| 2006年10月26日(木) |
美津子の独り言(冗談のわかる方だけお読みください) |
最初に聞いた時は非道いショックで、その後もなかなか立ち直れなかった。
そりゃあ、少し自由にさせすぎたかもしれないけれど、それでもいつか一人前になって、それなりの年になったら、かわいい恋人を連れて来て紹介してくれるものとばかり思っていた。
それが……。
「あ、おれ塔矢と付き合ってるんだ。いつかそのうち結婚するから」
今度会った時にはそういうつもりで会ってやってと、けろりと言われた時には心臓が止るかと思った。
はあ?
塔矢くん?
何故塔矢くん????
だってあの子は男の子じゃないの????
そりゃあ確かに塔矢くんは顔立ちも姿も綺麗な子だとは思う。ヒカルの友達にしてはきちんと挨拶も出来て礼儀正しい。
上品だし、素直だし、可愛い……とも思う。
「でも……やっぱり男同士っていうのは」
親類が、近所が何を言うかと思うと頭が痛い。
「可愛くなくてもなんでもいいから女の子にしてくれれば良かったのに」
そう胃が痛むような思いで日々を過ごしていたのだけれど、思いがけず旧友に再会してその気持ちが変った。
「久しぶりねぇ夜神さん」 「進藤さんも久しぶり」
高校時代の友人宅を久しぶりに訪ねて近況を語り合っているうちに、やはりというかなんというか話題は「今現在息子が付き合っている相手」になった。
「夜神さんの所の月くんはずっと成績も良かったし、大学も良い所に行ったし、さぞ素敵なお嬢さんとお付き合いしているんでしょうねえ」
うらやましさで一杯になりながらそう尋ねたら何故か相手の顔が曇った。
「それがねぇ……なまじ真面目だったせいか、とんでもないお嬢さんにひっかかっ…(ごほん)ごめんなさい。とんでもないお嬢さんを連れてきてね」
聞けば相手はアイドルだかなんだかだと言う。
「あら、素敵じゃない。芸能人が相手だなんて」 「進藤さん、あまりテレビをご覧になっていないの? 芸能人て言っても海砂さんはね」
更に暗い顔つきになって、話し始めた時だった。玄関のドアが開く音がしてその話題の主である、月くんと恋人である弥海砂という女の子が揃って帰ってきたのだった。
「ただいま」
ドアを開けてリビングに顔を覗かせた月くんは、ずっと以前に見た時のままいかにも頭の良さそうな好青年に育っていた。
「こんにちはー♪」
続いて顔を覗かせた恋人を見た時、思わず絶句してしまった。
これは………。
これは確かに………。
強烈かも……。
可愛いことは可愛いのだろうが、あまり行儀が良いとは言えず、今風と言えば言えるのだろうが、あの服はなんだとのど元まで出かかってしまった。
「…ね?」
あれじゃあ素直に喜べないでしょうと二人が2階に上がった後にこっそりと言われて思わず大きく頷いていた。
そして同時に背筋の寒くなるような思いも味わっていた。
もしヒカルの恋人が、月くんの恋人のような女の子だったら………。
(冗談じゃない)
あんな子に比べたら塔矢くんの方が何倍…いや、何百倍も良い!
素直だし頭も良いし上品だし綺麗だし礼儀正しいし!
(そうよ、海砂さんに比べたら…)
もし将来同居することになったとしても、塔矢くんとならきっと仲良く家事を分担出来るだろう。
(この間遊びに来た時も、コップを流しまで運んで来てくれたし)
さり気ない気配りも出来る子なのだ。
そして何より、一緒にスーパーに買い物に行くなら、自分は海砂さんより塔矢くんと行きたい!
お義母さんと呼ばれるなら、絶対に絶対に絶対に絶対に塔矢くんにそう呼ばれたい!!!
(何を悩んでいたんだろう)
変な女を連れて来られるくらいなら、塔矢くんの方がずっといいじゃないか!
