橋本裕の日記
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| 2007年10月03日(水) |
日本企業の社会負担率 |
日本経済新聞の調査によると、大企業経営者の7割が「税制の抜本改正」を望んでいるそうである。税制改正のテーマとして、法人税率引き下げを柱とする「企業の国際競争力」をあげた経営者は95%にのぼっているらしい。
<調査は13日から14日にかけて実施。メーカー、金融機関、流通、商社など大手43社のトップから回答を得た。企業に課す各種税金の合計実効税率(1月時点)を見ると、日本は40.7%(大手会計事務所調べ)と経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の27.8%を上回る。調査は法人減税に対する産業界の期待を裏付けた。
企業に課す各種税金の合計実効税率(1月時点)を見ると、日本は40.7%と経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の27.8%を上回る。調査は法人減税に対する産業界の期待を裏付けた>(日経新聞9月16日)
この統計だけ見ると、欧米と比べていかにも日本企業の負担が大きいように受け取れるが、ほんとうにそうだろうか。統計をもう少し批判的に見てみよう。
まず、<実効税率(1月時点)を見ると、日本は40.7%(大手会計事務所調べ)と経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の27.8%を上回る>というのは間違いない。財務省の統計をみれば一目瞭然である。
ただしOECD平均値が低いのには理由がある。それは欧州がとくに低いからだ。アメリカの場合を見ると、日本よりも実行税率が高くなっている。たとえばニューヨーク州の場合は45パーセント。カルフォルニア州でも41パーセントだ。
それではなぜ、フランスやドイツなど欧州の法人税率が低いのか。それには2つの理由がある。一つは消費税率の違いだ。日本企業の場合は5パーセントですむが、欧州の企業は20パーセントを超える税率をかけられている。消費税は「付加価値税」と呼ばれ、企業も物品を購入した場合など、かなり払っている。財務省の統計を見れば、その様子がわかる。
たとえばイギリスは法人税の実効税率は30パーセントだが、そのかわり、付加価値税は17.5パーセントもある。様々な優遇措置はあるとしても、建前としては日本の3倍以上の消費税を欧州の企業は支払っているわけだ。
さらにもう一つ、企業の公的負担として大きくのしかかっているのが、社会保険料だ。これが欧州の企業では大きい。したがって企業の社会負担率をいうのであれば、単に法人税の実効倍率でいうのではなく、この3者の綜合値で判断すべきである。その負担率(GDP比)は次のとおりになっている。
日本 7.6パーセント ドイツ 9.1パーセント フランス 14.0パーセント
フランスの企業は日本の2倍くらい社会負担金を払っている。これでは競争にならないということで、とうとうサルコジが政権をとった。
いま企業には金があまっている。経済誌「エコノミスト」によると、企業の余剰金は04年の一年間だけで16.2兆円も発生し、82兆円にも積み上がっているそうだ。企業の負担を増やすと国際競争に負けるなどという財界の言い分はどうみても現実とあっていない。森永卓郎も「構造改革の時代をどう生きるか」で、こう書いている。
<2002年から2007年の5年間で、名目GDPは22兆円増えた。つまり、今回の景気拡大期に我々は成長の成果を22兆円手にしたことになる。その成果は、どのように分配されたのか。
GDP統計では雇用者報酬という項目で労働者が手にした報酬の総額を見ることができる。この雇用者報酬を5年前と比べると、5兆円減少しているのだ。つまり、成長の成果が22兆円もあったのに、働く人へは一銭も分配されなかったどころか、5兆円も分配をへらされていたのだ。
しかも、5年間で家計部門は5兆円の増税を受け、4兆円の社会保障費負担増を受けている。家計は合計14兆円も手取りが減ったことになるのだ。
一方、成長の成果を独り占めし、さらに労働者への支払いを5兆円も減らした企業部門は、当然ながら絶好調になる。上場企業の決算が5年連続で増益になったのも、そのためだ。そのなかで、企業が株主に支払う配当金は5年で3倍になった。そして大企業の役員の一人当たりの報酬は5年で倍増した。
その一方で、サラリーマンの年収は8年連続で減り続け、さらに年収100万円程度の非正規社員層が劇的に増えた。「労働調査」によると、2007年3月の非正規社員数は1726万人で、5年前に比べると320万人も増えている。非正規社員の占める比率は34パーセントで、働く人の3分の1以上が低賃金層になってしまったのだ。
OECDが06年に発表した加盟国の貧困率ランキングでは、日本は米国に次いで第2の貧困率の高さになっている。一億総中流社会は、はるか彼方に去り、日本はすでに格差国際大会で銀メダルを獲得しているのだ。
富める者はますます富み、庶民がズルズルと沈んでいく。それにもかかわらず、相変わらず国民は構造改革路線を支持し続ける。それは一体何故か。
小泉構造改革がもたらしたのは、単に格差拡大だけではない。拝金主義も同時にもたらしたのだ。その拝金主義が構造改革を支える原動力になっている>
森永さんが独協大学のゼミで、学生に「自分が社会に出た後、いわゆる勝ち組になれると思っている人」と質問したら、20人中2人だけだったそうだ。ところが、「それでは、一夜にしてホリエモンのような大金持ちが生まれるような、弱肉強食だけどチャンスがある社会の方がよいと思う人」と聞くと、今度はほぼ全員が手を上げたという。
9月17日の朝日新聞によると、電話による無作為世論調査(有効回答1152人)の結果は、小泉前首相から続いてきた経済成長や競争重視の改革路線について、「受け継いでほしい」という回答が54パーセントで、「そうは思わない」の36パーセントをかなり上回っているらしい。
たとえ格差が広がっても、一攫千金のチャンスがあるほうがよいと多くの人が考える社会を、評論家の二木啓孝さんは「パチンコ型社会」と呼んでいる。パチンコ社会の住民は、負けが込んでも、パチンコを止めることはできなくなる。
小泉式のアメリカ式構造改革を続ければ、日本はさらに貧困率の高い格差社会になっていく。新しく誕生した福田政権のキャッチフレーズは「自立と共生」「希望と安心」だという。掛け声だけに終わらず、国民生活優先の政策を実行すべきだ。日本の政治は企業と株主優先の弱肉強食社会ではなく、庶民にやさしい共生社会を目差してほしい。
(今日の一首)
あきあかね我を追い抜き振り返る 大きなまなこモノ問いたげに
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