SS‐DIARY

2004年12月30日(木) (SS)深窓の令嬢

人がどう思っているかは知らないけれど、実は別に決して知識が無いわけでは無かった。

何故かというと家にはいつも大人が出入りしていて、宴会の席などでおもしろ半分に酔った客や父の門下の人たちがいらぬ知識をぼくの耳に吹き込んだからだ。

けれど別にそれを人前で口にすることも無かったし、そもそもそんなくだけた話をする友人もいなかったしで、だから逆に人はぼくのことをその手の話の嫌いな堅い人間と思いこんでいたようなのだった。


そしてそれは恋人である進藤も同じだったらしい。


年の瀬、付き合いで顔を出した忘年会で、ぼくと進藤は他の若手たちと酒を酌み交わして話をしていた。

最初は真面目に碁の話から次第にアヤシイ話へ。途中から進藤がちらちらとぼくを見ているので、ああぼくがいるので遠慮して話に加われないでいるのだなと思った。

だったら別にそんなこと気にしなくていいと教えてあげなければ。

何故そこでそう思ったのかはわからないけれど、たぶんぼくは自分で思っているよりもしたたかに酔っていたのだろう。


「…塔矢くんはこういう話は嫌いだよね?」

そう振られた話についそのまま答えてしまった。

「いえ?全然平気ですよ。××は●●で、×××な時は△×■な方がいいんですよね。若いうちは別に××でもいいって聞いたことありますけど」



その瞬間の進藤の驚愕した顔をぼくは一生忘れないだろうと思う。


酔いも一瞬で抜けたという彼は、帰り道非道く落ち込んだ様子で、しおしおと愚痴をこぼしたのだった。


「おれの塔矢があんなこと言う…」

あんなことやあんなことやあーんなことまで言ったー!と、別にぼくだって普通に健康な男子なんだからそのくらいの知識はあるし言うよと言ったら進藤は更に傷ついた様子でぽつりと「おれにとっておまえは心の聖域って言うか、深窓の令嬢なの!」と言ったのだった。

しんそうのれいじょう。

彼がそんな言葉を使ったことに驚いて、それからぼくのことをそんなにも綺麗に思っていることに驚いた。

本当はもっと色々知っているけれど、落ち込む彼があまりにも可哀想なので、もう人前ではそういうことは口にしないようにしようとぼくは心に決めたのだった。


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ごめん聞いて一気に書きました。
いや、だって。わはははは。ごめんね。



2004年12月23日(木) (SS)するわけにもいかないし

したい時としたくない時がある。
そう言ったら、じゃあどんな時がしたいんだと言われて少し考えた。

「どんな時にしたいのかなんてそんなのわからないけど」

キミの前で襟元を緩めたらそれは間違いなく、そういう気分になっている時だよと教えてやった。

だからそれ以外の時は迫ってくるなと牽制したつもりだったのだけれど。


天元戦五番勝負、第三局目。
お互いに一勝ずつのこの対局で、ぼくは緊張していたらしい、途中、息苦しくなってネクタイを緩めた。

対局中に滅多にしないことではあるがそれだけ白熱した勝負だったのだ。

対戦相手は進藤。

しまったと思い慌てて顔を上げた時、碁盤の向こうの進藤は心底驚いた顔をして、それからいきなり耳まで赤くなったのだった。

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うらぷちえろに書いたSS。こっちでも平気かなと思って載せてみました。



2004年12月18日(土) (SS)たまに素直になるのもいいと

酔っていた口は大分軽くなっていたらしく、ぼくは浴びせるほど彼に「好き」と言ってしまった。

「好き」
「大好き」

愛しているよと、普段の自分なら照れながらようやく一言、言えるような言葉が、この日はどういうわけか一度言ったら止らなくなってしまった。


キミが好き。大好きだよ。いつも口に出して言ったことは無かったけれど、キミがいなかったらぼくは死ぬよと。


途中から彼の顔が真面目なものに変わっても、まだ止めることが出来ず、結局ぼくはつぶれてしまうまで、ずっと彼に好きだと言い続けた。


好きだよ。
好きだよ。
キミを心から愛してる。





翌朝、目覚めた時、ぼくは夕べのことをあまり覚えていなかったけれど、進藤が普段の倍以上も優しかったので、やはり夢では無かったのだとわかり恥ずかしくなった。


「…進藤…あの…」
「ん?何?」



例え酔ったとしても、もう絶対後十年くらいは言わないつもりだったけれど…。


「ん?なに?おなかすいた?」
「いや…そうじゃなくて」

ぼくを見てこれ以上無いというほど幸せそうに笑う。キミの顔が嬉しくて、ついぼくはまた「大好き」と言ってしまったのだった。



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久しぶりのSS−Diaryです。初恋草は思っていたよりも長くなりそうなのでこっちで書くのはやめました。そのうちまとめて載せますので気長にお待ちください。


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