思考過多の記録
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| 2003年04月11日(金) |
海の向こうの戦争2003〜その4 |
開戦から3週間あまりが経過し、イラクの首都・バクダット陥落のニュースが世界を駆けめぐった。やや少なめの群衆の前の前で、独裁者フセインの銅像が引き倒され、群衆が歓声を上げるという、どうしようもなく「ベタ」な映像とともに。 現時点では、散発的な戦闘は続いているものの、フセイン大統領をはじめ政府の高官達は消息不明、政府も警察も一切機能していない。ブッシュの望んだ通り、フセイン政権は事実上崩壊し、この戦争の大勢は決したと言っていいだろう。 けれど、バクダットをはじめ各地の治安は悪化している。今も続くアメリカ軍による民兵の掃討作戦に巻き込まれて、少なくない民間人が傷付き、命を落とした。アメリカのメディアが伝えるほどには、イラクの人々は米英軍を心から歓迎しているわけではない。
確かにフセイン政権の統治は酷いものだったらしい。反対派として粛清された人間は数知れないし、社会に張り巡らされた密告と相互監視のシステムは息苦しいものだっただろう。あの国に暮らす人々にとって、決して望ましい体制だったとは言えない。いずれは打倒され、より民主的な政権に取って代わられて然るべきものだった。 けれど、そのことをもってして今回の米英による戦争が正当化されるわけではないこともまた強調されねばならないだろう。たとえイラクの人々がフセイン政権からの解放を望んでいて、結果として米英軍の攻撃によってそれが成し遂げられたのだとしてもなお、この戦争に対しては国際社会の多くが疑問を呈していたこと、そして何よりもこの戦争を当事者であるイラク国民が望んでいたわけではない(平たくいえば、イラクの人々が米英軍を呼んだわけではない)ことに変わりはない。 つまり、米英の軍事的な「勝利」およびイラク国民の「解放」は、この戦争の「正しさ」とは何の関係もないということである。
そして、アメリカの多くの楽観主義者、独善主義者達の頭を冷やし、彼等こそが世界の常識から外れた行動を取ってしまっていたということを認識してもらうためには、米英軍の圧倒的勝利による戦争の終結という形は、本来望ましいものではなかったのだ。 ベトナム戦争の初期、アメリカは奢っていた。自分たちの正しさと勝利を確信していたのだ。けれど、戦争が泥沼化していく過程で、アメリカ国民の多くがあの戦争と自分達のしていることに対して次第に懐疑的になり、そして国と我が身を振り返り、間違いを悟っていったのである。 これと同じことが、今回のイラクでの戦争においても必要だったのだ。「力」を誇示することが何の役にも立たないこと、星条旗の元での「自由」がアメリカ大陸の外では如何に不人気であるかということ、それをこの戦争から彼等は学ぶべきだった。人命が無駄に失われなかったことは喜ぶべきことだろうが、なまじ軍事的にうまくいってしまったことで、彼等は自分達の「強さ」と「正しさ」が証明されたと勘違いしてしまったのだ。
暫定政権や戦後復興を巡るアメリカの強気な発言に、こうしたかれらの驕り高ぶりが透けて見える。彼等は自分達の言うことを聞いてくれるというだけで、イラク国民の人望のない人物を暫定政権の長に据えようとしたり、占領機構のトップに対アラブ・パレスチナ強硬派の退役将校を招こうとしたりしている。 しかも、実はイラクはいくつかの民族や宗派の異なる人々によって構成される「モザイク国家」だ。北部のクルド人の動向によっては、自国内にクルド人を抱える隣国トルコを刺激したり、アメリカの強引な手法に反発するパレスチナ過激派の活動が活発になったりと、中東地域全体が不安定化する要因ともなりかねない。おそらくアメリカは、そんな周囲への影響など考えもせずに戦争を始めてしったのだろう。そして、「戦後」に残るこうした様々に絡み合う複雑な問題も、自分達が睨みをきかせさえすれば片が付くと思っているようだ。 そこには、イラク国民の将来を、彼等の立場になって真剣に考える姿勢は見られない。ただただ、あの国と地域における自らの覇権の確保だけを念頭に置きながら、きわめて乱暴に事を進めようとしている。
バクダットでフセインの銅像が倒される直前、実はあの像の顔は星条旗で覆われていた。しかし、群衆の一人がやおら像によじ登ってそれを引き剥がしてしまった。このシーンを放映したメディアは少ないが、これこそがあの国でアメリカが置かれている微妙な立場を象徴的に表す出来事だった。
繰り返すが、この戦争は、終わったからいいというものではない。また、独裁者を排除したからいうことで賞賛されるものでもない。ましてや、彼等が「ご褒美」としてイラクの石油や復興事業の利権を優先的に確保していいことにもならない。 米英のしたことは明らかに国際法に違反する侵略行為である。米英のメディアや、その映像を借りて放映する日本のメディアは、基本的に「勝者」の見たい映像しか見せてはくれない。けれど、僕達はその映像に映らなかった光景、すなわち、すくなくともイラクの人々が誰も望まなかったであろう戦いで、多くの血が流された事実を記憶しておくべきである。 そして、「あの大国が、本当は何をしてきたのか、そして何をしつつあるのかをしっかりと見ておこう。 今僕達が、そして全世界が目にしているのは、「自由の解放者」アメリカ・僕達の国の「同盟国」の本当の姿なのである。
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