(さすがにヒカルは目が高いわよねぇ)
自分の息子はは流石だと、拍手喝采したい気持ちになった。
比べては本当に失礼だとは思うのだが、夜神さんは本当にお気の毒にと、そう思うと足取りも軽く、来る時は意気消沈していたのが、明るく誇らしく楽しい気持ちで家に帰ることが出来たのだった。
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ということで、ごめんなさい。
私はデス○もミサミサも好きです(^^;決して馬鹿にしているわけではありませんので〜〜(汗)
さりげなくアキラにも失礼な話ですよね。ごめんなさい〜〜(滝汗)
ただなんとなくぼーと考えていて、息子が恋人を連れてくる時、ミサミサとアキラを連れて来られたら母親としてはやっぱりアキラが良いと思うんじゃないかなって。
トリビアの種にもそんなようなのがありましたよね。娘が連れてくる恋人がとんでもない男で、それを紹介されたお父さんがどんな反応をするかっていうやつ。あんな感じです。
プロキシとデ○ノのコラボってことで(←違います)腹を立てずに読んでいただけたなら幸いです。
あ、そうそう。もちろん年とか時間とか色々合ってないですよ〜(汗)
| 2006年10月21日(土) |
(SS)人から見たらどうだろうとも |
「悪いんだけどちょっと来て」
そう言われて、ホテルの彼の部屋に引きずり込まれた。
「なんだ? キミ、もう少しで時間だろう?」
キスでもせがまれるのかと思い、呆れた気持ちで軽く睨んだら進藤は少し強ばった顔で「うん、だから悪いんだけどズボン脱いで」と言ったのだった。
「しっ―――――」
進藤っっっっっ!! と怒鳴りつけなかったのは精神力の賜で、でも目にはそれがはっきり出ていたと思う。
「こんな時にキミは何を馬鹿なことを考えているんだっ!」 「え? あー、違う、違う」
たぶんおまえが考えていることと全然違うから、だからお願いだからズボン脱いでくれと言われて仕方なく言う通りにしてやった。
「あ、下着まで脱がなくていいから」
てっきりそういうことかと思ったのにどうやら本当にそうでは無いらしい。
「一体キミは何を――」
何をするんだと言いかけた時に、進藤が屈み込んでぼくの前に頬をすり寄せたのだった。
「きっ―――」
変態だっ!
キミは変態だと叫びかけてやめる。進藤があまりに愛しそうに頬ずりしているからだ。
「温かい」 「…………そんなことをして、何かキミは嬉しいのか?」
今までも彼の行動は理解出来ないと思うことが多かったけれど、今回のは輪をかけてわからなかった。
「こんな……こんな日に、しかももうすぐ始まるのに」 「うん、だから」
言って進藤は苦笑したように笑った。
「なんかさ、こういうのいい加減もう大丈夫だと思ったんだけど、だんだん時間が迫って来たら緊張してきちゃって」
手の震えが止らないからおまえに来てもらったんだと進藤は言った。
「慰めてなんかあげないよ」 「慰めてもらうつもりなんか無いよ。でも…少し落ち着くかなと思って」
言って進藤は犬のように鼻先をぼくの足の間に潜り込ませた。
「すげー…いい匂い。おまえの匂い、おれ大好き」
えっちしている時の匂いだと言われてカッと顔が赤くなった。
「進藤、いい加減にしないと!」 「もうちょっと。元気な時のおまえも好きだけど、今みたいに柔らかいのもすごく好き」
触り心地最高と言われて、もうどうでも好きにしてくれという気分になった。
「終わったら…生で触ってもいい?」 「いいよ」 「勝ったらとか言わないの?」 「いいよ、勝っても負けても、キミはきっといい碁を打つはずだから」
だから結果がどうでも好きにしていいと言ったら進藤は笑った。今度は苦笑では無くて、心からの嬉しそうな笑いだった。
「そっか…そう聞いたらちょっと元気出てきたかな」 「ちょっとじゃ困る」 「うん、もう大分元気」
