カレンダーを見ていた進藤が「あっ」と小さく声をあげた。
「何?」 「今日アレだったじゃん、アレ」 「あれって?」 「だからアレ」
あのキャンドルナイトとか言うヤツだったじゃんかと、言われてそういえばそういう話を聞いたっけなと思い出した。
全国のランドマークが一斉にその灯りを消し、8時から10時までの2時間を皆、電気を消してキャンドルを灯して過ごそうという、それはそういうキャンペーンだった。
去年それをテレビで知った進藤は、面白そうだ、ロマンチックだと翌日たくさんのロウソクを買って来たのだった。
『来年はやろうな、二人きりでローソクの明かりの下で』
―えっちをしようなという、残りの台詞は余計だと軽く殴ったのをよく覚えている。
「あーっ、もう、一昨日くらいまではちゃんと覚えていたんだけどなあ」 「いいじゃないか、また来年もきっとあるんだろうし」
無くてもいつでもロウソクは使える。キミのやりたい時にキャンドルを灯して過ごしてもいいよと言ったら進藤はぱっと明るい顔になった。
「マジ? だったら明日」 「明日? 随分急だな」
でもそれでもいいよと言ったら骨を貰った犬のように進藤はぼくに抱きついて来た。
「ヤッタ、だったら絶対おまえ明日予定入れるなよ」
碁会所にも行くな、誰からの電話も出るなと言われて笑ってしまった。
「入れないよ。そもそも今日だって朝から何も予定を入れていない」
キミは和谷くんの研究会に行ってしまったけれどねと、ぼくの言葉に進藤が少し驚いたような顔をする。
「キャンドルナイト…覚えてたん?」 「いや? ただ今日は夏至だから」
一年で一番昼が長い。 それは一年で一番長くキミと過ごせる日でもあるから、いつも予定を入れないようにしているのだと言ったら進藤はぎゅっとぼくを抱いた。
強すぎて折れる程、力を入れてぼくを抱いた。
「………………する」 「え?」 「その分、明日、たっぷり返す」
今日の分、おまえがもう嫌だって言うくらい、ずっとずっと一緒に過ごすからと言われてぼくはまた笑ってしまった。
「いや、いいんだ」
よく考えてみたら、昼間長く居られるよりも夜に長く居られる方がいい。 これからは冬至の方を大切にするよと言ったら進藤はほんのり赤くなった。
「おまえって時々すげえ、えっち」 「そういうぼくがいいんだろう」
たくさんのロウソクを灯して抱き合う、明日の夜のことを考えて、ぼくは相変わらずぼくにしがみついている進藤の頭を優しく抱くと「好きだよ」とそっと囁いたのだった。
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