも言えない甘さが広がった。


「うっ―」

「美味しいだろう? ゴディバだよ」


キミのために一番高い物を買って来たのだから心ゆくまで味わえと、にっこり微笑む塔矢を涙目で見つめながら、おれは出汁と卵とチョコレートの不協和音をどうやって飲み込んだらいいか真剣に考えた。



2014年02月13日(木) (SS)わかっているならやめてやれ


「なあ、明日何の日だか知ってる?」

知らないはずが無いのを解っていて敢えて塔矢に聞いてみる。

「明日はさ―」

「キミがかれこれもう十年以上、2月に入るや否や毎日のように『くれくれ』としつこく催促して、この忙しい中ぼくに有名店まで足を運ばせ長蛇の列に並ばせた挙げ句、周りに居るのがほぼ100パーセント女性というアウェー感に堪えさせながらまんまとチョコレートをせしめる日だよね」


長文を息継ぎもせず一気に言い切ってじろりと睨む。

そこまで嫌だと思っているのに、それでも毎年おれの願いをきいてくれる塔矢は天使だと思いました。




2014年02月09日(日) (SS)庭駆け回った


雪で喜ぶのは子ども。大人はそんなもので喜ばない。そう言ってぼくを抱きしめた彼なのに翌日起きてキッチンに行ったらシンクの中に小さな雪だるまがいた。

「進藤、キッチンのあれ、キミが作ったのか?」

「あれって何? おれ知らないけど」

それが何かも聞かない内に知らないと言っている段階で白状しているのと同じなのに進藤はしらを切り続ける。

「いや、雪だるまがあるからどうしたのかなって」

「歩いて入り込んで来たんだろ。あいつら隙間からでもなんでも入り込んで来るもんだから」

「キミね」

ゴキブリじゃないんだからと軽く頭を小突いてから、ぼくはちょっと間の抜けた顔をした雪だるまを冷凍庫に引っ越しさせてやったのだった。



2014年02月08日(土) (SS)大人と子ども

「子どもと大人の違いって雪が降ると解るよな」

目覚めてしばらくして進藤がぽつりと言った。

「どう違うんだ?」

「嬉しくて外に飛び出して目一杯遊ぶのが子ども、寒くて家から一歩も出たく無いと思うのが大人」

妙に悟ったような口調が可笑しくてつい笑ってしまった。

「じゃあキミは? 大人なのかな、子どもなのかな」

「おれは―」

言いかけてぼくの体に手を伸ばしてそのままぐいと引き寄せる。

「少なくともこんな雪の日にはベッドから一歩も出たくは無いな」

「…困った大人だ」

「おまえだって」

抱きしめられてそのまま再び掛け布団の中に二人で潜る。

確かにこんな日はこうして素肌で温め合うのが一番だと思った。



2014年02月07日(金) (SS)風邪ひくよ?

「明日雪が降るんだって」

この寒いのに窓際に立ってガラス越しに外を見ていた塔矢が言った。

「このまま眺めていたら降って来る瞬間を見ることが出来るかな?」
「さあね」

おれは塔矢の後ろに立つと腕を回してその体を抱きしめた。

ぎゅっと力を込めると素肌と素肌が触れあってうっとりするほど心地良かった。

「でも無理じゃねえ? 降る瞬間までなんて待って見てなんかいられないんだから」

首筋に歯を立てて軽く甘噛みすると、塔矢はふるっと小さく震えてそれから笑った。

「そうだね」

確かにそんなに待ってはいられなさそうだと、そして振り仰いでおれを見て笑ったので、おれはその美味そうな唇に唇を重ねると、遠慮無く貪り食ってやったのだった。


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