そして立ち上がると、ぼくの下ろしたズボンを上げて、ご丁寧にチャックとベルトまで閉めてくれた。
「約束……な?」
言ってぼくを抱きしめると、ちゅっと軽くキスをする。
「終わったらご褒美」 「大丈夫、約束は守るよ」
もう一度抱きしめようしたのを押しとどめてネクタイを引くと、ぼくは今度は自分から彼に深いキスをした。
「…その気にさせたんだから、キミは例え負けても責任を取れ」 「わかった。わかりました」
最高にイイ気持ちにさせてやるからと、言って進藤は改めてぼくを強く抱きしめると気持ち切り替えたように、厳しい顔で部屋を出て行った。
開始時間5分前。
二年連続挑戦して破れ続けた本因坊戦最終。
彼は桑原現本因坊から勝ちをもぎ取るために、戦いに一人赴いたのだった。
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すみません、なんかびみょーな話で。でも書きたかったの。
| 2006年10月11日(水) |
(SS)アキレスの踵(和谷視点) |
おれは塔矢が嫌いだった。
昔からいけ好かないやつだと思っていたし、それは進藤とこいつが親しくなってからも変らなかった。
何しろ人を人とも思っていない態度だし、何があっても沈着冷静で、取り乱したり慌てた所など一度も見たことが無かったからだ。
表情もほとんど変らないし、喜怒哀楽というものが著しく欠けている。
(きっとこいつ、大災害とか来ても顔色一つ変えないんだろうなあ)
映画でもよく居る、冷静なリーダー役になって、逃げまどう人々を導くんだろうなあと、それもまたムカつくと、そうおれは思っていた。
そう、――その日までは。
その日、おれと進藤と塔矢は仕事を終えて帰る所だった。
「あーっ、疲れたなあ」
手合いではなく、アマチュアイベントでの指導碁の仕事で、終わった後の打ち上げにも混ざっていたので結構時間が遅くなってしまった。
「まったく、いつになったらこういう仕事やんないでも食っていけるようになるのかなあ」
腐るおれに進藤が苦笑したように言った。
「しょーがないじゃん、まだおれたち下っ端だし、でもおれ結構こういうの好き」 「色々な人と打てるからだろう?」
言葉を引き取るように塔矢が言う。
「キミは結構こういうイベントが好きだよね」 「うん、ガキと打つのも好き。あいつらムキになって打ってくるからさ、もーすげーかわいくて」
塔矢は進藤のぴったり横について楽しそうに話している。
もしこれが、おれと二人きりだったらもっと硬い感じになっていたのだろうが、進藤と一緒なので寛いだ表情になっている。
(こいつ、本当に進藤のこと好きなんだなあ)
友人というものを全く持たない、他の若手ともほとんど交流を持たない塔矢アキラが唯一、進藤ヒカルにだけうち解けているということは、囲碁界の誰もが知っていることだった。
(とても気が合うとは思えないのになぁ)
実際、進藤と塔矢は会えば喧嘩ばかりしているらしい。けれどそれでもやはり結局の所は仲が良いのだ。
今更だけど、不思議な取り合わせだぜと思いながら、角を曲がった時だった。
ふいに目の前が眩しい光で覆われ、同時に激しいブレーキ音が響いた。
「危ないっ」
叫んだのは進藤の声で、でもどこに居るのかはわからなかった。
キーーーッ、そしてどすんと重い音がして、気がついたら足元に進藤が横たわっていた。
「わっ、わっ、なんだ!」
少し離れた所には塔矢が真っ青な顔をして尻餅をついたような格好で座り込んでいる。
「なんだ、何が起こったんだよっ」 「進藤が…進藤がぼくを庇って……」
塔矢の声に改めて周りを見る。ようやく元にもどった目は、遠く走り去って行く車のテールランプをかろうじて見つけた。
「って! ひき逃げかよ!」
やっと事態が飲み込めた。
