- 2008年03月06日(木) 斉藤さんは家が学校に近いそうで、デフォルメのほうが登校する過程を後ろから観察することができたらしい。 斉藤さんが見たのはまったく予想通りの展開だ。 曲がり角で、トーストを食べながら走ってきたぼくと衝突したのだ。 「なによ!いきなり飛び出してくるなんて!」 「そっちこそ、ちゃんと前見て歩けよな!」 みたいなやり取りが交わされ、互いに険悪なムードのまま別れたのだという。 これが教室での先ほどの一連の光景につながったのだ。 斉藤さんと首をひねっていてもわかることではなく、結局そのぐらいで話は終わった。 下校時はチャンスだ。 ぼくは彼を観察しながら帰ることにした。 彼は学生かばんを小脇にはさみ、両手をズボンのポケットに突っ込んで歩いている。 ひどく不自然な歩き方だ。かばんが重そうで仕方ない。 「あいつ、なんなんだよ…。」 何やらつぶやいている。 斉藤さんのことだろう。 「でも、ちょっとかわいかったよな…。 いや、でも憎ったらしい女だよな!」 そこに斉藤さんがやってきた。 両手で前にかばんを提げて歩いている姿を見るに、デフォルメ斉藤さんだろう。 ふたりは並んだ。 「…なんだよ。」 「そっちこそ何よ。」 「俺んちはこっちなんだよ。ついてくんなよ。」 「なによ。あたしの家もこっちなのよ。」 「…ふん。」 「フン!」 見ているほうが気恥ずかしい。 やがて斉藤さんの家のほうに曲がる曲がり角に差しかかった。 「…じゃあね。」 ぶっきらぼうに斉藤さんが言う。 無視して歩き続けるぼく。 かわいくないな。 「…ねえ!」 斉藤さんがぼくを呼んだ。 思わず振り返るぼく。 「…今朝は、ごめんね。」 斉藤さんが、ぼくを見て謝っている。 「え…。いや、こっちこそ…。ごめん…。」 ぼくも、ほっぺたを人さし指で掻きながらなんとか謝る。 「明日から、ヨロシクね!」 絶対にカタカナだ、そう思わせるイントネーションで斉藤さんはさわやかに笑った。 「…お、おう。 お前も転校してきたばっかで、大変だよな。 なんかわかんないことあったら、その…何でも聞けよな。」 にっこりと笑顔を見せ、くるりとターンして斉藤さんは走って行った。 「結構、かわいいとこあるじゃん…。」 ぼくは、斉藤さんの後ろ姿を見送りながらぽつりとつぶやいた。 本物の斉藤さんといっしょでなくてよかった。これはちょっと気まずい。 本物は確か吹奏楽部員だから、今頃は部活動に勤んでいるはずだ。 -
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