食いつぶすことと、とかげ 改3 - 2007年05月06日(日) 彼女との逢瀬ののち、バイバイして駅のホームを歩み去って行く後姿。 「世界が終わったようだった。」 ばなな本は実はあんまりよくわからなくて、わたしが好きなのは「キッチン」「満月」「つぐみ」と、それと短編の「とかげ」ぐらいしかない。昔のばっかり。最近の本は輪をかけてわからない。「とかげ」と聞くとまずはこの短編を思い出す。中でも印象的なのがこのフレーズで、「世界が終わったようだった。」唐突だなぁ。と思うけれど、その唐突さが身をもって迫ってくるからおもしろい。 今日は世界が終わる夢ばかりを見た。 ひとつめ、学園もの。たぶん最初は教師対生徒だったんだろうと思うけど、そのうち教師側・生徒側それぞれから造反組が現れ出して、混沌とした殺し合いへと話が進んでゆく。荒涼とした町並み、校舎に侵入するには地下通路を通らなければならない。ミイラ化した死体が累々と積み重なっている。いたるところにこびりついた血痕、瓦礫の山、ほこりにまみれた同志達。悲しい気持ちだった。 ふたつめ、書道のお話。わたしは何度やっても上手に字が書けなくて、夜中、延々と練習を続ける。書道の巧みさと化粧の上手さは比例する。師範に昇段を求めて自分の書を見せに来る者はみな、正装して顔に化粧を施している。とても美しい。今日も先輩がひとり昇段した。 その師範の下で特に長く書道を続けている女性がいて、名前が「静香」といった(なんかありきたり)。わたしは毛筆だけでなく硬筆でさえ上手に書けない。枠線も自分でひかなければならないらしかったのだが、その線がまっすぐにひけない。何度やっても斜めになったり重なり合ったりにじんだり。線の引き方を、何時間も、何日も、練習し続ける。 毛筆では「静」の字を何度も何度も、気が狂ったように練習する。 テレビ局が来ている。その「静香」という人と師範との絆の深さを取材している。すばらしいことだ、とわたしは感銘を受けながらその様子を見守っている。そこへひとりの弟子が、我流の書を師範に見せる。どこか挑戦的な態度。格好の題材だ、とテレビ局も食いついて、みなが師範の反応を固唾を呑んで見守る。師範はやわらかく微笑むが、やはり昇段は認められない、という返事。弟子は頭をかきながら明るく苦笑する。師範のことを敬愛しているのはみな一緒。ほっとする。その日の晩、宴のさなか、神殿の床下で、先ほどの我流の書を見せた弟子がひとり、何がいけなかったのか思索にふけっている。そこに静香がやってくる。あぁ静香さん、尊敬の眼差しで振り向いた瞬間、静香の張り手が飛んだ。いったい何を考えているの。静香の静かな怒り(シャレではない)。彼もかっとなって、静香に応戦する。いつの間にか、ふたりは蛇と虎へと姿を変えている。どろどろとした怨念。それはわたしにだけ見える。深手を負ったのは静香のほう。食いちぎられた下半身を引きずりながら、ずるずるとうごめいている。 新星が現れる。うら若き希望の星。 師範は彼に、教えのすべてを惜しみなく託してゆく。砂が水を吸い込むように、教えをぐんぐんと吸収してゆく。 「そうだ、この人に練習相手になってもらうがいい」 師範は、神殿の床下へと続く石の扉を開いた。 そこには下半身が食いちぎられたまま息も絶え絶えに這いずり回っている、痛々しい姿の静香。 師範は変わらず穏やかな表情で、愛弟子に「さぁ」と促す。 「できません」 おびえた表情でかぶりを振る。 「この人には、僕はそんなこと」 「そうかね」 やはり穏やかな表情のまま、師範はうなづいた。 「仕方ない」 こうして世界は終わってゆく。 過去の知識だけを食いつぶしている。 新しいことを吸収しようとしていない。 できない。 何か巨大な圧力や圧迫がないと、わたしは新しいことを吸収することができない。 圧力があったとしても、その効果は本当に微々たるもの。 死に向かっている。 まだ20代のくせに、と嘲笑されるのかもしれないけれど。 わたしは確実に死に向かっていると思う。嘘じゃない。事実だ。 年がいくつだろうと事実なんだ。それは。 背中を押されて「しなさい」と言われないと、何も、できない。 早く早く、さあ、早く。 そうやって早足で、死に向かう。 わたしが、気が狂ったように線をまっすぐに引く練習を続けていると、師範が通りかかった。 そうして、美しく字を書くコツをひとこと教えてくれた。 わたしは「してやったり」とほくそ笑んだ。 それをはなから狙って、わざわざ師範の目に付きやすいところで練習をしていたのだから。 努力している姿を見せさえすれば、あらゆる人心を動かすことができる。 なんて青臭く、世間知らずな発想なんだろう。 わたしの教室で前に先生をしていた人の記録からは、そんな価値観のもとで仕事をしていたんだなぁ、というのが見てとれる。わたしよりだいぶ年上の人なのに、それは真実ではない、ということに気がつくきっかけを得ることができなかったんだろうか。気の毒な人。 スタッフさんを自分の思うように動かすにあたり、自分がいかに苦労しているか、いかに大変か、を切々とアピールしている。