SS‐DIARY

2011年12月26日(月) (SS)おれ達のことデス


「進藤」

塔矢が珍しく言いにくそうに口を開いた。

「恥を晒すようで悪いんだが教えて貰えないだろうか」

こういう物言いをする時は、何か自分には解らなくておれには解るだろうことを聞きたい時だ。

塔矢は負けず嫌いだけれど、こういう所は素直で見栄をはらないので見栄っぱりのおれは尊敬する。


「いいよ、何? 何が解らないん?」

「最近よく耳にするんだけれど意味が解らなくて…」

リア充爆発しろというのはどういう意味だろうか? と思いきり真剣な顔で尋ねられ、おれは思わず爆笑した。


「なっ…解らないから聞いたのに、そんなに笑うことはないだろう」

真っ赤になって怒るのをどうどうと宥める。

「悪かった! でもそれって、おれらのことなのに」
「え?」
「うん、つまりおれらみたいなのを他のヤツらが見たら、そう言いたくなるんだってこと」


好きなヤツと好きなことを好きなだけすることが出来る。

「それってものすごく充実してるだろう?」
「でも…だったらどうして爆発しなければならないんだ?」

ぼくにはさっぱり訳が分からないと、これまた真面目に聞いてくるので、おれは塔矢が可愛くて、思わずキスしたくなるのを押さえながら、「僻んでるんだろ」とにっこり笑って返したのだった。



2011年12月24日(土) (SS)伝説もしくは計画的犯行


日本棋院には一つの伝説が残っている。

ある冬の日、院内の見回りをしていた職員が、使っていないはずの部屋に人の気配を感じて入室してみると、あろうことか若手棋士が二人抱き合ってキスをしていたのだ。

神聖な場でという以前に二人ともまだ十代であったことなど様々な問題があったので急遽お偉方が招集され、その二人も交えて話し合いになった。

『そりゃあ、あんな所でしたのは悪かったと思ってるけど、どうしてこいつと別れなくちゃならないんですか?』

『え? 日本では同性同士の婚姻は認められて無い? そんなのおれらが大人になった頃、どうなってるかわからないじゃん』

『それっておれが五冠を得るくらい有り得ないこと? わかった。じゃあおれがもし五冠を獲ったらこいつと結婚してもいいんですね』

子どもの言うことと苦笑しつつ、皆はそれをいとも軽く承諾した。

『わかりました。それじゃその時になっても絶対約束違えないで下さいね。おれ、絶対五冠獲ってこいつと結婚しますから』


そして十年。

見事五冠を獲得した進藤ヒカルは、周囲の誰にも文句を言わせることなく、親友であり、ライバルであり、子どもの頃からの最愛の人である塔矢アキラと結婚したのであった。



2011年12月15日(木) (SS)天然様には敵わない


「進藤」

ふいに切り出された言葉にぎょっとする。

「昨日、している最中に笑ったのは、ぼくに何かおかしい所があったからか?」

ベッドで寝起きとか、寝入りばなとかそういうシチュエーションだったらまだそんなには驚かなかっただろう。

塔矢が口を開いたのは、これから仕事に行こうという、朝日が降り注ぐ駅ま
での道の途中だったのだ。

「笑った? おれが?」
「うん。…後ろからしている時に一瞬、ふっと笑ったよね」

繋がっているからそういうのは、よく解ってしまうのだと、ごく自然な口調で塔矢は言った。

「あれは…うん、そうだな。おまえが可愛かったから」
「誤魔化すな。ちゃんと正直に言え」
「誤魔化してなんか無いって、マジでカワイイなあって」
「あんな這い蹲ったような格好で、滑稽だと思ったんじゃないのか」
「そんなの思うわけ無いだろう」

実際、滑稽どころか昨夜の塔矢は色っぽく、問題の後ろからの時も、あられもなく身をよじってたまらないくらいだったのだ。

「だったら何故笑った?」
「だから…マジでカワイイなあって思ったんだよ」

そして胸が潰れそうなくらい愛しいと思った。いつも、いつでも好きだと思うのに、それよりも更に好きだと思ってしまった。

出会ってから随分経ち、こういう関係になってからも何年も経つのに、未だにおれの塔矢への気持ちは色褪せるということが全く無い。

それどころか毎日、出会ったばかりのようにドキリとさせられて恋しい想いに囚われる。

「ごめん、確かに最中に笑ったら誤解するよな。でも本当におまえのこと可愛くて、すげえ好きって思っただけだから」
「そうか、ならいいんだ」

塔矢の口調はさらりとしていて感情が読めない。

でも少なくとも怒っていたり、責めていたりする風では最初から無かった。

「なあ…怒ってる?」
「どうして? ただ疑問だったから聞いただけだ。している時の姿は自分では解らないし、もしぼくが無自覚でそういう萎えるようなことをしてしまっていたのだとしたら正そうと思っただけだし」

まるで日常のなんでもない仕草や癖の話のように塔矢は話す。

「だからってこんな所で話すか?」
「別に構わないだろう。というか、こんな所でも話せる関係の方がぼくはいい」

夜のことも昼のことも、いつでも隠すことなく話し合える関係がいいと。

「そりゃそうだけどさ…」

する前は、性的なことに関心があるとは思わなかった。そういうことを毛嫌いするような潔癖なイメージが塔矢にはあったからだ。

でも実際触れ合ってみたら、全然そんなことは無くて、むしろ積極的に応じたりもする。

「幻滅したか?」
「いや」
「嬉しいけれどね、キミとこういう会話も出来るんだってことが」

腹を割って話さないとお互いに気持ちよくなることが出来ない。どちらにも『良い』行為にするためには、双方の努力が必要だからと、あからさまにも関わらず、塔矢の口調に淫靡さは無かった。

「おまえってさあ…」
「なんだ?」

言いかけて止めた。

「いや、いい。おれもおまえとフツーに話せるのって嬉しいし。で、さあ」

じゃあぶっちゃけ腹割って聞くけど、実際の所、前と後ろとどちらの方がおまえには『イイ』んだと尋ねたら、塔矢は一瞬考えるような顔をして、それからにっこり爽やかに、「どちらも」と言い放ってくれたのだった。



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