思考過多の記録
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| 2001年12月24日(月) |
Merry Xmas |
殆どの人がキリスト教徒ではないのだけれど、街はクリスマスに浮かれている。景気の低迷で一時期よりはテンションが下がったけれど、それでもいつもの休日とはどこか違う空気のにおいがする。 スーパーやデパートはクリスマスの買い物をする人々でごった返し、通りや電車の中はカップルや家族連れが主役になる。レストランやシティホテルは愛を語らう恋人達の予約で一杯だ。子供は玩具をもらって有頂天になり、恋人達はプレゼントを交換して気持ちを確かめ合う。そして、珍しく人々が待ちこがれる夜の帳が降りれば、色とりどりのイルミネーションが街のそこかしこで輝き、一夜限りの別世界を作り出す。
街の空気に絆されて、飾り立てられた街の雑踏の中で、好きな人へのプレゼントを選んでいたのは、つい1,2年前のことだ。選んだけれど、結局は渡せなかったプレゼントもあった。 そして、いつでも僕のプレゼントは相手の困惑を招き、終ぞその効果を発揮することはなかった。
この冬、僕は最終的に自分の恋心の息の根を止めた。
誰かを愛すれば、どうしても見返りを求めてしまう。だが、僕の気持ちを知ったとき、どんな相手も身を翻した。望んでも望んでも、僕が好きになった相手が僕を好きになることはなかった。 僕にそういう対象として見られていたことが分かると、女性の誰もが困惑した。そういうつもりじゃなければよかったのにと、誰もが心でそう思っていた。 彼女達は困惑の表情を浮かべ、言葉を濁した。そう思われたことは嬉しかったが、それが僕でなければもっとよかったと、僕でなければその気持ちに応えられたのにと、どんな女性も思っているようだった。 そして僕は傷付いていった。人を好きになる度に、僕は傷付いた。傷付くことを恐れるなというのは高みの見物を決め込んでいる人達だった。僕がひとたびそういう人達の中の誰かを好きになれば、その人もまた身を翻した。 誰の目にも、それは全く無駄なエネルギーの浪費だった。精神衛生上好ましくないからもういい加減やめなさいと忠告してくれたのは、僕がかつて好きになった女性だった。
不条理とも必然とも思える循環を経つために、僕は全てを諦めることにした。 恋したり愛したりする心を、奥深くに永遠に封じ込めようと決めたのである。 でも、どんなに頑丈な扉を閉じて鍵をかけたつもりになっても、あるきっかけでそれがまた呼び覚まされ、僕を突き動かすことがないとも限らない。そして、たとえ僕がまた誰かを好きになっても、結果は同じなのは目に見えている。ましてやもう若くはない、かといって経済力があるわけでもなく、他に取り立ててそれ補うような魅力があるわけでもない僕にとって、恋愛の成功率は限りなくゼロに近付いていることは明らかだ。 だとすれば、同じ過ちを繰り返す前に、何もかも諦めてしまうしかない。 それには、他人や状況によってではなく、他ならぬ僕自身が僕の恋愛を殺す必要があったのである。
そいつの断末魔の呻きを聞きながら、僕は両手に力を込めた。そいつがぐったりして動かなくなるまで、僕は力を入れ続けた。 哀しかったし、無念だったが、不思議と涙は出てこなかった。むしろ、長きにわたる恋愛という「戦い」から解放された安堵感の方が強かった。自分で思っていたよりもずっと、僕は疲れ切っていた。
勿論、人を愛する喜びを失うことは辛いし、悲しい。僕にとっては苦渋の決断だった。少しでも可能性が残っていればとの思いもある。 けれど、愛なんて、もともとどこにもなかったのだ。そう思えば気が楽だ。 だから僕はもう自分から人を愛するのはやめにしよう。ここまででもう十分僕は戦った。 この聖なる夜に、目の前に横たわるその亡骸を葬るのに相応しい場所が見つかるまで、僕はもう暫くこいつの側にいてやろうと思う。そして、こいつの存在が忘れ去られ、始めからなかったことになってしまうのはあまりに不憫なので、自分の手で土をかけたら、せめて墓標だけでも建ててやるつもりである。
Merry Xmas, Merry Xmas 恋人たちだけのために Merry Xmas, Merry Xmas 全ての傷は癒される Merry Xmas, Merry Xmas 今夜の願いごとは叶う Merry Xmas, Merry Xmas 愛のために全てが変わる
Merry Xmas, Merry Xmas 恋人たちだけのために Merry Xmas, Merry Xmas 全てのドアが出迎える
Merry Xmas, Merry Xmas
(中島みゆき「LOVERS ONLY」)
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