橋本裕の日記
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5年半にわたる小泉構造改革がもたらしたものは何か。それは日本経済を大企業と株主優先の体質につくりかえ、庶民からお金持ちへと所得移転を恒常的に可能にするシステムをつくりあげたことだろう。
これによって日本は世界でも有数の格差社会へと変貌してしまった。たとえば1997年から2007年までの10年間で、国民所得においてつぎのような顕著な変化が見られた。
1.勤労者の所得は、20兆円減る。(5兆円以上増税。社会保険料7兆円以上アップ) 2.企業利益は27兆円増加。(1兆円以上減税) 3.株主は配当が増え、12兆円も潤う。(優遇税制で増税は1兆円未満)
これでは庶民は浮かばれない。それではどうやったらこの富者優先のしくみを変え、大多数の国民が幸せにくらせる国づくりができるか。この点について、私は日本青年会議所の「経済復興プラン(案)」がよくできていると思う。一部を引用する。
<市場原理とは本質的に非情な弱肉強食の世界であり、強い者は勝ち続け、最終的には一握りの「勝ち組」と大多数の「負け組」で構成される階層社会に行き着く。そんな市場原理の欠陥を補い、全ての国民を救うのが日本の経済政策のあるべき姿である。またそのように国民を救ってこそ、国民は国家を愛することができる。国民の幸せを祈る天皇を象徴とする日本ならではの経済システム(全国民を一人前に育てる仕組み)の確立に向け「経済復興プラン」を提言する>
<日本経済を立て直すため小泉内閣は「小さな政府」を標榜し、構造改革による財政再建を計った。しかしその結果は政権発足後5年間たってもデフレを脱却できず、逆に170兆円の借金増という無残な結果に終わっている。なぜ構造改革は成果を上げることが出来なかったのか。それは「構造改革の欠落」が日本経済低迷の根本原因ではなかったからである>
<政府の借金の残高である政府債務残高の規模も、名目GDP比でみると先進国中最悪の水準である。国と地方の長期債務残高は06年度末には約775兆円に達する見通しである>
<格差が拡大するのは経済規模が拡大しない中で、規制緩和による過当競争が繰り広げられるからである。政府が景気対策を実施し、十分に景気が拡大すれば経済的背景に起因する諸問題は自然に解決の方向へと向かう>
<十分な景気拡大とはその恩恵が全雇用の7割を占める中小企業や、地方に波及することである。そのためには政府が率先して投資を促し名目成長率を上げる手立てを施す必要がある>
<法人所得税の見直し・・・現在大企業は史上最高益を上げ、キャッシュフローの中で債務を縮小し、なおかつ設備投資を行っている。しかも関連中小企業に利益を還元する気配はなく、相変わらず締め付けを行っている。強い立場をいいことに明らかに儲けすぎである。もはや大企業(資本金1億円超)に対しては特例税率30%を維持する理由はなく、即座に本則税率の34.5%に戻すべきである。さらに外形標準課税を強化し所得の再配分を計るべきである>
<個人所得税の見直し・・・所得税に関して高額所得者の税率を上げ、中低所得者の減税を実施し、富の再配分を強化するべきである。一世帯が生む子どもの数には限度がある。したがって全ての世帯が安心して子どもを生めるよう配偶者控除、扶養者控除を強化する必要がある。さらに人口減少に歯止めをかけるために第3子以降には分厚い扶養控除を与えるべきである>
<経済成長にはもう一つのアプローチがある。それは我々国民が消費を拡大することである。個人消費はGDPの6割を占める。つまり国民が今より10%多く消費を楽しめば、それだけでGDPは6%押し上げられ、国の財政問題などはたちどころに解消する>
<「貯蓄が悪、消費は美徳」という話ではない。ただ必要以上の貯蓄(お金を貯めること自体が目的化している貯蓄)は景気に悪影響を与えること。逆に自分たちの生活の質を向上させる(環境に配慮しつつ豊かな消費を楽しむ)ことが経済を発展させ、ひいては自分たちの所得を上げることを理解する必要がある>
<日本経済を発展させ、格差を是正するためには国内でお金をグルグル回すことが必要である。現実的には民間にお金を使えと命令することができない以上、国が財政出動を行うしかない。つまり現在の緊縮財政から積極財政へと政策転換をしなくてはならないのである>
<物価が上昇する中で、金利が低く抑え続けられると、預金の実質的価値が目減りする。その結果投資が過熱してバブルを引き起こす危険性が出てくる。バブルは弾けると一気にデフレへ突入するため、未然に防がなくてはならない。しかしながらこのような心配はデフレを脱却し、景気が過熱気味になってからすればよい>
<小泉政権による構造改革は財務省主導による歳出削減、規制緩和による市場原理の徹底と不良債権処理と称する弱者切捨てといえる。国民は2年間痛みに耐えるように言われたがが、その結果は二極化の加速であった。05年の貯蓄ゼロ世帯は23.8%と小泉政権発足前の00年の12.4%から2倍増となり、生活保護世帯は105万世帯に達している>
<本来の税制は所得の再配分の観点から考えると、高所得者が多く支払い、所得の少ない人を優遇すべきである。しかし政府は「税制の簡素化、フラット化」という口実で、富裕層を優遇している。所得再分配機能が停止し、所得格差がどんどん開く仕組みになった日本の税制は、強者が弱者をいたわるという日本の伝統的価値観を完全に見失っている>
<特に小泉政権が発足してからは株式譲渡益と配当に対する課税を時限的に半減(20%→10%)し、相続税の最高税率を70%から50%に引き下げる一方で、配偶者特別控除の上乗せ部分の廃止、定率減税の全廃、サラリーマンの医療費窓口負担を三割に上げ、厚生年金と国民年金の保険料も値上げを行うなど、高所得者に優しく、中間層、低所得者に対して厳しい内容になっている>
<「経世済民」という経済の語源が指し示すよう、日本において経済政策とは国民を救うための手段である。上に立つ者は常に弱者のことを考え、富の再配分を十分に考慮し、極端な格差を是正することが安心して暮らせる社会を実現する。高潔で利他のこころ溢れる日本の伝統的価値観を取り戻すことが「美しき日本」を甦らせる>
個人消費のGDPに占める割合は60%もある。これに対して外需はわずか2%程度に過ぎない。ところが多くの国民はこの実態を知らない。外国に製品を売りつけて利益を出さなければ景気はよくならないと思い込んでしまっている。
こういう誤解があるので、景気が悪くなると外需中心に生産性をあげて供給を増やそうとする。小泉構造改革路線がまさにこれだった。ところが、リストラや賃金カットをして生産性を上げると、供給は過剰になり、個人消費が落ち込んだことに加えてますます需要は逼迫する。
こうして小泉政権の構造改革はますますデフレを長期化させてしまった。それでは日本の景気を回復させるにはどうしたらよいのか。それは小泉構造改革と反対のことをすればよい。つまり性産性を上げて供給を増大させるのではなく、需要を増大させる政策を優先的に展開することだ。
そのために国民所得の公平な分配をうながし、福祉・教育や医療のセーフティネットを構築し、国民が安心してお金がつかえる社会を実現すること。そうすれば内需を中心に経済は活性化し、財政再建も不可能ではない。「経済復興プラン」のこうした主張はまさに正鵠を得たものだと思う。
http://www06.jaycee.or.jp/2006/soul/economic/uploads/plan.htm
(今日の一首)
衣替えわれも今日より長袖で 河原歩けばこころも秋色
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