橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2007年09月30日(日) 現代の錬金術〜借金の証券化

アメリカ政府は巨大な財政赤字を計上しているが、それほど気にしていない。これはこの財政赤字を国債発行によって埋めているからだ。日本や中国、産油国などがアメリカ国債を大量に買ってくれる。

アメリカがイラク戦争を始めた2003年には、日本政府は33兆円ものアメリカ国債を購入している。これによってアメリカは大部分の戦費をまかなった。イラク戦争では自衛隊の派遣が問題になったが、この大量の米国債買いは問題にならなかった。小泉政権はこれを景気対策という名目で行ったからだ。森永卓郎も「戦争をしない平和に暮らす経済学」という本のなかでこう書いている。

<その年、日本の買ったアメリカ国債は33兆円にのぼります。税収45兆円程度。しかも、自らも国と地方を合わせると何百兆円という借金を抱えていた国が、よその国の国債を33兆円も買ったのです。常識では考えられない行為です。それなのに当時、日本国内ではまったく問題にされませんでした。なぜなら、「景気対策」という形をとっていたからです>

アメリカ政府はこのように国債を発行して赤字を補填する。それでは一般の家計はどうだろうか。これもじつのところ巨大な赤字である。

たとえばアメリカの住宅ローンの残高は1500兆円($13兆:2007年直近)もある。アメリカ人はどうしてこんな巨大な借金ができるのだろうか。その秘密は「現代の錬金術」ともいわれる「負債の証券化」という金融工学の最新の手法にある。

米国では、「住宅ローンの金利と元本の回収権」を証券にして売り出す方法が一般化している。たとえば、ある人が3000万円を銀行から借りて家を買ったとしよう。

このとき銀行はこの3000万円のローンの元本と金利を回収する権利を「証券化」して売り出す。証券が高く売れれば銀行はもうかる。証券ととみに元金や金利を失うが、そのかわりローンが焦げ付いたときに不良債権化するリスクから逃れることができる。

 こうした「証券化」という最新の金融工学の手法で作られた住宅ローン担保証券を「MBS(Mortgage Backed Securities:資産担保で裏付けられた証券)」と言っているわけだ。

 じつのところMBS証券の残高は、$5.7兆(655兆円)で、米国の国債市場(約400兆円)より大きく、日本の国債残高に匹敵するほど巨額である。

 さて、この証券を買ったほうはどうか。住宅市場が活況であり、住宅価格が右肩上がりであれば、ローンが返せなくても住宅そのものの担保価値があがるので、住宅を担保にした証券の信用がうしなわれることはない。

その上、配当金として比較的高い金利を得ることができる。とくに低所得者向けのサブプライムローンは金利が20パーセント近くもあり、高利回りを要求されるファンドを中心に大量に買われた。

つまり住宅ローンのような負債を証券化することで、銀行はリスクを回避できる。そこでますます住宅ローンがかりやすくなり、アメリカは住宅景気に湧いたわけだ。

 日本は政府が1000兆もの借金をしており、これが問題になっているが、個人は1500兆円もの金融資産を持っている。日本の場合は国が借金をしている分、国民は金融資産をもっている。

 アメリカは国も借金をしているが、国民も住宅ローンをはじめ莫大な借金を抱えている。国は国債を売り出して世界中にばらまき、国民は証券という民間債を発行して、これを世界中にかわせている。これが最先端の金融工学を使った現代の錬金術である。

 しかしこれが行き過ぎると、バブルになり、弾けたときがこわい。政権は証券化され、これをアメリカものならず世界の多くのファンドや金融機関が購入している。だからこれが不良債権になれば、金融不安が世界中に広まる恐れがあるわけだ。

 とくに住宅の資産価値が下がると、住宅を担保にした証券は不良債権化するリスクが大きくなり、証券の信用度が急降下する。残高1500兆円ともいわれる住宅ローンの中で十数パーセントは低所得者向けのサブプライムローンである。今これが焦げ付き始め、国際問題になっている。

(今日の一首)

 あかつきの光が照らす田んぼ道
 犬と歩いた草いきれの道


橋本裕 |MAILHomePage

My追加