SS‐DIARY

2010年01月25日(月) (SS)永遠の歌−返歌


覆った手から涙がこぼれる。

泣いているとも自覚していない涙ほど、始末に負えないものは無い。


悲しいとか、悔しいとか、そんな言葉で言い尽くせない、この気持ちは一体どうしたらいい。


辛いとか、苦しいとか、そんなことを言うのは間違っているし、頼りたいとも救われたいとも思わない。


だから、ずっと側に立って居られても、おれは何も出来ないし、何を言うつもりも無い。

邪魔だから居なくなれと言えたならいっそ気持ちが楽なのに、それすらも出来ないのはたぶん気力が無いからで、少しでも力が残っていたならば、たぶん汚い言葉で罵っている。


望んでいないのに居られても困る。

耐えているのに手一杯で人のことまで考えられない。

なのにどうして去らないのかと―。




おまえなんかいらない、どこかに消えろ。

言ったら本当に楽になるのに、それでも口が開かないのは食いしばった歯を少しでも解いたら泣き声が音としてこぼれ出すから。

おまえはおれを泣かせてもくれないのかと、それすらも許してくれないのかと恨めしい気持ちで思いながら、でも同時にこうもおれは思ってた。


おまえなんかいらない。


一人にして欲しいけど、でもやっぱり。


やっぱりずっとそこに居て――と。




2010年01月24日(日) (SS)永遠の歌


進藤が泣いていたからぼくは側に立っていた。


立っているだけで何も出来なかったけれど、立ち去ることも出来なかった。



今、キミがどんな気持ちでいるのかぼくには本当はわからない。

でもキミが痛みを感じていることだけはよくわかる。


心の痛みは人には癒せない。

人で無いものだってきっと彼を癒せない。



だからぼくは一人立つ。

他に誰も居なくなっても。

彼がそれを望まなくても。


ぼくがそれを望むから。

彼が俯いたその顔を上げるまで永遠に一人で立ち続ける。



ぼくにはそんなことぐらいしか出来ないから―。



2010年01月17日(日) (SS)冬花見


「桜を見に行こうか」

そう言われたのは、正月明けの10日だったので驚いた。

「なんで? 今頃咲いてなんかいないだろう?」

言っても塔矢はただにこにこと笑っている。

「あ、そうだ。冬桜って言うのもあるんだよな、それを見に行こうって言うんだ?」

それでもまだ黙っている塔矢に聞き出すのを諦めて二人揃って外に出る。

北風が吹きつける中、塔矢がおれを連れて行ったのはごくごく普通の近所の公園で、もちろん桜なんて一輪たりとも咲いてはいなかった。

「桜…無いじゃん」

おれが不満そうに口を尖らせると、近くの自販機から甘酒を買って戻って来た塔矢は、その缶の一つをおれに差し出した。

「甘酒? 珍しい」

お汁粉やコーンスープは時々見るけれど、甘酒の缶が入った自販機はあまり見かけたことが無い。

「ここのにはいつも冬は入っているんだ」
「へえ」

頷きつつ、促されて近くのベンチに座る。

「…で、結局おまえ何がしたいわけ?」
「何って桜だよ。キミと桜を見たかったんだ」
「桜ぁ?」

見上げても目に写るのは空を覆う茶色い細い枝ばかりで、やはり花の一輪もどこにも見あたらないのだった。

その気持ちがそのまま顔に出たのだろう、塔矢は苦笑したように笑うと「だれがいつ花を見るって言った?」と言った。

「え?でもだってフツー桜を見るって言ったら花を見るもんじゃん」
「そうだけどね、花じゃなくても桜はやっぱりいいものだよ」

よく見てごらんと言われて目を凝らす。

「まだこんなに寒いのに、もう花芽が膨らんで来ているんだよ」

もちろん咲くのはまだ先で、でも木はもうとっくに花を開く準備を始めている。

「この間、通りかかって見つけていいなって思って」
「何が?」
「…さあ?」

塔矢は微笑んで答えない。
答えないでただ缶を開けて美味しそうに甘酒を飲んでいる。

「こういう時にはやっぱりコーヒーでも紅茶でもなく甘酒だと思わないか?」
「そりゃ思うけど…」

わかったようなわからないようなそんな気持ちで缶を開けて甘酒に口をつける。
そう言えばおれ、甘酒ってあんまり好きじゃなかったんだよなと思いつつ飲んだそれは意外なことにものすごく美味かった。

「ね、美味しいだろう?」

見透かされたように言われて、ただ頷く。

「…う、うん」
「良かった。こうしてキミとね、甘酒を飲みながら桜を一緒に見たかったんだ」

そして塔矢は昼間にもかかわらず、空いた手でぎゅっとおれの手を握った。

「温かいね、キミの手」
「甘酒の缶、さっき握ったからだよ」
「そんなこと無い、いつもキミの手は温かいよ」

だからそんなキミが好きなんだと、さらりと驚くようなことを塔矢は言う。

「なんか変じゃない? おまえ」
「そう? そんなこと無いよ。ただ―」
「ただ?」
「キミとこうして桜が見たいって思っただけだ」

ぎゅっと強く握られて、なんとなくドキリと胸が鳴った。

なんだろう。

これは一体なんだろうと思いつつ、甘酒を飲んで空を見上げた。

「やっぱりおれは咲いてる桜の方が好きだけど…」

枯れ枝のような桜の枝にはやはりよく見れば塔矢の言ったようにしっかりと花芽がついていて、さっき見た時とは何かが違って感じられた。

ああ、もうすぐ春になるんだなと。

(まだ冬なのに)

何故かしみじみと心の底からそう思った。


春が来る。

枯れ枝のような桜の枝に満開に薄紅の花が開く春が―。



「満開の頃にもまた見に来よう」
「うん、でも…」

塔矢の言葉に返しかけて、途中で言葉を飲みこんだ。

「なんだ?」
「いや、やっぱりさ、来年もこうして冬の桜を見に来よう」

おまえと二人、北風が吹く中で甘酒を飲みながらこうして花芽を眺めてみたいと言ったら塔矢は嬉しそうに笑った。

「――うん」

うん、そうしようと、それはまるで満開に花開いた花びらのような笑顔だった。

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先週アップしようと思って忘れていました(−−;
どうも私はヒカアキの二人を、温かくて気持ちの良い場所では無く、寒く荒涼とした景色の中に置きたがる傾向があるような気がします。

でもそれでいいんだと思うわけです。


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