SS‐DIARY

2008年09月21日(日) 2008年誕生日企画ヒカルDEモンキーバナナSS「深い愛」


もともとベタベタするタイプでは無いし、だから一緒に暮し始めても塔矢が素っ気ないことをおれはあまり気にしていなかった。

「おれ、今日は遅くなるから」
「わかった」

「あ、それから金曜は外で食べる約束だったけど桑原先生に呼び出しくらったからダメになった」
「そうか」

少しは寂しいとか残念だとか言ってくれたら可愛いのにと思わないでも無かったが、それでもこいつがおれを好きなことだけは間違い無いんだからとそれで充分だと思っていた。

態度や言葉に出さなくたって塔矢はちゃんとおれのことを想ってる。
おれと一緒に居ることを心の中では喜んでいるのだと。

(でも、『愛してる』のはおれのが絶対こいつより百万倍は『愛してる』よなあ)

それだけが少し寂しかったけれどおれは概ね幸せ者だと思っていた。

その日までは――。



「あ、おれ来週、中国に行くことになったから」

交流目的のイベントで、本来行くはずだった棋士が病気で倒れ急遽おれが行くことになってしまったのだ。

一緒に暮し始めて初めての海外だったし期間も一週間と長いから今度ばかりは塔矢も寂しがってくれるかなと少しだけ思ったのだけれど、返って来たのはいつもと変わらぬ「そうか」「わかった」の素っ気ない言葉だった。

(まあ、仕方ないか)

それがこいつ。そういうこいつを好きになったのだからとおれはさして気にしなかったのだけれどいざ行って、ホテルで荷物を開いて驚いた。


「あれ?」

着替えなどの他におれが入れた覚えの無いものがいつの間にかぎっしりと入っていたからだ。


酔い止めに腹痛の薬に風邪薬。

鎮痛剤にのど飴に冷えピタに湿布。

梅干しとインスタントみそ汁と腹巻きまで入っていたのには笑ってしまったが最後にぎっしりとフォトアルバムにして塔矢の写真が入っていたのには笑うよりも驚いた。

添えられていたのは相変わらず素っ気ないメモ。

『これをぼくだと思って寂しがるな』


「………って、寂しがってるのおまえじゃん」

空港に見送りにも来ないで、出かける時も無愛想で、でもその顔でこっそりとこの荷物を加えたのだと思ったら可愛くて愛しくて胸が苦しくなって来た。

「なんだよ畜生」

おれ、めっちゃ愛されてるじゃん。あいつおれのこと死ぬほど好きでマジベタ惚れなんじゃんと、更に後にシャワーを浴びて太股の内側に油性マジックで『塔矢アキラ私物』と書いてあるのを見つけた時に思い知った。

「本当に素直じゃねーなあ」

口が悪くて意地っ張りで元祖ツンデレ。

でもそんなあいつの深い愛に打たれまくって更に百万倍惚れ直したおれは、期間中、国際電話をかけまくり、素直じゃない塔矢に散々冷たくあしらわれたのだった。

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ということでモンキーバナナ、最後のワードは「深い愛」でした。
たった一日きりの企画でしたが皆さん遊んでくださって嬉しかったです。

最後のワードを書いてくださったのはどなたかな?すごくSSを書きやすかったです。ありがとうございました。


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