思考過多の記録
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| 2001年10月08日(月) |
海の向こうで戦争が始まる(4) |
予想されていたことがついに起きてしまった。アメリカとイギリスがアフガニスタンに対する攻撃に踏み切ったのだ。現時点では空爆とミサイル攻撃のみだが、これが数日続いた後、おそらく特殊部隊等の地上軍が本格的に投入されることになるだろう。あくまでも「正義の戦い」を主張するアメリカと、「聖なる戦い」を叫ぶタリバン政権とアルカイダ(ビンラディン)。唯一絶対の神が存在しないことの証左に思える構図だ。 どれほど美辞麗句を並べたところで、この戦争が4週間前のあの事件に対する報復(仕返し)であることに変わりはない。そしてあの事件それ自体が、宗教の装いを纏ってはいても、その本質が政治的・経済的な抑圧に対するルサンチマンによるものである(事件直後に流されたテレビ演説で、ビンラディンもそれをはっきり認めている)ことを考えれば、あれもまた壮大な復讐であったといっていいだろう。であれば、アメリカとその尻馬に乗ったイギリスをはじめとする先進国が声高に唱える「テロ組織の壊滅」は、一つのプロセスではあり得ても、それ自体が国際社会が目指す究極の目標ではない筈なのだ。 当然のことであるが、犯罪者は法に基づいて裁かれなければならず、その過程で犯行の全容やその背景にあるもの等の全てが白日の下に曝されなければならないだろう。犯罪者達は罪を償わなければならない(場合によっては、自らの命をもって)。しかし同時に、彼等をテロリズムの遂行者の立場に追い込んだ者達の罪状もまた暴かれる必要がある。あの国の宗教指導者をはじめとする所謂「原理主義者」達が断罪されることになろう。だが、それだけでは不十分だ。‘宗教’や‘民族’を自らの覇権のために利用した全ての政治勢力、そして‘文明’や‘自由’の名において時には彼等を利用し、用済みになれば見捨て、意に添わなくなったら敵視さえしたアメリカをはじめとする超大国。富の偏在を容認し続け、貧困の解決に殆ど関心を払わなかった経済大国。こうした連中こそ、まさに「テロの温床」を育んできた張本人だったのだ。こうした者達に対する裁きもまた、テロリスト達に対するものと同様に行われるべきである。さもなければ、それは軍事的・経済的・政治的強者による一方的な裁きとなり、著しくバランスを欠くことから、判決の正当性が疑われることになる。当然それは事態の根本的な解決にはならない。それどころか、敗者の間に新たなルサンチマンが形成され、必然的に次なるテロを招来することになるのだ。 いずれにしても、戦争は始まってしまった。やがてタリバンは壊滅し、テロの首謀者は捕らえられるか殺され、新政権が樹立され、仮初めの平和が訪れるだろう。その時期は案外早いのかも知れない。だが、おそらく戦火が去った後も、世界の様々な場所で、人々は好むと好まざるとに関わらず、敵と味方に別れることになるだろう。そうした事態は既に始まっている。実際これまでの過程で、周辺諸国(とりわけ隣国のパキスタン)に政情不安が生まれている。アメリカをはじめとする超大国は、‘平和をもたらすための正義の戦争’によって、あの地域やアラブ世界、ひいては世界全体に新たな火種をばら撒こうとしているのだ。 果てしない殺し合いの火蓋は切られた。あの事件の犠牲者達は、本当にそれを望んでいたのだろうか。 死者も、そして神も、残された僕達に何も語ってはくれない。
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