マンドリンの練習に行った。 駅でマンドリンのケースを持っていたら、年配の女の人に、 「そういう箱持ってる人結構見かけるけど、中に何の楽器が入ってるの?」 と聞かれた。 ちょっと楽しかった。 ところで、私は思い出というものが嫌いだった。 しかし年をとってきたせいだろうか、最近はいとおしいもののような気がし始めた。 私の好きな南Q太のマンガにこんなシーンがある。 「お前と酒を飲むのはホント楽しいな」 という、昔の男によく言われた科白を、主人公が夢の中で見る。その夢のことを友達に話すと、 「そういうのは、宝物だよね」 と言われる。なんだかとても好きなシーンだ。 べつに後ろ向きとか、今でも好きとかそういうことではなく、きっと、そういう科白はいつまでも心の中であたたかいものなんだろう。 向田邦子のエッセイに、 「大人になったら、反芻が一番楽しい」 というようなことが書かれていたと思う。 思い出というのは本当に楽しく、あたたかく、そして終わったあとも変わって行くものだ。 綺麗に変わって行った思い出は、決して現実には蓋を開くことなく、でも心の中だけで大事に箱に入れてたまに覗くのが、大人の楽しみ方なのかもしれない。
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