日記...マママ

 

 

- 2008年03月05日(水)

ある朝目覚めると、ベッドのわきにもうひとりのぼくがいた。

確かにぼくなんだけど、ぼく本人より、いろいろなところが少しずつデフォルメされていた。
たとえば寝ぐせの形、パジャマのストライプの幅、めがねのフレームの形。
すべてが一見無秩序を装いながらも実は完璧に調和していて、ひとつの完成された模式図となっている。
一見無秩序で本当に無秩序な本当のぼくとは、そこが決定的に違っていた。

まんがだ、とぼくは思った。
このぼくは、まんがに出てくるぼくだ。
計算しつくされた無造作。つくられた自然体。

この調子だとまんがのぼくは、遅刻寸前であることに気づき、学ランの袖に腕を通しながらトーストを口にくわえ、小脇に学生かばんを挟んだままスニーカーをつっかけて「やばい!遅刻だ!」と叫びながら玄関を飛び出すのだろう。

ぼくは、雑穀ごはん、豆腐と油揚げの味噌汁、卵焼き、しゃけフレークの朝食を食べながら、彼の様子を観察した。
確かに歩いて行けば確実に遅刻だが、ぼくは自転車通学だ。
したがってぼくが遅刻することはない。

朝ごはんをゆっくりと食べたぼくと、ただあたふたしてやっとのことで着替えただけの彼は、ほぼ同時に家を出た。
果たして彼は、前述の通りの行動をとるのだった。

いくら走っていると言っても彼のペースに合わせていては本当に遅刻してしまう。
仕方なく、ぼくは彼を置いて行った。


学校に着いた。
友人が、転校生が来た、とうわさしている。
そうなんだ。
でも今は10月の半ばで、どうしてこんな時期に転校生がやってくるのか、ちょっと不思議だなあ、と思った。


担任が教室に入ってきた
「えー、転入生の紹介です。」
入ってきたのは、女の子。

あれ、と思った。
斉藤さんじゃないか。
斉藤さんは同じクラスの女子で、普通に入試を受けてこの高校に入学したはずだと思うんだけど。

ぼくは斉藤さんの席を見た。
そこには斉藤さんが座っている。

あれ?

前を見る。
ちょっと恥ずかしそうにうつむいて教壇に立っているのは、やっぱり斉藤さんだ。

そのとき、もうひとりのぼくがふいに叫んで席をがたんと立った。

「あーっ!」

すると前に立っているほうの斉藤さんも彼を見て

「あーっ!」

と何かいやな顔をしている。

「お前は!」
「あんたは!」

ふたりの声が重なった。
互いを指差しながら気まずそうに見つめ合っているふたりを見て、担任は言った。

「なんだ。知り合いだったのか。」

この展開だと、次は隣どうしの席になるのかな。
ぼくは思った。

しかし、ちがった。

「それじゃ、斉藤の席はあそこだから。」

担任が指差したのは、副委員長の佐上さんの隣に用意されていた机だった。
佐上さんは心得た様子で、にこっと斉藤さんに笑いかけた。
事前に聞いていたんだろう。

ぼくは考えた。
デフォルメ人間どうしだと、デフォルメされたストーリー展開が成立するらしい。
ふたりが隣どうしにならなかったのは、担任がデフォルメ担任ではなかったからだろうか。

昼休み。
佐上さんは、仲のよい女子数人と一緒に、転入生のほうの斉藤さんに
「校内の案内をする」
と声をかけている。
斉藤さんはうなづいて、笑顔で立ち上がった。

教室を出るとき、デフォルメ斉藤さんとデフォルメぼくの目が一瞬合った。
ぼくは両手を頭の後ろで組んで、ぷいっと目をそらした。
斉藤さんは

「フン!」

とほっぺをふくらませて出て行った。

ここで女子たちの

「田中ったら感じ悪いわね!
 気にしなくていいわよ、斉藤さん!」

みたいな声が飛んでくるかと思ったけど、佐上さんたちは微妙なほほえみを浮かべながら黙ってふたりの様子を見ているだけだった。
たぶんデフォルメじゃないんだろう。

ぼくは、もとからクラスメイトだったほうの斉藤さんに話しかけた。
斉藤さんの体験および世界認識は、おおむねぼくと共通していた。

「朝起きたら、隣にいた。」
と斉藤さんは言っていた。
「ぼくがふたりいるってことに、誰も違和感を感じてないみたいなんだ。」
「わたしもそうだよ。」
「気づいてるのは、ぼくだけ?」
「たぶん。」
「なんか、まんがっぽいよね。あの人たち。」
「そうそう。わたしも思った。」
「なんなのかな。」
「なんなんだろうね…。」


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