 |
|
■■■
■■
■ 引き金を引く物語、交差する物語��
ニンテンドーＤＳの新作ゲーム「ソーマブリンガー」。
事前情報はまったくなかったのだけれど、店頭で見かけて面白そうだったのでちょっと調べてみた。
“音楽：光田康典”
懐かしい名前を見かけた。そして、私はやり残していた宿題のことを思い出した。
そう、以前私は、クロノトリガーとクロノクロスというゲームについて書く、と約束していたんだった…。
１．クロノトリガーとは？
ＳＦＣ時代、スクウェアのＲＰＧ全盛の頃に、ドラクエの鳥山明氏と堀井雄二氏がスクウェアと手を組んだということで話題を呼んだＲＰＧ。ミリオンを超えてダブルミリオンヒットを達成している。
ストーリーは主人公のクロノが時間を越え、過去、現在、遥か未来で大活躍するというもの。過去に起こる悲劇を未然に防いで滅びの未来を回避するなど、わかりやすい完全懲悪のストーリーだ。
しかし、表向きシナリオは堀井雄二氏が書いたことになっているが、これはプロットの提供のみだったらしく、実質的なシナリオライターはゼノギアスと同じ、加藤正人氏である。
２．クロノクロスとは？
プラットフォームをＰＳに移行して発売されたクロノトリガーの「続編」。そのストーリー等には賛否両論があり、売り上げは前作の半分以下となった。こちらには堀井氏、鳥山氏は関わっていない。
ゲームの難易度など批判されている点はいろいろあるが、ストーリーに対する否定的な意見として「複雑でわかりにくい（これに関してはそのとおりというしかない）」というものの他に「名前を借りただけの別モノ」「クロノの名を冠するに値しない」という意見が多い。
３．クロノクロスとクロノトリガーの関係
クロノクロスはクロノトリガーの続編だ。ではなぜ「クロノトリガー２」と銘打たなかったのか。
製作者自身が設定資料集でこう言っている。
「１０ではなく、９の評価をもらうストーリー」
なぜ、１０の評価をもらえないのか。
クロノクロスを「最低」と評価するサイトのレビューは、たいてい言を尽くしてその存在を否定している。クロノクロスはクロノトリガーの続編ではない、というのだ。また、なんと製作者自身も「これはパラレルワールドのストーリーであり、直接の続編ではない」と、ある意味で逃げを打っている。
なぜか？
それは、前作の主人公たちの扱いのせいと思われる。
実は、クロノ、マール、ルッカという、トリガーの中心である３人の主人公は、クロスの世界では誰も生きていない。ただ登場しないというのではない。舞台となる世界は前作から十数年しか経っていないにも関わらず、３人はもうこの世にいないのだ。
クロノとマールの死に様は語られない。病死か戦死ではないか？ という憶測ぐらいしかされない。
ルッカはクロスのヒロイン「キッド」を孤児院で育てていたが、何者かの襲撃を受けて殺される。
それだけではない。
マール王女の国、マールディア王国は軍事国家パレポリに滅ぼされている。
トリガーで聖剣とされていたグランドリオンは、飢えて血を求める魔剣と化している。
上に挙げたのはあくまでも一例だが、前作のプレイヤーにとって思い入れがあると思われる要素はほとんど、ことごとく酷い状態になっている。
トリガーの熱狂的なファンが、クロスを否定したくなる気持ちもわからなくはない。前作で支払った努力や犠牲を、なかったことにされているのだから。
だが、前作の主人公たちの扱いに、ちゃんとした理由があるとしたら？
もし、クロスのメインテーマが、そこに隠れているとしたら…？
４．罪を犯したのは誰か
ここからは、私自身の推測を交えて話していこう。
クロノとマールを殺したのは「フェイト」であると推察される。ルッカがフェイトに殺されたことは作中でも明示されているが、クロノとマールを殺したのも、恐らくフェイトである。
では何故、３人は殺されなければならなかったのか。
トリガーで、ラヴォスの手によって滅びに瀕した未来に３人が飛ばされるシーンがある。
ルッカがいう。
「こんな未来認めない！ 歴史を変えちゃおうよ、クロノ！」
そして選択肢が表示される。
はい、か、いいえ、か。
もちろんいいえを選ぶことはできない。トリガーの物語が成立しなくなるからだ。だから主人公のクロノは、いやそれを操作するプレイヤーは、はいを選ぶ。
歴史を改変する道を選ぶのだ。
「きゃぷてんＸ ボトルシップ号の冒険」という作品に、こういう言葉がある。
「時間の不可逆性を否定して過去へ！ 時間の連続性を否定して未来へ！
その行為は相対的に、被験者以外のすべての宇宙を否定することだ！ 宇宙全体から時間を強奪する行為だ！
そんなことはこの宇宙の誰にも許されない行為なのだぞ！」
…と。
時間を自分の都合のいいように書き換えることは罪なのだ。
だから、その報いを受ける。
それが、クロスのテーマである。
トリガーの原始時代において、クロノたちは、エイラや原始人を悩ませていた竜人を退治する。
それは、竜人の未来を封殺することだ。存在するはずだった竜人たちの時間を消し去ることだ。竜人は文明社会を築き、繁栄し、未来で「ディノポリス」という街を築いたはずだった。それがその存在を否定される。
クロノたちがラヴォスを倒し、未来を変えようとした結果、タイムクラッシュが巻き起こり、世界は幾つもの並行世界を作り出す。
全ては繋がっているのだ。
クロノとマールを殺したのはフェイトだ、と述べた。
ではフェイトとはいったい何者か？
トリガーにおいてラヴォスを倒し、滅びの未来を変えたクロノたち。ということは、つまり「滅びの未来に本来存在したはずのもの」は消滅することになる。
前作の主人公の１人「ロボ」と、未来世界のボス「マザーブレイン」はそんな「消滅するもの」の代表格だ。
ロボとマザーブレインはクロスの世界には存在しない。代わりにロボを原型にルッカが作り出したコンピュータ、つまり「フェイト」が存在する。
「フェイト（運命）」とは皮肉な名前だ。
クロノたちが未来を変えることがなければ、フェイトは存在しなかった。フェイトの存在は、歴史改変の象徴とでも呼ぶべき存在だ。
そして、フェイトはクロノ、マール、ルッカを殺した。単なる死ではない。その死に様さえ語られない、いわば「消滅」だ。
しかし、クロノたちが歴史を変えた余波を受けた者たちもまた、彼らの手によって同様に「消滅」したはずなのだ。これは「因果応報」というべきではないだろうか。
時間を変えることが罪だとするならば、罪を犯したのは誰か。
例えば、テイルズオブディスティニー１の主人公の１人リオンは、話の途中で仲間を裏切る。彼は続編の２でその罪を背負い、仮面で顔を隠し、偽名を名乗って主人公を助け、贖罪を果たそうとする。
クロノクロスにおいては、前作で罪を犯したクロノは消滅することでその罪を償った。クロノクロスはクロノの贖罪の物語ではない。
ここで先の選択肢の話を思い出して欲しい。歴史を改変することを選んだのは誰か？
それはプレイヤーだ。
クロノクロスは、プレイヤーが贖罪を求められる物語なのである。
2008年03月24日(月)
|
|
|