やさしいスタッフ達はその気持ちを懸命に汲んで、先生の負担を減らすべく、それぞれに良識を働かせながら動く。しかしそれがうまく機能していない。肝心の指示やビジョンが不明確だからだ。先生はますます落胆し、スタッフは「まだ足りないのか」と無力感に浸る。不協和音。 お互いに漂う「わたしはこんなにがんばっているのに。」という不平。 「やりたいことが、何もなくてもいい。」 「生きてるだけで、すばらしい。」 魔法の言葉。 それでもわたしは、見捨てられませんか? 変なの。 2年前と同じ。 でも必死になることも、ときには大切。 追い立てられるように、やるべきだと思っていることを履行していくべきだ。 もっともっと、もっと自分を追い込んで。 ------------------------------------------------------------ 前から気になっていた「からくりオデット」を読んだ。 とりあえず気は散った。 よかった。 いや、よくない。 ほら、やって。 今やるべきこと、たくさん。 たくさんたくさん、やってしまって。 ほら。ほら。 いやだ。 やりたくない。 頭が痛い。ぐらぐらする。 吐き気がする。 めまい。 痛い。頭が痛い。 えーと。 名前忘れた。 今読んだばっかりで、もう忘れた。 直次郎? 健次郎? 久太郎。 あと10日。 誰も助けられない、わかっている。 でも、お願いだから。 助けて。 --------------------------------------------------------- 改しまくり。 薬を減らすことだ、という結論に至った。 ごまかすことは簡単で、でもずっと、もやもやする。 だから、ごまかす一助となっている薬を減らす。 体調が維持できればよい。 ぼんにゃりした頭のままで、生き続けることは、確かに。 できるかもしれない。 でも、できないかもしれない。 現にわたしは、さっき、何をしようとした? 逆説的だけれども、でも、ごまかし続けることの苦しみと、直視して、―できるのかどうかはわからないけれども―乗り越えるための苦しみと。 どっちが楽? もう、そんなの、考えるまでもない。 明日、病院で相談しようと考えている。 --------------------------------------------------- もう「改」とか書かなくてもいい気もするんだけれど。 久太郎。ヒサタロウ。 わたしはこの話を読んで泣きもしないし、ほろ苦い感傷に浸ることもない。 そんなことは、わたしには許されていないからだ。 ただひとこと、そういう感情に襲われそうになった自分自身に 「ばっかじゃないの。」 それから何も、身動きが取れない。 僕を捨てるの? 捨てるの? 気まぐれで彼を家に持ち帰った主人公とわたしは、何も違わない。 気まぐれで持ち帰り、気まぐれで絆をつくってしまったこと。 ごめんなさい。 抱えきれない。 助けて。 お願い。 助けて。 誰にも助けを求めることなどできないけれど、お願いですから、本当に、お願いですから、せめて、せめて、一緒に悲しんでくれたら、それでいいから、それで十分だから、涙も出ない。わたしは泣いてはいけないからだ。わたしは悲しんではいけない。わたしは泣いてはいけない。わたしはいつでも幸せそうに笑っていなければならない。だから泣かない。わたしはいつでも笑っている。ほら。笑える。大丈夫。そんなふうにつくられた、別のロボット。死んだ猫を見て「わたし、猫大好き」とほほえむロボット。やっぱり同じ。なんか含蓄のあるまんがだなぁ。 あぁ。いかん。 これがごまかしだ。 こうして、スープに溶かし込むように、なかったことにしてしまおうとする。 感じないふりをする。 だいぶ考えたのだけれど、ごまかしたくない、というのが本日出た結論で、だから、ごまかさないよ。うん。 16日は、研修がある日だった。 お休みをもらうことは簡単なのだけれども、じゃぁお休みをもらって、それで、どうなるのかな? お墓参り、お墓参りをして、それで。 そのまま、帰る。 けれど確かに思うのは、17日、きっと、まだ学は生きていた。 きっと。 確証はない。 けれど、そんな気がする。 17日まで、あの子はきっと、生きていた。 「まりさん」と呼んだ声が。 聞こえた。 確かに、聞こえた。 そして、腕を、ぱたり、と振り下ろした音が。 呼んでたんだ。 絶対。 呼んでた。 呼んでた。 だめ、逃げてはいけない。 考えて。 ほら、もっと。 考えて。 考えて。 もっともっと。 そのときのわたしの心情は? 逃げないで。 考えて。思い出して。 「まさか?」 「まさか。」 「気のせいだよ。きっと。」 「もう、行かなきゃ。」 「まさか。」 「また、来よう。」 逃げるな。考えろ。 可能性は、ちらりと脳裏をよぎった。 それを、放置した。 そう、放置した。 ポイント。 ここがわたしの人生を分かつポイント。 逃げないで。 ずっとずっとずっとずっと、ずっと、考え続けて。 そして、ずっとずっとずっと、苦しみ続けて。 もっと。もっと。 -
|
|