| 2009年05月15日(金) |
(SS)セーラー服ときかん坊 |
「大体さぁ、そんな中途半端に結ぶから、みんな、やいやい言うんじゃねーの?」
打ち掛けの時、食事に入ったファミレスで進藤が言った。
「中途半端って…これは髪が乱れないように括っただけだから」
それ以上もそれ以下の意味もない。本当は棋院に入ったらすぐに解く筈だったのだ。
それがあまりに皆が物珍しそうにじろじろ見詰めて尋ねて来るので意地になったのと、目の前に居るこのバカ男が大喜びではしゃぎまくったので解くタイミングを逸してしまったのだ。
「おまえ元々おかっぱでインパクトのある頭なんだからさ、いっそ同じくらいインパクトのある髪型にしてしまえば、みんな『ああ、塔矢くんは今度はあの髪型にしたんだな』くらいにしか思わないって」 「そんなことあるもんか」 「あるよ、試しにちょっといじらせて見ろ」
おれの言う通りにしたら絶対みんな何も言ったりしやしないからと、でもあまりに変な髪型にされても困るので躊躇った。
「キミに任せるとろくなことが無いからな…」 「だーいじょうぶだって、今の髪型とほとんど変わらないくらいにしかいじらないし」
立派に皆が普通にして歩いている髪型だから大丈夫とまで言われて渋々頷いた。
「…今更解くのも悔しいし、キミの言う通りにして皆が黙るというならやってもらってもいいかな」 「マジ? じゃあ食い終わったらちょっとだけいじらせてな」
そして日替わりランチをぺろりと平らげた後、進藤はぼくの隣に座り、後ろを向かせると本当に少しだけ髪をいじった。
「はい、終了」 「もう終わり?」 「ん。完璧」
どーだほとんど変わりないだろうと言われて、手探りで触ってゆっくりと頷く。
「うん…でもこんなことで本当にみんな黙るのか?」 「黙る黙る」
あまりの男らしさにみんなぴったり口を閉ざしちゃうぜーと、なんだか妙に進藤がハイになっているのが不安だったけれどぼくはその髪型で棋院に戻った。
結果は驚いたことに進藤の言った通りで、ぼくを見た人は皆一瞬目を見開いたりはするものの、口はぴったりと閉ざし一言も追求して来ることは無かったのだった。
「な、な、おれの言った通りだろう」 「まあ…助かったけれど、それと勝負は別だから」
手柄をたてた犬のように嬉しそうにまとわりついて来る進藤を窘めるようにぼくは言った。
「恩があるからって手加減はしないよ、午後で決着をつけてやる」 「上等!」
そして―。
一目半で進藤から勝ちをもぎ取ったぼくは目出度く、本因坊リーグのリーグ入りを果たした。
進藤は悔しそうながらも何故か嬉しそうな顔で雑誌の取材に答え、敗因はぼくの髪型だと言った。
「いや、もう可愛すぎて!」
思わず読み違えてしまったのだと。
そしてぼくもまたリーグ入りを果たした勝因は? と尋ねられて答えた。
「この髪型でしょうか?」
強風でも乱れを気にせずに、しかも進藤の手が加わって人の口もうるさくなくなった。
そのおかげで碁に集中出来た。だからそういう意味で髪型のおかげとぼくは答えたつもりだったのだが、翌日発売された『週間「碁」』を見た人達はそう思わなかったらしい。
満面の笑みの進藤と盤を挟んで検討しているぼくの髪は顔の両側、耳の下あたりで緩く結ばれている。
後に新聞を見た母に「あら、アキラさんたら昔の女学生みたいで可愛らしいわねぇ」と言われてしまったこの二つ結びは、皆を驚異的な威力で沈黙させただけで無く、囲碁が強くなる髪型として、それから老若男女を問わず囲碁界で爆発的に流行することになったのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
5月14日のアキラの覚え書きに頂いた拍手メッセージで萌えて書きました。お名前がありませんでしたのでどなたかわかりませんがありがとうございました。 セーラー服は着せられませんでしたがこんなのどうでしょうか?
それから、アキラの髪を結んだゴム、片方はヒカルのポケットに入っていたのだろう輪ゴムです。取るときさぞ難儀してことでしょう。
そしてもちろん皆が沈黙したのは可愛さに驚いたわけでは無く、朝から更に進化した髪型にアキラが発狂したのでは無いかと恐れたからです。
以上言い訳。
でも素直にアキラの二つ結びは可愛いと思いますよ。
あ、タイトルももちろん意味も何も無いですから。ツッコミは無しということで。
|