細い一方通行の道を逆走して走って来た車がおれたちに突っ込んで来たとそういうことらしい。
「進藤! 進藤っ!」
塔矢が這うようにして近づき揺さぶると、ほっとしたことに進藤はすぐに目を開けた。
「あ………………っ、塔……痛っ」
言いかけて途端に顔を顰める。
「大丈夫? 進藤」 「よかった……。おまえ無事で」 「ぼくは無事だけどキミが…」
よく見ると進藤の左足が変な方向に曲がっている。
「おまえ突き飛ばして……自分も避けたつもりだったんだけど、やっぱ……ぶつかったみたい」
折れたかもしんないと、言いながら痛むのだろうその顔が歪んでいる。
「電話! 救急車呼ばないと」
おれは慌ててスーツのポケットから携帯を取り出してかけようとした。 ところが運の悪いことに電池切れで、うんともすんとも言わない。
「塔矢、おまえの携帯でかけろ!」 「あ……うん、わかった」
真っ青な顔で携帯を取り出すと塔矢は電話をかけようとした。所が何故かいつまでたっても番号を押さない。
「早くしろよ、塔矢、進藤痛がってるじゃんか」 「きゅ……救急車の番号が思い出せない」 「はあ?」 「救急車を呼ぶのが何番なのか、どうしても思い出せない」
どうしようとおろおろと振り返っておれを見るので、おれは呆気にとられながら「119番だよっ!」と叫んだ。
「早く呼んでやれよ、その後で警察にもかけなくちゃだし」 「あ……う、うん。わかった。ごめん」
そして指を三回動かして119番をかけたはずだった。それが……。
「出た? すぐ来てくれるって?」
塔矢は携帯を耳に当てたまま、奇妙な表情をしている。
「それが……明日は晴れだって……」 「はぁぁぁ?」 「何故だろう? 天気予報をやってる…」
泣きそうな塔矢の顔におれは思わず怒鳴ってしまった。
「バカ野郎っ、それは177だろう? おれは119にかけろって言ったんだよ、119に!」 「ごめんっ、すぐにかけ直すから」
狼狽えたような声で塔矢は言うとすぐにかけ直した。所がまた携帯を耳に当てたまま塔矢は奇妙な顔をしているのだ。
「今度こそ、119にかけたんだろうな?」 「………今、23時53分29秒だって…」 「こっ、この」
「大馬鹿野郎っ!」
おれは思い切り怒鳴りつけると塔矢の手から携帯をもぎとった。
「おまえ一体何アホやってんだよ。もう信じられねー」
そして119にかけて救急車を呼ぶと、次に110にかけて警察も呼んだのだった。
「ごめん……ちゃんとかけたつもりだったのに」
頭の中が真っ白になってしまってと、塔矢は半泣きになりながらおれと進藤に謝った。
「ん…大丈夫だから、いいよ泣かなくて」 「あーっ、もう進藤は塔矢を甘やかすなっ!こんな緊急時に使えなくちゃ困るだろーがっ!」
大体普段の冷静さはどこにやったんだおまえはっ!!!!!どこに落として来やがったとその後おれは救急車が来るまでの間、ずっと塔矢に説教をしてしまった。
まったく、ちょっとくらい顔が良くて、碁が強くてもこんなにパニックに弱くてはダメじゃんかと、よくよく考えてみればおれの人生で塔矢アキラにこれだけぼろくそ好き放題言ったのは初めてだったような気がする。
「これからはもうちょっと冷静になれよな!」
かなり偉そうに言ったおれに、後で進藤が苦笑しながら「あんまいじめないでやって」と言っていたけれど、人としてどーよと言わずにはいられなかったのだ。
それが実は進藤限定で、他の人間が同じような状況になっても塔矢は全く動揺せず、冷静に対処出来てしまうのだと知ったのはまたずっと後のことになるのだが……。
ともあれこの日の使え無さっぷりとみっともないくらいの取り乱しぶりを見て以来、おれは大嫌いだった塔矢が少し、本当に少しだけ好きになったのだった。
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