- 2008年03月07日(金) ぼくは、デフォルメぼくに話しかけた。 冷静に話しているがそのときのぼくは目の前のできごとに圧倒されっぱなしで、下校時のこのときまで、彼と「話す」ということを思いつかなかった。 「田中君。ちょっと。」 ぼくは彼に呼びかけた。 同姓同名らしい、というのはわかっている。 「お?」 デフォルメが振り返った。 「なんだよ。田中じゃん。」 デフォルメは、ぼくに向かって軽く手を振る。 互いにクラスメイトである、という前提認識は成立しているらしい。 ぼくは彼の横に並んで歩き始めた。 何から話そう、と思っていたら向こうから話を振ってくれた。 「なあ、田中。」 「うん。」 「今日の転校生の女さ。」 「斉藤さん?」 「ああ、そいつ。むかつくよなぁ。」 「そうかなぁ。」 「人の顔見るなり、あんな顔するなんてさ。失礼なやつだぜ。」 『だぜ』…。 「でも、ちょっとかわいいんじゃない?」 「げー!どこがだよ。あんなガサツな女。」 「ところでさ。」 「なんだよ。」 「転入生の斉藤さんって、クラスに元からいた斉藤さんと似てるよね?」 デフォルメには、こちら側はどう見えているのだろう。 ぼくはそれを聞いてみようと思った。 「へ?斉藤?サックス吹いてるやつ?」 「ああ、そうかな。たぶん。」 「トロンボーンっていうんだっけ?あの首から引っかけるの。」 「サックスでいいと思う。」 「まあなんでもいいや。それと何?今日の転校生が?」 「似てるよね。」 「…。」 腕を組んで首をひねるデフォルメ。 首のひねり方が赤塚不二夫の登場人物を彷彿とさせるような芸術的なまでにまんが的なもので、ぼくは思わずほれぼれと見とれてしまった。 「…似てるかなぁ…。」 心底思い当たる節がないような様子だった。 「じゃあさ。ぼくと田中君はどうかな。」 「は?俺とお前?」 「そう。」 「似てるかどうか?」 「うん。」 「はぁ?何言ってんのお前?」 いぶかしげにこちらを見つめ返すデフォルメを見て、そうなのか、とぼくは思った。 向こうからは、こっちに同じ人間がいることはわからないんだ。 「いや、いい。ごめん。」 「お前、今日ちょっと変だぜ?」 「語尾に『だぜ』をつけるのはやめたほうがいいよ。」 「どうでもいいだろ?」 「今どきそんなことば使う人いないって。」 「お前、今日ほんとにどうしたんだよ? 何か悪いものでも食ったんじゃねぇの?」 なんだか疲れてきたので、彼と会話するのをやめた。 -
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