SS‐DIARY

2005年11月08日(火) 世界中の人が五万回は書いたネタでしょうが


ふらりと塔矢の家に遊びに行くと、塔矢は庭で犬と遊んでいた。

留守がちな家は物騒だと言うことで、先生が知り合いからもらってきたらしい。

おれ自身は犬は好きでも嫌いでも無いけれど、どんな犬だろうかと知りたくてこうして遊びに来たのだった。

「ほら、待って。伏せ、伏せだよ」

玄関のチャイムを鳴らしてもいつまでたっても出て来ないので庭にまわると笑い声が聞こえて塔矢が犬とじゃれているのが見えた。


「だめだよ、待て」

しつけているらしいのだけど、端から見ているとじゃれあっているようにしか見えない。

普段滅多に見ることが無い、子どもみたいな顔で笑っているのでかわいくてしばらく見ほれてしまった。

「塔――――」

遊びに来たぞと言いかけた時、おれの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。

「よし、よしよし。いい子だヒカル」


えーーーーーーーーとーーーーーーーーーーーーー…?


べろべろと顔中舐め回されながら、あいつは嬉しそうにもう一度言った。


「こら、だめだよヒカルってば」

聞き間違いじゃない、確かにあの犬のことを『ヒカル』って呼んだ。


どうやら塔矢は犬の名前を『ヒカル』とつけたらしい。


「うわ、なんでだよ」

赤面しつつ、つぶやいたら思いがけずそれはあいつの耳に届いてしまって、あいつはくるりとおれを振り返った。


「え―――――?」

嘘と小さく呟いて塔矢は見る見るうちに真っ赤になった。

「え―っと進藤……これは」

これは……これは……と、らしくなく言葉に詰まり、見ていて可哀想なくらい塔矢はうろたえた。

「これは……だって…」

パニックになった頭はやがてショートしてしまったらしい、やおらおれを振り返ると「なんでそんな所にいるんだキミはっ!」と怒鳴ったのだった。


「そんな所でこそこそ見てるなんて卑怯だっ」
「いや、だってチャイム鳴らしても出てこないからこっちにまわっただけなんだけど」
「そっ、そんなこと関係無いっ」

帰れ帰れ帰れと、ゆでだこのような顔でおれに怒鳴り続ける。


「なんだよぅ、せっかく遊びに来たのに」
「そんなこと知るか!ぼくは忙しいんだ。これから散歩に行くから」

そして犬の方を振り返ると真っ赤な顔のままで叫んだ。

「おいでヒカル」


ぱたぱたと犬がしっぽを振ってあいつに近寄って行く。

おれも一緒ににこにことついて行くと、あいつはきょとんとした後にやっと気がついて、更に一層赤くその顔を染めたのだった。


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