季節風
若葉



 ある日曜の昼下がり

微かに震える心臓にメスが入れられた瞬間、

真っ赤な噴水が噴き上がる。


みるみる血に染まって行く氷水の池を、

セルセーバーが吸い上げて行く。


そして、

リットル単位の濃厚赤血球で満たされた

人工心肺の回る音が、

手術室内に響いていた。




そういえば幼い頃、

「一度停められた心臓が再び動き出す瞬間に、

神の存在を実感した」と語った

元心臓外科医の経験を聞かされたことがあったっけ。


そういう感性を失わなかった人になら、

「信仰」という賜物が

与えられるものなのかも知れないな・・・。




そんなことを想いながら、

メスにこびりつく血液を黙々と拭き取っていた。

2000年04月04日(火)
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