| 2009年11月07日(土) |
(SS)愛しのアキラ |
「この本絶対面白いから」
読めと言って進藤がぼくに無理矢理渡したのは一冊の漫画本だった。
コミックスというのかよくわからないけれど、一人の人の短編集で彼にとってはこれが「本」になるらしい。
「進藤…」 「絶対イイから、おまえだって好きになるから」
普段ほとんど無理強いしない進藤がそこまでごり押しに勧めるのだからと仕方無くページをめくる。
めくって少し驚いた。それは漫画は漫画だったけれど成人向けの漫画だったからだ。
幾ページも続く性交シーンに余程突っ返してやろうかと思ったけれど、嫌がらせで貸してくれたとは思わないので取りあえず我慢して読み進めることにした。
描いてあるのは純愛。
成人向けではあるもののひたすらに描いているのは主人公とその恋人の痛々しいまでに無邪気な恋心だった。
「なあ、どうだった?」 「どうって…」
確かにいい話だった。
どれもこれもそういうシーンが無かったとしても、いや、あるからこそ切なさが伝わってくるような話ばかりだった。
「おれ、最後のヤツとかすごく好きなんだけど」
わくわくとぼくの反応を待つ進藤に溜息をついて本を渡す。
「ごめん、ぼくはあんまり好きじゃない」 「えええええっ?」 「だってどれもこれも悲恋ばかりじゃないか」 「そんなこと無いよ、どれもこれも一応ハッピーエンドだと思うけど?」
死期が定まった未来の無い恋愛。
終末を迎える世界での恋愛。
彼が好きだと言ったのは、死別した恋人が幽霊になって現われて生前と同じように愛し合うという物語だった。
「ハッピーエンド?片方がもう既に死んでしまっているのにハッピーエンドなんてあるわけないじゃないか」
はっきりとは描かれていないけれど、その先にあるのは間違い無く別れ。 なのにどうしてそんな話を好きだなどと言えるんだろう。
「死んじゃったからって終わりじゃないだろ」
口を尖らせて本を受け取った進藤は、拗ねた子どものような顔でぼくに言う。
「死んだら終わりなんて、そんな考えはおれは悲しくて嫌いだな」 「キミが好きでも嫌いでも、ぼくは結ばれない話は好きじゃない」
なんとなくぼく達の未来を思わせるものがあるから―とは口に出しては言わなかった。
「結ばれるだろ?」 「え?」 「その話で、もし途中で別れることになったとしてもさ」
それでもきっとまた巡り会って、そして片方の寿命が尽きるまで添い遂げて、それから二人で成仏するんだと進藤は妙にきっぱりとそう言った。
「少なくとも読んでおれはそう思ったし」
おまえともそう有りたいと思っているとはぼくの聞き間違いだっただろうか?
「死んで終わり、別れたら終わり、そんな考え方はおれは嫌いだから」
だからきっとずっとおまえのこと好きだと思うといつの間にか話題は漫画からぼく達のことにすり替わっている。
「そう有ればいいけど…」 「そうするよ、おれが!」
だからおまえもそうで有ってと思いがけず真剣に言われてこくりと頷いた。
「出来るかどうかわからないけれど…」
でも出来るように努力すると、堅苦しいぼくの言い方に彼は笑った。
そうしてから漫画の中の主人公達がそうしていたようにぼくの体を抱き寄せると、漫画よりももっと熱くぼくにキスをしたのだった。
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